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遺跡探索

 翌朝。

 侍女達やシスター達を天幕へ残し、一行はエリザの案内で森林深くの遺跡地帯へ来ていた。

 ミシュリーヌ達女性陣も昨日までのドレスではなく、髪も縛り上げて丈夫な狩猟服を纏っている。


 密林の中。

 蔦に巻かれた石造住居や、崩れた柱の残骸があちこちに点在している。


 木々の隙間から差し込む陽光だけが、白い石壁をぼんやり照らしていた。


「遺跡としては比較的新しいですね。見た感じ、一〇〇〇年は経っていません」

 ジュリアが壁面へ触れながら言う。


「ええ」

 エリザも頷いた。


「風化がまだ浅いですし、魔力痕も残っています」


 その横で。

 ブゥゥゥゥ――……。


 森の虫が、不快な羽音を響かせている。


「しかし」

 エリザが小型魔道具を掲げた。


「誘引式広域蟲駆除魔導具を持参してきて正解でした」


「その長い名前、よく噛まずに言えるな」

 ジェラルドが呆れ顔になる。


「もう虫ホイホイでいいだろ」

「美しくありません」

「お前のも別に美しいとかじゃなくて、機能名を長ったらしく言ってるだけだろ」

「重要なのは正確性です」


「……心底どうでもいい話ね」ミシュリーヌがぼそりと呟く。

「まったくです」ジュリアも頷いた。


 その時だった。

 リィンの耳が、ぴくりと動く。


「ジュリア様。なにか音がします」

「何のです?」

「空洞音です」


 リィンは森の奥へ視線を向けた。


「おそらく近くに、洞窟みたいな場所があります」


 ◇


 たどり着いたのは、垂れ下がる草や蔦に覆われた岩壁だった。

 一見すると、ただの崖にしか見えない。


 リィンが静かに短剣を抜くと一閃する。

 斬り払われた蔦が、ぱらぱらと地面へ落ちた。


 その奥、ぽっかりと、暗闇が口を開けている。

 四角く切り取られた入口。明らかに人工物だった。


「リィン。よく分かりましたね」

「ずっと、私達の話し声が反響していましたから」


 リィンが耳を軽く動かす。


「たぶん、中はかなり広いです」


「さすがリィンちゃんです」


 セシリアが素直に感心した。


 ミシュリーヌが、小さな光球を前方へ浮かばせる。

 淡い光が、暗い通路をゆっくり照らしていった。


 先頭はリィン。

 その後ろへ、ジュリア達が続く。


 遺跡内部は、ひやりと冷たかった。

 外の蒸し暑い空気が嘘みたいに静かで、虫の羽音すら聞こえない。


「……ここ」


 ミシュリーヌが壁を見ながら、僅かに眉をひそめる。


「なんか、書いてある」


 ジュリアは壁へ視線を向けた。


「文字?」


 白い石壁には、細かな紋様のようなものが刻まれている。


「古代文字のように見えますね。エリザ、読めますか?」

「ええ。これはエルフ文字です。間違いありません」


 エリザが壁面へ近づく。


「学園の禁書庫で散々読みましたから」


 ミシュリーヌがじっと見る。


「それ、読んで良かったやつ?」

「後でバレて二か月停学になりました」

「駄目じゃん」


「しかし、懐かしいですね」

「なにがだ?」


「学園の禁書庫です」


 ジェラルドが嫌な顔になる。


 ◇


『……誰ですか』

 静かな声だった。


『第三封鎖層の術式を書き換えたのは』


 エリュシオン学園、禁書庫。


 幾重もの封印術式が展開された最下層。


 その中央で、エイダン・ブレスラックが、こめかみを押さえていた。

 壁面術式が、綺麗に解除されている。力任せではない。完全に“理解した上で”書き換えられていた。


 やがて、研究棟の一室の扉が開かれた。


『……エリザ・クロネッカー。貴女ですね?禁書庫に入ったのは』

『なぜ分かったんです?』

『他にこんなことをする生徒が居ません』


 ◇


「いや待て。禁書庫って、普通そんな簡単に入れるのか?」

「入りました」

「答えになってねえ」


「鍵なら開けましたが?」

「犯罪告白すんな」


 エリザは不思議そうに首を傾げる。


「ですが、知識は共有財産でしょう?」

「お前ほんと研究者向いてるよ。悪い意味で」


 エリザは壁面の文字へ目を走らせる。


 数秒。


 そして、あっさり興味を失ったように歩き出した。


「で、何と書いてあったのですか?」


 ジュリアが後ろから訊ねる。


「ただの経路案内です」


 エリザは振り返りもせず答えた。


「住居区画、食堂、保管庫などの位置が記されています」


「……思ったより生活感あるな」ジェラルドがぼそりと呟く。

「古代文明ってもっとこう、“世界の真理”とか書いてないの?」ミシュリーヌ。

「そんなもの、こんな所には残しません」


 エリザは即答した。


「残るのは大抵、行政文書と案内表示です」

「夢がねえなあ……」

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