帝国、動く
対アトネータイ戦の数日後だった。
アストライア新連邦国際空港。
そこへ。
突如、魔導帝国ゼノビアの飛空艇。皇帝専用機が着艦した。
その一報に、ジュリアは新連邦代表執務室で声を荒げた。
「は?聞いていませんが!?」
新連邦賓客の間。
「儂が魔導帝国ゼノビア皇帝、ジークムント・ウル・パルツァーである」
偉丈夫。髭。青銀の髪。オールバック。声も渋い。
「はじめまして。アストライア新連邦代表を務めています、ジュリア・アークライトです」
ジュリアも軍服風の礼服で、対応する。
ホドフリート・ヴァルロア、ランベール・ヴァランタンも握手を交わす。
皇帝の隣で。若き第三皇子、カイル・エル・バルツァーが苦笑いをしていた。
「久しぶりだね。ジュリア。貴女は少し、働き過ぎでは?」
「私が望まぬとも、世界が放ってくれないのです……カイル皇子」
ジュリアはうんざりとした顔で答える。
ホドフリートがコホンと咳払いをする。
「それで、どのような用向きで参られたのでしょうか?」
「まず突然の来訪、謝罪する。だが、今はそのような話をしているときではあるまい?」
「おっしゃるとおりですな」
「先日のゼオガンダル山脈を越えて来たアトネータイについて聞きたい」
ジュリアは簡潔に状況を説明した。
ジークムントは最後まで黙って聞いた。そして。
「待て」
「はい?」
「なぜ魔族と一緒に行動していた?」
ジュリアが固まる。
そこから説明すると長い。とても長い。ダークエルフから説明しなければならない。
「それは、先日偶然、ダークエルフ達と交流を持つ機会がございまして……」
「ほう」
ジークムントが眉を上げる。
「そう言えば、ゲルダ主任がエルフの古代兵器を研究中だと言っていたな」
「その兵器がダークエルフの兵力だったというか……」
ジュリアが遠い目をする。
「これはまた、話が長くなります」
沈黙。
ジークムントも察した。面倒な案件だ。
「……あとでゲルダから詳しく聞こう」
皇帝は静かに切り捨てた。
「今はそれを論じる時ではない」
「助かります……」
ジュリアが本気で安堵した。
「しかし……神話級生物が、理由もなく住処を捨てるとは思えぬ」
ジークムントが腕を組む。
「天変地夭か。あるいは人為的な何かか」
ジュリアも頷く。
「私もそう考えています」
「そして、神鳥はゼオガンダル山脈を越えてきた」
皇帝の視線がドワーフの老人バルトルト・グリムゾンへ向く。
「バルトルト爺」
「はいはい」
「お前、あの山脈について何か知っておったな」
「はい。あの山はかつて、我らドワーフ族の祖先達が住んでおった場所ですじゃ。東の文明に敗れ、強力な結界を築いて封印し、此方側へ逃げてきたのです」
「では、その跡地を抜ければ東側へ行けるのでしょうか?」ジュリア。
「うーむ。そこまではわからぬの…。じゃが、調べれば何か分かるやもしれません」
「では、調査だな」
皇帝が腕を組む。
「儂も行きたいところだが——皇帝の身。動くことかなわぬ。バルトルト爺、任せるぞ」
「父上は昨日からずっとソワソワしていらっしゃったのですよ」
カイルが静かに添えた。
「へ?」
「ジーク坊は昔から冒険に憧れていましたからな」
「こら!バルトルト!!」
◇
アストライア新連邦・国際共同研究所。
「ゲルダ!来たぞ!」
帝国の主席技術顧問のバルトルト・グリムゾンが勢い良く扉を開けた。
「え?バルトルト顧問? 何故此処へいらっしゃるのですか?」
ゲルダ・ストーンホルムがボサボサ頭のまま、素っ頓狂な声を上げた。
「エルフの古代兵器とやらを見せてもらいたい」
「そ、それはその」
「なぜ逐一報告書を上げん!!」
「没頭していてそれどころではなかったもので……」
「で、モノはどこに?」
老ドワーフがアルケイネ解析区画内を見回す。
アルケイネが固定されていたであろう、台の上には、既に何もない。
「それが、ですね……」
ゲルダが言いにくそうに言葉を濁す。
そこへ。
猫耳の白い獣人のメイドがお茶を出した。
「ソチャ、デ、ゴザイマス」
滑らかな手つきで紅茶を配膳すると、すっと下がる。言葉だけが妙にぎこちない。
メイド服のスリットからは、尻尾が伸びており、ゆらゆらと揺れている。
そのメイドをじっくりと観察した老ドワーフ。
「ゲルダ……まさか、このメイドは魔道具か?」
視線を背けるゲルダ。
「これはエリザの趣味です。決して私のではありません」
そして、廊下の扉がバン!と開かれる。
「ゲルダ。戻りました。……おや、そちらのご老人は、帝国の生き字引、バルトルト・グリムゾン様では?」
「彼女は?」老ドワーフ。
「新連邦の技術主任のエリザ・クロネッカー博士です」
「で、なんじゃ。これは」
老ドワーフが白いメイドを指さす。
「ベータ型・魔導リィンちゃんオメガです」
「だからこれはなんじゃ、と聞いておる」
「良くぞ聞いてくれました!! これは二足歩行が可能となった、改良型アルケイネⅠ型で、なんと喋れます」
ドヤ顔。
「……なぜ耳が?」
「可愛いからです」
「……なぜ尻尾が?」
「可愛いからです」
「……ゲルダ。説明せよ」
「つまりですね。共同研究の素材を、エリザ博士が勝手に、こっそり、魔改造してしまった。そういうことです」
「リィンちゃん」
エリザが呼ぶ。
「ハイ、マスター」
「戦闘モード」
「リョウカイ」
次の瞬間。
メイド服が展開。カシャンカシャン、シャキーン!
二刀流。背部から魔力翼。
ピクピクと動く耳。誇らしげに揺れる尻尾。
ビシっと決まった、バトルポーズ。
老ドワーフが固まる。
「……」
「エリザ博士」
「なんでしょう?」
「耳と尻尾は必要だったか?」
「絶対に必要です」




