招待
ジュリア、ミシュリーヌ、ジェラルド、セシリア、ルカ、リィン、最後にエリザ。
七人が"格納庫"を出た、
その時だった。
通路の奥から、別の白い個体が出てきた。全体的に少し大きい。
だが、顔に当たる部分に、マネキンのような、細い女性のような体が付いていた。
その顔は美しかった。しかし、全く瞬きをしない。それが、却って不気味だった。
そして。
『驚きました。量産型"アルケイネⅠ型"が機能停止したのは、467年と113日ぶりです』
その言い方があまりにも無機質で、ミシュリーヌが一歩後退する。
「しゃべった……」
珍しく、声が裏返っている。
全員、反射的に戦闘態勢に入った。
しかし、
「大丈夫よ。その子は戦闘型ではないわ」
一同が振り返ると、尖った耳、褐色の肌、黒い巻き髪、妖艶な琥珀の瞳。
一人のダークエルフの女が立っていた。
ダークエルフの女は、エリザの引きずっていた個体を見て、瞠目した。
「……本当に倒したのね。あなた達、すごいわよ?」
一同が硬直する間、最初に冷静になれたのはジュリアだった。
一歩前に出る。
「貴女は?」
女はパチパチと瞬きをすると、
「私はニブ・ドーンクレイグ。自由都市カナンの"担当者"よ」
まるで、なんでもないことのように、そう言った。
「担当者?どういうことだ」
ジェラルドが眉を寄せて言う。
そんなジェラルドに、ニヴは呆れたように言う。
「どういうこと、って、あなた達はもう既に会っているでしょう?」
ニヴは、ジュリアとジェラルドとミシュリーヌに視線を流し、
「あなた達は、エイダンと、そしてモーリガンに」
セシリアとルカを眺め、
「そして、あなた二人は、ファロンに」
さも当然のように、言った。淡々と。
「……エイダンも?」
ジュリアの背中に冷たいものが走る。
ニヴはそれを無視して、にっこりと笑う。
そして、
「来なさい」
それだけ言って歩き出した。
足音が、白い床に冷たく響く響く。
そして。
――ズズズズ。
エリザが重そうに倒した個体を引きずる音。
ニヴが振り返り、眉をひくつかせる。
「……あなた。それは、後であげるから、今は置いておきなさい」
「あ。はい」
エリザは素直に"戦利品"から手を離した。
◇
七人が通されたのは、大きな円形の部屋だった。
中央には、何かの低い柱。床には複雑な魔術式。
ニヴは七人を手招いて、魔術式の上に上がらせる。
「初めてだと少し気持ち悪くなるけど我慢しなさい」
そう言うと、中央の柱をカチリと操作した。
小さな操作音。
次の瞬間。
ヴゥゥン――……
足元の魔術式へ、淡い紫光が流れた。それは普通の術式光ではなかった。
幾何学模様の溝を、まるで血管を流れる光のように脈動しながら走っていく。
一本。
また一本。
光の筋が増殖するたび、床全体へ巨大な紋様が浮かび上がっていく。
ジュリアの瞳が、わずかに見開かれた。
(……術式が、自己接続している?)
見たことがない。
通常の転移術式なら、術者が魔力経路を制御する。
だがこれは違う。
床そのものが、巨大な演算装置みたいに自律稼働していた。
そして。
ドクン。
巨大な心臓の鼓動にも似た振動が、空間そのものを震わせた。
『皆様いってらっしゃいませ』
先程の大きな蜘蛛、非戦闘型のアルケイネの声が聞こえた。
次の瞬間、ひどいめまい。
胃が一瞬だけ浮く。
視界が紫に引き延ばされ、空間そのものが“裏返る”ような感覚。
そして。
景色が変わった。
「……は?」
ジェラルドが間の抜けた声を漏らす。
そこは、先程までの地下遺跡ではなかった。
巨大な空洞。
だが洞窟ではない。
白い樹木のような柱が何本も天井へ伸び、その内側を淡い紫光が脈動している。
床は鏡のように滑らかで、遠くには幾重もの半透明の光板が浮かんでいた。
静かすぎる。
なのに。
何か巨大なものが、今もこの場所で“動いている”気配だけがある。
「今のは転移術式!!」
エリザだけが目を輝かせていた。
「なあ、いまそこ?」
ジェラルドのツッコミが虚しく落ちる。
その時。
部屋の奥から、深い溜息が聞こえた。
「エリザ・クロネッカー。まったく。君は相変わらず……」
エイダンの声だった。いつもより低く重い。
だが、そこにいたのは、エイダンだけではなかった。
四人のダークエルフ達。
見慣れた長い黒髪の男、エイダン・ブレスラック。
肌が露出する薄着の上に、漆黒のコートをマントのように纏った、長い銀髪の女、モーリガン・ブラナッハ。
そして純白の法衣を纏い、ミトラを被った仮面の男、ファロン・ネヴァン。
そして、鉱夫のような衣服の、見知らぬ若いダークエルフの男。
仮面の奥の視線が、静かにセシリアを射抜いていた。
重苦しい雰囲気。なのに、
「お待たせ。連れてきたわよ」
あっけらかんとした、ニヴの声だけが、やけに浮いていた。




