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転移魔法の練習

 新連邦中央庁舎、裏庭。

 ジュリアとミシュリーヌは、ダークエルフの少女メイヴィエッタから転移術式を教わっていた。


「転移の術式は、一度訪れたことのある場所や、強く認識した人物の近くへ移動することができます」

「この術式、構成を見てもよく分からないのですが……原理はどうなっているんですか?」


 術式転写紙に書き写された複雑な術式を睨みながら、ジュリアが首を傾げる。


「そう言われましても……私も分かりません。エイダン様から教わっただけですので、詳しい理論までは……」


 メイヴィエッタは少し困ったように笑った。


「術式を使うまでもないわね」


 隣から声がした。

 つい先ほどまで隣にいたはずのミシュリーヌが、なぜか頭上から手を振っている。


「……もう理解したのですか?」

「なんかできた」

「そうですか」


 魔力反応は感じられない。どうせまた何かズルをしているのだろう。

 ジュリアは深く考えないことにした。


「しかし、思いの強い相手の近くへ飛べるというのは興味深いですね」


 ジュリアが術式転写紙から目を上げる。


「以前現れた魔族は、私のすぐ近くへ転移してきたように思えましたが」

「思いの強さは、親密さである必要はありません」

「つまり?」

「悪意でも構いません」


 メイヴィエッタはさらりと言った。


「強い感情であれば、転移対象になります」


 沈黙。


「ジュリア、恨まれすぎじゃない?」


 いつの間にか隣へ戻ってきたミシュリーヌが言う。


「知りませんよ」


 即答だった。


「そういえば、魔族が現れる前に空気中の魔力が均されるような感覚がありますが、あれは何でしょう?」

「それは隠蔽用の黒魔術との併用ですね」


 メイヴィエッタが説明する。


「転移先を確認するため、一度中間領域へ潜り込むのです」

「中間領域?」


「亜空間のようなものです。そこから外の様子を観察して、安全を確認してから出現します」

「なるほど」


 ジュリアは頷く。


「転移先が岩の中だったら笑えませんからね」

「笑い事ではありません」


 メイヴィエッタが真顔で返した。


「実際に死にます」

「それは困りますね」


 真面目な顔で頷き合う二人。


 ミシュリーヌは少し離れた場所から見守っていた。


「とりあえず試してみましょう」


 ジュリアが立ち上がる。


「多分、ジェラルドになら飛べるでしょう」

「随分自信があるのですね」

「彼はだいたいどこにいても見つけやすいので」


 よく分からない理屈だった。

 ジュリアは目を閉じる。

 初めて扱う術式。

 しかも黒の魔力を用いる。


 慎重に術式を組み上げる。

 紫色の魔力が収束し、目前に球体が形成される。


〈転移〉


 空間が揺らいだ。

 紫色の転移窓が開く。


 ――成功。


 そう思った次の瞬間だった。

 転移窓が弾けるように消えた。


「え?」「へ?」「あれ?」


 三人の声が綺麗に重なる。


 沈黙。


「失敗したようですね」


 ジュリアが少しだけ肩を落とした。


「お恥ずかしい」

「初めてなんだし、そんなものじゃない?」


 珍しく失敗したジュリアを、ミシュリーヌが慰める。


 しかし。

 メイヴィエッタだけは首を傾げていた。


「そんなはずは……」

「?」


「転移窓が開いた時点で術式は完成していたのです」

「そうなんですか」

「はい」


 ダークエルフの少女は困惑した顔で空間を見つめる。


「途中で消える理由が分かりません」

「不思議なことも起きるものですね」


 ジュリアはあっさり納得した。

 メイヴィエッタは納得していなかった。


 ◇


 一方、その頃。『龍殺し』として名を上げたジェラルドは仕事をしていた。

 冒険者ギルドからの依頼。


 放棄された村に住み着いたオークキングの討伐である。

 一人で十分だと思っていた。


 だが。


「めんどくせえ」


 思わず本音が漏れた。

 オークジェネラルが三体。さらに後方にはオークソーサラー。


 飛んでくる術式を斬り、接近してくるオークを斬り、また術式を斬る。

 数が多い。ひたすら多い。


 その時だった。


 すぐ隣の空間に、紫色の術式が現れた。


 ほぼ反射だった。


 剣が動く。斬る。


 紫色の術式は真っ二つになり、そのまま消滅した。

 オークキングの首も飛んだ。

 オークジェネラルも飛んだ。

 ついでにオークソーサラーも飛んだ。


 村に静寂が戻る。

 ジェラルドは剣を肩に担いだ。


「……何だ今の?」


 紫色の術式があった気がした。

 気のせいかもしれない。


 よく分からなかったので考えるのをやめた。

 とりあえず依頼達成である。

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