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道を切り開く

 歩き出したミシュリーヌの隣に、ジュリアが追いつく。

 その後ろには、ジェラルド達一行と魔族のトップ達が続く。


 周囲は、けたたましく喚くハーピー達。


 その奥。


 人の背の二倍ほどもある巨体。


 黒い羽毛を纏ったアータル達が、無言で立ち塞がる。


「退いて下さる?」


 ミシュリーヌが言った。


 返事は無い。


 代わりに。


 ズシン。


 一歩。


 アータルが前へ出る。


 巨大な鉤爪が土を抉った。


「……そう」


 ミシュリーヌが少し困った顔をする。


「話し合いがしたいだけなんだけど」


 それでも退かない。

 アータル達は槍を構えた。


「ミリー」

「ん?」


「交渉相手はシームルグです」


 白銀の剣が鞘から抜かれる。


「なら、この程度は私達で何とかします」


 その後ろで。

 ジェラルドが肩を回す。


「やれやれ」


 リィンは静かに両手に短剣を構えた。


「護衛のお仕事ですね」


 ルカは大盾を前へ出す。

 セシリアは祈るように両手を合わせた。


 先頭のアータルが槍の石突きを地面へ叩き付けた。


 ドン。


「これより先は、神域。何人も通さん」


 まるで宣戦布告だった。

 周囲のアータル達も一斉に槍を構える。


 バサリ。


 先に動いたのはアータル達だった。


 一斉に黒い翼を広げる。次の瞬間。翼が大気を叩いた。

 轟音。巨体が宙へ浮かび上がる。

 巻き上がる砂塵。


 その視界を切り裂くように、ジュリアが右手を振るった。

 無詠唱。雷撃魔法。青白い閃光が走る。

 先頭の二体の槍へ電撃が絡みついた。


 だが、落ちない。

 巨体が僅かによろめいただけだった。


「硬いですね」

 ジュリアが眉をひそめる。

 その隙を逃さない。

 ジェラルドが踏み込んだ。


「おらぁ!!」


 大剣が大きく薙がれる。鋼と羽毛が激突した。黒い翼が切り裂かれる。

 体勢を崩したアータルが後方へ跳ぶ。

 その影から。リィンが現れた。まるで風だった。低く。速く。短剣が脇腹へ走る。


 だが。後方で待機していた二体のアータルが同時に槍を突き出した。

 鋭い殺意。挟撃。

 リィンは即座に身を沈める。槍先が頭上を掠めた。


 そのまま槍の柄へ片足を掛ける。

 くるり。

 身体が宙で回転した。


 遠心力を乗せた刃が首筋を掠める。

 鮮血。アータルが呻く。

 しかし。


「っ!」

 リィンの目が見開かれた。


 アータルの翼が広がる。

 次の瞬間。

 無数の羽根が射出された。それは羽根ではなかった。ナイフの雨のようだった。


「リィンさん!」


 セシリアの声。リィンの周りに緑色の防護結界のようなものが現れる。魔術ではない。祈りの現象だ。

 羽根の矢が膜に弾き返される。

 リィンは素早く宙で体勢を整えると、アータルの頭を踏み台に、仲間たちの許に飛んだ。


「意外と面倒ですね。戦い慣れています」

 ジュリアが分析する。


 その瞬間。左翼のアータルが槍を横薙ぎに振るった。

 轟。唸りを上げる一撃。


「跳んで!」


 ジュリアの声。全員が反射的に地を蹴る。

 リィン。ジェラルド。ジュリア。そして。

 ルカはセシリアを抱きかかえたまま跳躍した。


 だが。それこそが狙いだった。

 上空。闇夜を背負った一羽のアータルが翼を広げる。

 手には巨大な槍。それは、既に振りかぶられていた。


「っ!」


 投擲。空気が爆ぜた。凄まじい速度で飛来する槍。

 狙いは、無防備なセシリア。空中。回避は間に合わない。


 だが。


「ぬん!!」


 ルカが吼えた。大盾が遮る。凄まじい衝撃音。

 槍が弾かれ、夜空へと回転しながら飛んでいく。

 着地したルカの身体が数歩押し込まれる。だが、倒れない。


「鳥のくせに、頭いいじゃねーか、よ!!」


 ジェラルドが吼えた。握られた大剣が唸る。渾身の一振り。

 轟ッ――!

 斬撃が空気ごと薙ぎ払われた。空中で体勢を立て直そうとしていたアータルへ、直撃。


「ギャアアアッ!!」


 瞬間、黒い羽毛が散る。片翼が大きく裂ける。巨体が制御を失う。

 錐揉み。地面へ向かって真っ逆さまに堕ちていった。羽根を撒き散らしながら。


 その光景を、魔族達は後方から固唾を飲んで見つめていた。

 人族。脆弱で短命な種族。そう教えられてきた。


 だが。白銀の少女は先頭で剣を振るい。

 獣人は神域の番人と渡り合い。

 聖騎士は祈り子を守り。

 赤髪の少年は空中の敵を斬撃一つで切り裂いた。

 金髪の小娘は平然と神鳥へ向かって歩いている。

 誰一人として怯えていない。


 その姿はまるで――。


 黒い兜の奥で、バザラードが鼻を鳴らした。

 ゆっくりと、漆黒の大剣が抜かれた。


「我らも出るぞ!!」


 怒号。


「人族どもに遅れを取るな!!」


 一瞬の静寂。


 そして。


「「応!!」」


 咆哮が夜空を揺らした。

 老白竜が翼を広げる。誇らしげに。


 魔貴族が影を解き放つ。

 暗黒魔術師が杖を掲げる。殺意を持って。


 次の瞬間。


 魔族達もまた、神域への道を切り開くため駆け出した。

 そこから先は、乱戦だった。

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