格納庫
一行は、さらに遺跡の奥へ進んでいく。
白い通路はどこまでも滑らかで、古代の建造物とは思えないほど劣化が少なかった。
「図書室とかは無いのか?」
ジェラルドが辺りを見回す。
「格納庫や兵器庫の表記はありますが、書庫らしきものはありませんね」
エリザが壁面文字を読み上げる。
「今さらっと物騒な単語が混ざらなかったか?」
「古代文明ですから」
「理由になってねえ」
やがて。
エリザが立ち止まった。
「……ここですね」
通路の先。そこには、巨大な白壁があった。継ぎ目すら見えない。ただ、上部には古代文字が刻まれている。
「なんと書いてあるんです?」
ジュリアが尋ねる。
「“格納庫”です」
「格納……何を格納するんでしょうかね」
「さあ」
ミシュリーヌが壁を見上げながら、眉をひそめる。
「……ここだけ、なんか感じる」
白い壁の一部分へ、そっと手を触れた。
瞬間。
ズ、ズゥゥゥゥゥン――……
低い重音が、遺跡全体へ響いた。
「うおっ!?」
ジェラルドが反射的に剣へ手を掛ける。
壁だと思っていた白い表面が、音もなく左右へ滑り始めたのだ。
冷気。
暗闇。
そして。
奥に並んでいた“何か”の輪郭へ、光球の淡い光が触れる。
無数に並んだ白い縦長の球体のような物体。その周りには、まるでその球体を包み込むように、指のような形状の筋が並んでいた。
「……何かの、卵でしょうか?」
ジュリアが形状を冷静に分析し、静かに呟く。
無数に並んだ白い縦長の球体。
艶のある白い表面。
滑らかな曲線。
その周囲を、
まるで包み込むように細長い支柱が湾曲している。
繭にも見えた。
棺にも見えた。
「これ、変だよ」
ミシュリーヌの声が低い。
「?」
彼女は、白い球体を見つめたまま言った。
「“世界”から切り離されてる」
空気が止まる。
「……どういう意味です?」
「分かんない」
ミシュリーヌは小さく首を振る。
セシリアも青ざめていた。
「はい……なにか、嫌です」
万物に常在しているはずの、"繋がり"の感覚が、そこだけ綺麗に途切れている。
まるで。
“世界そのものが拒絶している”みたいに。
ジュリアは静かに球体へ近づく。
「……ですが、稼働は停止しているように見えます」
「近づかない方がいいよ!」
ミシュリーヌが即座に言った。
「これ、“死んでる”感じがしない」
その瞬間。
カチリ。
小さな音が響いた。
「――っ」
白い球体の中央に、細い黒線が幾重にも走る。
まるで、孵化、したように。
そして、球体の周囲を包み込んでいた筋が、ばらりと倒れ、それを支えた。
次の瞬間、それは、立ち上がった。
その姿は、蜘蛛のようだった。艷やかな光沢のある白い表面。
細く滑らかな人の腕を思わせる、有機的な曲線で構成された八本の足。
体の継ぎ目の黒い線が、曲線を描くように通っている。その隙間からは、チカチカと謎の明滅が見える。
金属同士が擦れる音はしない。
まるで、生き物のように、
――いや。
生き物よりも滑らかに、
ただ静かに、一行へ接近してくる。
「どけ!!ジュリア!!!」
ジェラルドが反射的に大剣を抜剣し、前に出た。
――ガッ。
――キィィィィン!!!
火花が散る。
受け止めたのは、蜘蛛の前足だった。
まるで鎌のように、前足が振るわれたのだ。
いつもなら、涼しい顔で他人の剣戟を受け流すジェラルドが、必死の形相でそれを支えている。
「離れろ!!!」
ジェラルドが叫ぶ。
ギギギギ!
剣が、嫌な音を立てる。
そして、体を捻り、強引に受け流す。
そして体勢を整えた、瞬間。
――キィィン!!!
再び、火花が散る。
ジェラルドの剣が、蜘蛛の前脚と噛み合ったまま止まる。
「っ……!」
重い。
ズレない。
ジェラルドの剣筋を、蜘蛛は二度目から先読みしていた。
力の流し方。角度。重心。全てが、異様なほど正確だった。
まるで、何千何万という戦闘を、最適化だけで積み上げたみたいに。
(嘘だろ?!こんなやつ、居ていいのかよ!)
視線をチラリと奥へと向ける。何体も繭の形になって眠っている、それら。
(こんなのが、二匹以上で来られたら、詰む……!!)




