対古代ゴーレム2
古代ゴーレムもただやられているだけではなかった。
背面の装甲が盛り上がると、アームに支えられたいくつもの穴の空いた箱が二つ出現し、肩にガシャン、ガシャンと設置される。
瞬間、いくつもの追尾弾が射出される。
螺旋、八の字、くねくねと曲がりながらバルトルト・グリムゾンやゲルダ・ストーンホルム、そして冒険者達に襲いかかる。
「ちょっと!あんなの無理!!」
単筒を二丁構え、最初は撃ち落とそうとしていたが、思ったより数が多すぎる。
堪らず逃げ回る。背後に次々と着弾。
「はっはっはっは。面白い兵装じゃのう!!」
老ドワーフ、バルトルトがパワードスーツの腕に付いた回転式長筒をバリバリと撃ち、追尾弾を撃ち落とす。表情は満面の笑顔。トリガーハッピー状態だ。
「ちっ!!こんなもの!」
冒険者のリーダー、クライヴが舌打ちしながら剣を振るい切り落とす。
「〈魔術障壁〉」
「守れ、障壁!!」
ミレーヌとセレスが魔術障壁を展開して防ぐ。
その後ろ、空中でいくつもの追尾弾が爆発する。
「私にもサンドイッチを一つ下さい」
エリザ・クロネッカーが単筒の煙をフッと吹きながら言う。
「駄目です」
ジュリアは即答した。
「先にお仕事を済ませて下さい」
「……ケチですね」
「本物の戦場の厳しさはこんなものではありません」
「ただのお弁当ですよ?」
「駄目です」
エリザは不満そうに頬を膨らませる。
「早めに終わらせましょう」
「良い心がけです」
ジュリアは満足そうに頷いた。
「リィンちゃん! 戦闘形態! さっさと突破しますよ!」
「リョウカイシマシタ」
リィン・オメガの白いメイド服が展開される。白い装甲が四肢を覆い、両手には二本の光線剣が出現した。
「イキマス!」
背中から魔力翼が展開される。
ふわり、と一瞬だけ浮遊。
次の瞬間。
バシュン!!
爆風を巻き起こしながら、古代ゴーレムへ向かって一直線に加速した。
「なっ!?」
「速い!」
冒険者たちが驚愕する。
その様子を眺めながら、ジュリアがぽつりと呟いた。
「確かに、あの名前は紛らわしいですね」
「そうですよね!!」
黒猫獣人リィン(本物)が即座に反応した。
「エリザ。せめてオメガくらいにしなさい」
「可愛くありません」
「リィンちゃんも大概だと思いますが」
「可愛いは正義です」
キリッと眼鏡を上げるエリザ。全くもって意味不明だ。
リィン・オメガは古代ゴーレムを翻弄するように縦横無尽に飛び回る。迫り来る腕を紙一重でかわし、白い軌跡を描く光線剣が装甲を切り裂く。
斬撃。斬撃。轟撃をひらりと躱し、その勢いのまま、流れるようにまた斬撃。
次第に古代ゴーレムの装甲が剥がれ落ちていく。
「ふん。案外脆いわね」
エリザが鼻を鳴らす。
「いえ、リィン・オメガが強いだけでは?オリハルコン製の剣に魔力を纏わせて斬りつけています。そうそう切れない物の方が少ないかと」
ゲルダが冷静に言った。
「オリハルコン!!?」
それを聞いた魔導士ミレーヌが素っ頓狂な声を上げた。
「なんだそれ?」
斥候レオンが首を傾げる。
「……神鋼よ。神話にしか出てこないはずの鉱石」
「はあ? そんなもん、おとぎ話の代物だろ?」
「あの切れ味を見たでしょう」
ミレーヌが古代ゴーレムを指差す。
厚い装甲が、まるでバターのように切り裂かれている。
「……確かに」
レオンが顔を引きつらせる。
「俺のミスリル剣じゃ、まともに傷も付かなかったぞ」
しかし。その会話を聞いていた老ドワーフは、まるで何を今さらと言わんばかりだった。
「何を言っておるのだ?」
バルトルトが鼻を鳴らす。
「帝国ではオリハルコンなど珍しくもないぞ」
「顧問」
ゲルダが即座に訂正する。
「帝国でも通常兵器に使うほど潤沢ではありません」
「細かいことじゃ」
「細かくありません」
冒険者たちは揃って頭を抱えた。
基準がおかしい。
そんなやり取りの最中も、リィン・オメガはくるくると飛び回り巨大な古代ゴーレムを削り続けている。
いずれあんな武器を手に入れてみたいと、冒険者達は思った。
「じゃが、もう一歩というところか」
バルトルトの目が鋭く細められる。
崩れ落ちた装甲の奥。
赤く脈打つ結晶体が見えた。
「ほう」
おそらく動力核。あれを破壊すれば終わる。
そう確信した老ドワーフの口元が楽しそうに吊り上がった。
「なるほど。弱点はあそこじゃな」
操作盤をいじり、パワードスーツの魔導砲をチャージさせながら呟く。
「私たちも撃ちましょう」
エリザ言うと、ゲルダも単筒の弾倉を入れ替え、カチャリと撃鉄を引くと、構え直す。
魔道士ミレーヌも杖を握り直す。
「これで終わりじゃ!! 斉射!!」
再びパワードスーツの魔導砲と浮遊砲台が青白い光線を放つ。
「〈火炎術〉!!」「撃て撃て!!」
背後からもミレーヌの火炎術、エリザ、ゲルダの単筒が火を吹いた。
ドドドドドォォォン!!
静寂。
「こんどこそやったか?」
その瞬間だった。
カッ。
眩い閃光。
「っ!?」
視界が真っ白に染まる。
直後。
ドゴォォォォォン!!
轟音。
衝撃波。
冒険者達がまとめて吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
「きゃあっ!」
エリザもゲルダも岩壁へ叩きつけられた。
バルトルトのパワードスーツが自動的に障壁を展開する。
それでも機体は数メートル押し戻された。
しかし拒絶術式の恩恵だろうか。リィン・オメガは平然と立っていた。
ガラガラガラ――
天井から岩が降り注ぐ。
土煙。
悲鳴。
咳き込む声。
数秒後。
ようやく煙が晴れ始めた。
「……あたた」
バルトルトが腰をさする。
「まったく……こんな洞窟で自爆など、趣味が悪いわい」
土煙が晴れていく。
吹き飛ばされた冒険者たち。
岩壁に叩きつけられたゲルダ。
咳き込みながら起き上がるエリザ。
そんな中。
ピクニック組だけは無傷だった。
周囲の地面が半球状に盛り上がり、まるで壁のように彼らを囲っている。
ジュリアは紅茶を飲んでいた。
ミシュリーヌはサンドイッチを食べていた。
リィンは呑気に果物を齧っていた。
「美味しいですね」
「でしょ?」
言いながら、ミシュリーヌが周囲の岩の障壁を消した。
全員の視線が集まる。
ジェラルドだけが微妙な顔をしている。
「……なあ、流石に気まずくねーか?」
沈黙。
「……今さらです」
ジュリアが即答した。




