通信途絶
新連邦中央庁舎、代表執務室。
「遺跡へ向かったエリザ博士との定期連絡が途絶えました」
報告書を受け取ったジュリアが眉をひそめる。
「最後の連絡は?」
「昨日の夕刻です」
「内容は?」
「古代ドワーフ文明の施設らしきものを発見した、と」
執務室に短い沈黙が落ちた。
ミシュリーヌが顔を上げる。
「それって……」
「嫌な予感しかしませんね」
ジュリアが即答した。
ホドフリート・ヴァルロアが顎に手を当てる。
「捜索隊を出しますかな?」
「そうですね」
ジュリアは頷いた。
「もっとも、全滅したとは考えにくいのですが」
ミシュリーヌが首を傾げる。
「なんで?」
「バルトルト顧問やゲルダ主任は戦闘向きとは思えませんので置いておいて」
「うん」
ジュリアは指を一本立てた。
「護衛のA級冒険者が四人います」
「うん」
「何よりエリザがいます」
「それは安心材料なの?」
即座に返ってきた。
「つまり、魔改造されたアルケイネがいるという意味です」
「なるほど」
ミシュリーヌは納得した。
ホドフリートは納得しなかった。
「あれは戦力と数えてよろしいので?」
「少なくとも通常の魔物程度で壊滅する戦力ではありません」
妙な説得力があった。
その時。
静かに話を聞いていたダークエルフのメイヴィエッタが口を開く。
「では、転移術式を試してみてはいかがでしょうか?」
「転移術式?」
ジュリアが顔を上げる。
「私が普段使用している移動術式です。一度訪れたことのある場所や、強く認識した人物の近くへ移動できます」
「ああ、あの魔族が突然現れる術式ですか」
ジュリアが腕を組む。
「たしかに便利そうですね」
ホドフリートが咳払いをした。
「ジュリア嬢」
「なんでしょう」
「私は以前、メイヴィエッタ殿がその術式を使用する場面を見たことがあります」
「それが何か?」
「黒の魔力が使われておりましたな」
「そうですね」
ホドフリートは眼鏡の位置を直した。
「おおよそ人類が気軽に手を出して良い代物には見えませんでしたが?」
至極もっともな意見だった。
魔族の術式。
黒の魔力。
人類にとって未知の領域である。
しかし。
「我々は既に魔族と共闘しています」
ジュリアは平然と言った。
「今さら『魔族の魔力がどうこう』などと議論している段階ではないでしょう」
ホドフリートが目を細める。
「大胆ですな」
「使えるものは使うべきです」
「危険でも?」
「危険だからこそ理解する必要があります」
ジュリアは一拍置いて続けた。
「それに」
「それに?」
「エリザとの通信が途絶えています」
執務室の空気が変わる。
「待っているだけでは状況は改善しません」
静かな声だった。
「ならば確認しに行くべきです」
ホドフリートは数秒考え込み、やがて肩を竦めた。
「貴女はそういう方でしたな」
「どういう意味でしょう」
「止めてもやる」
「否定はしません」
「でしょうな」
ジュリアは小さく咳払いした。
「ですが」
「はい?」
「エウラーリア様には内緒にしていただけませんか?」
「無理ですな」
ホドフリートは即答した。
「そうですか……」
ジュリアは諦めたように肩を落とした。
それが一番難しい問題かもしれなかった。
「そもそも、エウラーリア様に知られたら怒られる、と理解した上で実行しようとしている時点で、貴女も問題行動だと認識しているのでは?」
「…………」
「反論は?」
「黙秘します」
ホドフリートが深々とため息を吐いた。
ミシュリーヌも面白がって参加する。
「ジュリア」
「……はい」
「自覚はあったんだ」
「黙秘します」
「それで行こうとしてたんだ」
「行こうとしていました」
「反省は?」
「していません」




