報告会議
旅行と言うには、あまりにも内容の濃い時間だった。
『もう帰る!!』
結局、モーリガンのその一言で、会談はお開きとなった。
帰り際、一人のダークエルフの少女が押し付けられた。
真っ黒な侍女服を纏った、小柄な少女。連絡役らしい。メイヴィエッタと言う。
「よろしくお願いします。ジュリア様」
ぺこりと丁寧に頭を下げる。
「ああ、よろしく」
ジュリアも頷き返した。
「なあ、ジュリア。もう俺等、魔族軍の一角ってことじゃないのか?」
ジェラルドが半眼で言う。
「違います」
ジュリアは即答した。
「メイヴィエッタさん」
エリザがすっと前へ出る。
「は、はい?」
メイヴィエッタが少し身構えた。
「ダークエルフ領の基礎工業水準について伺いたいのですが」
「え?」
「あとアルケイネⅠ型の残骸ってまだあります?」
「え?」
「エリザ。貴女、誰と戦うつもりなんです?」
ジュリアが頭を押さえる。
「眼の前の知識を放置するなんて、指を咥えてヒートデスを待つくらいの停滞じゃない?」
「何を言っているのかさっぱりです」
そんなやり取りをしていると、天幕で待っていたリナが、メイヴィエッタの姿を見て目を輝かせた。
「わぁっ! ダークエルフのメイドさんですっ!」
メイヴィエッタがビクリと肩を跳ねさせる。
◇
新連邦中央庁舎、小会議室。
重厚な円卓を囲むように、新連邦の中枢が顔を揃えていた。
フィリベール・アークライト侯爵。
ホドフリート・ヴァルロア侯爵。
ランベール・ヴァランタン公爵。
エウラーリア・アストライア・ヴァランタン公爵夫人。
アルトゥール・ランカスター辺境伯。
そして。
ジュリア、ミシュリーヌ、ジェラルド、エリザ。
妙な組み合わせだった。
沈黙を破ったのはフィリベールだった。
「ジュリア。何があった?」
心配そうな声。
父親の顔だった。
ジュリアは一度だけ周囲を見回し、
「今回招集したのは」
静かに言う。
「国家――いえ、人類そのものを揺るがしかねない問題を共有するためです」
空気が変わった。
アルトゥールが腕を組む。
ランベールが目を細める。
ホドフリートは静かに紅茶を置いた。
ジュリアは事前に整理していた資料を机へ並べた。
全員へ配られる。
資料の表紙。
『【極秘】ダークエルフ勢力との接触報告』
『 ――ジュリア・アークライト』
『確認事項』
『エイダン・ブレスラックはダークエルフ勢力所属』
『モーリガン・ブラナッハ、ファロン・ネヴァン、ニヴ・ドーンクレイグ、カドガン・ネラスィルとの接触』
『古代魔術兵装「アルケイネⅠ型」を確認』
『転移術式による長距離移動能力を確認』
『魔族勢力との交流・交渉経路を保有している可能性大』
『戦力評価』
『アルケイネⅠ型単体』
『 ジュリア隊総力戦で撃破』
『複数同時起動時』
『 現戦力では対応困難』
『ダークエルフ勢力全体』
『 戦力不明』
『総評』
『現時点で敵対は推奨しない』
「ここまでは、我々が確認できた内容です」
ジュリアが淡々と説明する。
「なんだこれ」
アルトゥールが資料をめくる。
ペラッ。
一行目。
『エリュシオン学園教員エイダン・ブレスラックはダークエルフである』
「知ってる」
「え?」
ジュリアが固まる。
「耳見れば分かるだろう」
フィリベールが当然のように言った。
「そういう意味ではなく……」
「そう言えば、そちらの娘は?」
エウラーリアが扇で、ジュリアの背後に立つ黒い侍女服の少女を指した。
「ええと、彼らに連絡役として派遣されている、メイヴィエッタです」
メイヴィエッタは静かにカーテシーをする。
「メイヴィエッタと申します」
「そう」
エウラーリアの視線が、資料のある箇所で止まった。
『モーリガン・ブラナッハ』
ほんの一瞬だけ、その表情が変わる。
ランベールが気づいた。
「知っているのか?」
「ご存知なのですか?」
ジュリアも目を向ける。
エウラーリアは静かに資料を閉じた。
「王家の禁書庫に記録がありました」
会議室が静まる。
「古王朝末期――黒き森の魔女。あるいは、人ならざる軍勢を率いた者」
「うむ」
ホドフリートもゆっくり頷いた。
「わしも読んだことがある。童話かと思っておったがな」
アルトゥールが眉をひそめる。
「だが、そうだとして、その魔女はなぜ管理者と称しながら魔族を率いる?」
「率いてはおりません」
答えたのはメイヴィエッタだった。
「モーリガン様は、ダークエルフ代表として黒曜議会へ出席しているだけです」
「黒曜議会?」
ジュリアが聞き返す。
メイヴィエッタは静かに答えた。
「黒曜議会は、魔族連合の最高意思決定機関です」
そして。
「モーリガン様は、その議席保持者です」
その瞬間。
会議室の空気が変わった。
「待ってください」
ジュリアの声が低くなる。
「……つまり、あの銀髪の女性は」
「はい」
メイヴィエッタは頷いた。
「魔族側最高指導部の一角です」
「おい」
ジェラルド。
「おい」
アルトゥール。
「おい」
フィリベール。
会議室の空気が、一気に険悪になった。




