目覚まし
ジュリアは眠り続ける探索隊を見渡した。
全員の身体に同じ術式が絡みついている。
緑の魔力で編まれた複雑な構造。
しゃがみ込み、術式を観察する。
(一般古典魔術には存在しない術式ですね)
精神浸食に対する安全性に対する配慮。概念の構造、それぞれを構成する式の列挙定義と再帰経路。
術式の圧縮方法。
どれも見慣れた人類の魔術とは異なる。
「どう?」
ミシュリーヌが覗き込む。
「おそらくは古代ドワーフ文明の術式ですね」
「わかるの?」
「完全には」
ジュリアは術式転写紙へ次々と構造を書き起こしていく。
「ですが……」
そこで少しだけ目を細めた。
「美しいですね」
「そこ?」
「概念化の方法が非常に合理的です」
感心したように呟く。
「いや、それより起こせるの?」
「たぶん」
ジュリアは術式を解析しながら指先で魔力を組み替える。
「眠らせたのなら、反転も可能でしょう」
術式をカチリと起動する。
淡い光が広がった。
◇
「う……」
最初に反応したのはエリザだった。
続いてゲルダ。
バルトルト。
冒険者達。
順番に目を覚ましていく。
「……なぜ、ジュリアがいるの?」
第一声だった。
ジュリアのこめかみに青筋が浮かぶ。
「起こしてあげたのに、第一声がそれですか」
「仕方ないじゃない」
「大変申し訳ない。我々が付いていながら」
A級冒険者パーティ『蒼穹の道標』のリーダーのクライヴが済まなそうに言う。
「この遺跡はヤバいわ」
エリザは即座に言った。
「扉を開けたらボスがいたの」
「はい」
「なら戦おうと思った瞬間」
「うん」
「床の魔法陣が光った」
「うん」
「気づいたら寝てた」
「なるほど」
ジェラルドがゴーレムを見上げる。
「じゃあ、あのデカブツの術式じゃなかったのかよ」
「違うじゃろうな」
答えたのはバルトルトだった。
床へ腰を下ろしたまま髭を撫でる。
「この遺跡は元々、人が運用する施設じゃ」
「それが?」
「侵入者を眠らせる」
「うん」
「その後、警備隊が豚箱へ放り込む」
「うん」
「その方が効率的じゃろう」
「ああ」
妙に納得した。
確かにその通りだった。
「じゃあ、あのボスは?」
ジェラルドが正面の巨体を指差す。
巨大ゴーレムは微動だにしない。
まるで彫像のようだ。
バルトルトは肩を竦めた。
「知らん」
「知らんのかよ」
「ダンジョン化した際に勝手に発生したんじゃろう」
「適当だな」
「適当ではない」
老ドワーフは立ち上がった。
そしてゴーレムを見上げる。
「じゃがな」
「?」
彼の目が細くなる。
「あの形状、儂のパワードスーツに似ておろう?」
全員が見比べた。
言われてみれば似ていた。
「つまり?」
「古代ドワーフ文明の機兵を模倣した存在じゃろう」
バルトルトがニヤリと笑う。
「少し興味が湧いてきたわい」
バルトルトの纏っているパワードスーツの背中から、浮遊砲台が四つ射出された。
「倒す必要あるの?」
ミシュリーヌが首を傾げた。
「あのゴーレムの背後を見て下さい」
護衛冒険者のクライヴが指を差す。
その先。
巨大ゴーレムの背後には、小さな扉が見えていた。
「なるほど」
ジュリアが頷く。
「あれでは向こう側へ行けんじゃろ?」
バルトルトが補足した。
「つまり」
ジェラルドが背中の大剣を引き抜く。
「ぶっ倒せばいいってことか」
「ジェド」
「なんだ?」
ジュリアが腕を組んだ。
「ひとまず彼らに任せてみましょう」
「なんでだ?」
「元々、彼らの仕事です」
視線を向ける先には護衛として雇われた冒険者たち。ジェラルドやミシュリーヌが居れば、ゴリ押しできる可能性があるが、ジュリアは国として雇った手前、きちんと彼らに仕事をさせてあげたいと思った。
「我々が手を出す必要があるかどうか、まず見極めたいのです」
「全員眠ってた時点で頼りないが?」
「それはそうですが」
即答だった。
冒険者たちが少し傷ついた顔をした。
「いや、待ってください」
クライヴが抗議する。
「不意打ちだったんですよ」
「しかも初見殺しだ」
「普通なら対処不能だろ」
「むしろ生き残っただけ褒めて欲しい」
仲間たちも次々に声を上げる。
「いや、守ってたのは、このメイド型魔道具だろ?」
ジェラルドがリィン・オメガを指指す。
冒険者達は黙り込んだ。
「リィンちゃんは強いのです」
エリザがドヤ顔している。
「ほんとに紛らわしいので、改名を要求します」
本物のリィンが抗議の声を上げた。




