会談のその後
バルトルト・グリムゾンが退出し、共同研究所へ向かった。
その後も会談は続いていた。
帝国のハインリヒ・フォン・グロース全権外交武官が鷹揚に尋ねる。
「そのエルフの古代兵器、アルケイネと言いましたか? 『対魔族戦略技術共同研究条約』に基づいて残骸を要求したい」
「うっ。それは……」
ジュリアが口ごもる。
あれはかなりヤバい。あんなものが普及してしまうと戦争が変わってしまう。
「たしかに条約上は適用できますな。しかし……」
ホドフリート・ヴァルロアも言葉を濁す。
「何か問題でも?」
そこでエウラーリア・アストライア・ヴァランタンが扇をパチンと鳴らす。
「では、帝国は何を提示して下さいますか?」
「な、なにを?」
「今回我が国がアルケイネの残骸を回収したのは、娘たちの休暇中の出来事でした。戦場ではありません」
「それが?」
「我が国は既に貴国へ黒龍の素材を提出しております。しかし共闘していただいた対価でしたので問題はありません。ですが、アルケイネは別です。帝国は代わりにどんな見返りをご提示いただけますか?」
「む、それは……」
「帝国は誤解しておられるようですね」
扇が静かに揺れる。
「アルケイネは技術ではありません」
「?」
「未解析遺物です」
沈黙。
「つまり我が国は、まだその価値すら測れていない」
ハインリヒが眉をひそめる。
「だからこそ申し上げております」
微笑む。
「帝国は何を支払えるのかしら?」
その時、皇帝ジークムントがクックックと笑った。
「ハインリヒ。新連邦の言うとおりだろう。今回は我が国も対価を支払うべきだ」
◇
一方、その頃、共同研究所。
「しかしネーミングがいただけん。ベータ型なのにオメガとは何じゃ」
「試作機ですが、可愛さは最終到達していますので」
「意味が分からん」
「耳の機能は?」
「聴覚補強に役に立ちます」
「もっと大きく出来るじゃろ?」
「形状が重要なのです」
「何の形状じゃ」
「猫耳です」
「知らん」
老ドワーフが額を押さえた。
「そもそも、あの位置なら単筒や魔導砲を積めるじゃろう」
「可愛くありません」
「可愛い必要があるのか?」
「あります」
「何故じゃ」
「可愛いからです」
「循環論法じゃろうが」
「それに尻尾じゃ」
バルトルトが今度は後ろを指差す。
「あれは明らかに無駄じゃ」
「姿勢制御に寄与しています」
「カウンターウェイトなら棒と重りで良い」
「可愛くありません」
白い尻尾がゆらゆら揺れている。
「どう見ても浮遊砲台を六基は追加できる余剰演算領域じゃぞ?」
「尻尾の方が大事です」
「何故じゃ」
「可愛いからです」
「またそれか!!」
そこへジュリアが会談を終え、帝国の軍務関係者を伴って入ってきた。
ミシュリーヌ、そしてリィンも連れている。
「エリザ。アルケイネの調査はどうなっていますか?」
ジュリアが真面目な顔で尋ねる。
「可愛くなっています」
「答えになっていませんが?」
「既に佳境に入ったと言えます」
エリザは胸を張った。
ジュリアの視線が、後ろに立つ白いメイドへ向く。
「……その獣人は?人員を増やしたとは聞いていませんでしたが」
ハインリヒも眉をひそめる。
その時だった。
リィンが一歩前へ出た。匂いを嗅ぐように鼻を動かす。
「ジュリア様」
珍しく真面目な声音。
「あの個体、変です」
「変?」
「獣人ではありません」
その場の全員が白いメイドを見る。
さらに。
隣のミシュリーヌが首を傾げる。じっと見つめる。
「ジュリア」
「なんですか?」
ジュリアが振り返る。
「あの子、世界から切り離されてる」
空気が変わる。
「……は?"拒絶術式"?まさか……」
エリザが満面の笑みを浮かべた。
「紹介しましょう」
ぽん、と肩を叩く。
「ベータ型・魔導リィンちゃんオメガです」
メイドは綺麗なカーテシーを行った。
「ハジメマシテ。リィン・オメガ ト、モウシマス」
ニコッ。微笑む。
沈黙。
ジュリアのサファイアの瞳がゆっくりエリザを射抜く。
エリザが視線を逸らした。
「エリザ」
「はい」
「説明を」
「まずどこから説明すればよいでしょうか」
「全部です」




