報告会議3
「それと、もう一つ、重大な問題があります」
ジュリアが静かに言った。
その瞬間。
(嫌な予感しかしない)
その場の大人たち全員が、ほぼ同時にそう思った。
ジュリアは淡々と続ける。
「現在、撃破したアルケイネの残骸ですが、我がアークライト家の研究棟に回収しております」
エリザが小さく頷く。
「はい。現在、解析初期段階です」
「やめろ」
フィリベールが即答した。
「もう遅いです」
エリザも即答した。
頭を抱えるフィリベール。
ジュリアは容赦なく続きを告げる。
「そして厄介なことに、現在、新連邦は帝国と『対魔族共同研究条約』を締結しています」
ホドフリートが眉をひそめた。
「……抱え込み禁止条項か」
「はい」
ジュリアは頷く。
「正式名称は『対魔族戦略技術共同研究条約』。内容は単純です。……対魔族戦で得られた新技術・新素材は、原則として双方共有。そして――兵器応用も可」
沈黙。
「何が言いてえんだ?」
ジェラルドが腕を組む。
その横で、アルトゥール・ランカスターが静かに目を閉じた。
「なるほど」
低い声。
「ジェラルド。お前でも分かるはずだ。ダークエルフ達は、何を要求した?」
「……魔族との均衡?」
「違う」
アルトゥールが即座に切り捨てる。
「“これ以上、魔族を刺激するな”だ」
会議室の空気が、ゆっくり冷えていく。
ジュリアが静かに頷いた。
「我々がアルケイネの残骸を保持し続ける場合、条約上、帝国にも共有義務が発生します」
「つまり」
ホドフリートが資料を閉じる。
「帝国にも、この残骸が渡る……そして、帝国研究主任のゲルダ・ストーンホルムが見る」
沈黙。
「……ああ、こいつが二人いれば」
とジェラルドがジト目でエリザを見る。
ジュリアが補足する。
「加えて、帝国側には既に“黒”の魔力波演算技術があります。……最悪、アルケイネ系統の再現、あるいは劣化模倣に到達する可能性が非常に高いですね」
「待て」
ジェラルドが顔をしかめる。
「それってつまり、人類側が、勝手に古代兵器開発競争を始めるってことか?」
「……はい。どうしたら宜しいでしょうか? 皆様」
ジュリアが珍しくいたたまれなさそうに視線を逸らす。
沈黙。
メイヴィエッタも同様に困った表情だった。
「……だから、モーリガン様はあれほど頭を抱えていたのですね」
「当然でしょうな」
ホドフリートが疲れたように呟く。
「せっかく均衡を保っておったところへ、“量産型古代兵器の実物”が転がり込んできたのだ」
「しかも」
エウラーリアが優雅に紅茶を口へ運ぶ。
「それを拾ったのが、この子達」
視線が集まる。
ジュリア。
ミシュリーヌ。
ジェラルド。
エリザ。
ろくでもない面子だった。
沈黙。
重い沈黙。
フィリベール・アークライトは、ゆっくりと胃を押さえる。
そして、懐から見慣れた小瓶を取り出した。
カラン、と錠剤が掌へ落ちる。
「……飲むか?」
差し出されたのは、胃薬だった。
アルトゥールが無言で手を出す。
「貰おう」
ホドフリートも静かに頷く。
「わしにもくれ」
ランベールは深く溜息を吐いた。
「必要になると思っていた」
と言って自らも胃薬を取り出した。
エウラーリアだけは優雅に紅茶を口へ運びながら、
「私は結構です」
と微笑んでいる。
だが扇子の奥の目は笑っていなかった。
ジュリアが困惑したように周囲を見る。
「……そんなに深刻でしょうか?」
「深刻だ」
「深刻ですな」
「深刻ね」
「深刻だろ」
綺麗にハモった。
――その時だった。
コンコンコン。
「失礼します!!」
会議室の扉を開けたのは、ギルベルト・ノイエンブルク新連邦辺境伯だった。
「エンギュロイ森林国から急報です!――ケンタウロス族が亡命してきたとの報告です!」




