ゼオガンダル遺跡。再突入
出発前。
ジェラルド、リィンがヴァランタン邸の庭に集まってきた。
「おはようございます」
「ちゃんと寝れて疲れも吹き飛んだぜ」
「おはよ。ふぁああ」
ミシュリーヌは眠そうだ。
「ジュリア様」
ヴァランタン家の家令がやってきて、ジュリアに耳打ちした。
「遺跡調査隊から定期連絡がありません」
ジュリアは目を閉じた。
「……またですか」
「何があったんでしょうか」リィン。
「変な罠にでも引っかかったとか?」ジェラルド。
「研究に夢中になって忘れている可能性もあります」
ジュリアが即答した。
「もう。さっさと行きましょうよ」ミシュリーヌ。
「ええ。急ぎましょう」
ジュリアは呆れながらも転移門を開いた。
◇
ゼオガンダル山脈遺跡。
「バルトルト殿!無事ですか!」
振り返るボサボサの髪の三人組。
「おお、ジュリア殿」
見た目とは打って変わって普通に元気である。
なんなら顔色も良くツヤツヤしている。
「何かありましたか?」
「いや?」
全員無事。
「では何故定期連絡が途絶えたんですか……」
研究室のようになった制御室。
壁一面のメモ。
床一面の羊皮紙。
「ごめん。忙しくて忘れてたわ」
「楽しすぎて忘れておった」
「だって新発見が多すぎたんです」
エリザが反論する。
「この制御室だけでも未知の術式が二十七種類」
「二十七!?」
ゲルダも興奮気味に頷く。
「しかも自己修復機構付きです」
「動力制御も見たことがありません」
エリザが興奮冷めやらぬ顔で補足する。
「飛行術式の痕跡もあったぞ」
老ドワーフもニコニコと自慢げに語る。
「それで徹夜していたと」
「はい」
エリザが平然と答える。
「はいじゃありません」
ジュリアが額を押さえる。
「やっぱりな」
ジェラルドがやれやれと、座り込んだ。
「それよりも、あの壁。黒くないですか?」
リィンの言葉に。
ジュリアの動きが止まった。
ジェラルドの顔からも笑みが消えた。
「……どこです?」
ジュリアがやや硬い声で訊く。
リィンが指差す。
崩れた岩壁の奥。
そこだけ色が違った。
黒い。
まるで粘土のように。
ぬらぬらと光を反射している。
四年前。ヴァランタン公爵領の鉱山で見たものと、よく似ていた。
「……」
誰もすぐには口を開かなかった。
「もしかして」
ミシュリーヌが呟く。
「おい」
ジェラルドの声が低くなる。
「まさか」
ジュリアも眉をひそめた。
「ん?あれか。装置を再起動しようとしたら、地震が起きてな。気づいたら崩れておった」
「あの時は驚いたわね」
「動力源につながる魔力経路が短絡していたらしくてな。この装置が何故動作しないのか。結局わからんままじゃ」
バルトルトが髭をもみながら言う。
その時だった。ジュリアの〈魔力検知〉に、壁の向こう側の反応が引っかかった。
一つ。
また一つ。
さらに一つ。
まるで眠っていた何かが目を覚ますように。
次々と。
「……多いですね」
ジュリアが呟く。
その瞬間。
休憩していた『蒼穹の道標』の斥候レオンが勢い良く立ち上がった。
「おい、なんか来るぞ!!」
視線は黒い壁の方向。
他の冒険者三人も即座に武器を構える。
空気が張り詰めた。
―――ドゴォン!
黒い壁が崩れ落ちる。
ザラザラ。
サラサラ。
ズルズルズル……
穴からでてきたのは、アビス・ターマイトではなかった。
砂。
大量の砂。
「……砂?」
砂が。もぞもぞと動いている。
一体、二体、三体。
次々と現れる砂の塊。
人型。
いや、違う。
どこか歪だ。
手足が短い。
頭部も不自然に大きい。
そして歩くたびに。
ザラザラと砂が零れ落ちる。
「サンドゴーレム?」
レオンが呟く。
「ミレーヌ!撃て!!」
クライヴが叫ぶ。
「〈蒼爆炎〉!!」
ミレーヌの杖から青い光線が迸る。
強化爆炎魔術。サンドゴーレムを穿つ。
だが、砂を撒き散らしただけで、ダメージを受けない。
背後に着弾した爆炎魔術が轟音を響かせた。
爆発の余波は壁や天井を揺るがし、小さな土砂崩れを起こす。
サンドゴーレムはその砂を集めてすぐに体を再構成する。
ジュリアを警戒しているのか、砂の山のような形のまま蠢くサンドゴーレム達。
だが。
ジュリアは眉をひそめた。
「……違いますね」
ジュリアが呟く。
「何がだ?」
ジェラルドが訊く。
「サンドゴーレムなら核があります」
視線は砂の魔物へ向く。
「ですがあれは……核の反応ではありません」
ジュリアが腕をかざす。指先が術式を練る。
選んだのは、魔力装填式長筒に使われる、空気を破裂させる単純な術式。
パァン!!
甲高い音とともに、サンドゴーレムの一体が砂煙を上げて弾ける。
ズルリ。
胸部の砂が崩れた。
カチカチカチ。
砂の奥。
一瞬、何かが蠢いて見えた。
巨大な顎。
黒光りする外殻。
だが。すぐに砂がそれを覆い隠した。
「あれは…?」
クライヴが目を細める。
ジュリアは数秒、瞬きをする。
そして小さく頷いた。
「虫です」
「虫?」
「正確には、砂で擬態しているのでしょう」
サファイアの瞳が魔物を追う。
「あれはサンドゴーレムではありません」
「じゃあ何だ?」
「虫です」
即答だった。
「ただの虫には見えねぇぞ」
「砂限定の世界干渉型でしょう」
ジュリアが砂の群れを見据える。
「少なくとも、西側には存在しない系統の魔物です」




