報告会議2
会議室は静かに、だが重い空気に包まれていた。
冷めかけたカップから立ち上る湯気だけがゆっくりと揺れる。
「しかし、“管理者”と来たか」
ランベール・ヴァランタン公爵が、低く呟いた。
「つまり我々人間は、知らぬ間に魔族に“飼われていた”。そういうことか」
ホドフリート・ヴァルロア侯爵が、長い髭をゆっくりと撫でる。
「……辻褄は合う。王国史には、妙に説明の付かぬ出来事がいくつもある」
老侯爵の目が細められた。
「魔族が“勝てた戦”で退き、人類が“滅ぶ戦”で攻めて来なんだ」
アルトゥール・ランカスター辺境伯も腕を組み、低く唸る。
「北方砦の春季攻勢だ。あれは妙だった」
歴戦の武人の目が鋭くなる。
「数は居た。だが統制が甘すぎる。まるで、“攻め落とす気が無い”ような戦だった」
「つまり?」
フィリベール・アークライト侯爵が問う。
「我々を油断させるための“演出”だった可能性がある」
重い沈黙。
その空気を切り裂くように、エウラーリア・アストライア・ヴァランタン公爵夫人が扇で口元を隠したまま、静かに言った。
「そして今、その均衡を維持していた側の“秘密兵器”を、貴女が撃破した」
紫水晶のような瞳が、ジュリアへ向けられる。
「歴史が動いたのね」
ジュリアは静かに首を横へ振った。
「私だけではありません」
即答だった。
「総力戦です」
ジェラルドも頷く。
「だな。あれは一人でどうこうできる相手じゃねえ」
ミシュリーヌも珍しく真面目な顔で言う。
「あれは無理よ。一人じゃ絶対に崩せない」
しかし。
エリザだけは資料から顔も上げず、淡々と口を挟んだ。
「武器次第では、一人でも可能です」
沈黙。
全員の視線が集まる。
「ほう。その武器というのは?」
とアルトゥールが身を乗り出す。
エリザが口を開きかける。
「それは――」
「話がややこしくなります」
ジュリアが即座に遮った。
「今は、事実のみを共有するべきです」
アルトゥールが露骨に不満そうな顔をする。
「そうでした」
エリザは素直に頷くと、次の瞬間には別方向へ話を爆走させていた。
「量産型アルケイネⅠ型は、オリハルコン製の外殻構造と精密演算による、いわば自律駆動型の物理格闘兵器です」
会議室が静まり返る。
「また、"隠蔽型の拒絶術式"により、魔術は一切通りません。したがって、人類の平均的な既存武器での撃破は困難だと言えます」
「待て」
「待ちなさい」
「今なんと?」
ツッコミが綺麗に重なった。
エリザは首を傾げる。
「はい?」
「オリハルコン?」
ホドフリートが低く繰り返す。
老人の顔から血の気が引いていた。
「そんなものが……“量産型”だと?」
ランベールも資料から顔を上げる。
「はい」
エリザが頷く。
「名称が『アルケイネⅠ型』ですので」
「Ⅱ型以降の存在も想定されます」
沈黙。
「……ジュリア」
フィリベールが口を開く。
「はい?」
「何故生きている?」
「この子たち、外出禁止にすべきじゃないかしら」
エウラーリアの笑みが深まる。
「きっと、そのダークエルフ達も同じ心境でしょうな」
ホドフリートが溜息を吐きながらこめかみを押さえた。




