表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
102/159

無計画な旅

 ホテルへ戻った瞬間だった。


 ロビーへ足を踏み入れたジュリア達へ向け、ずらりと並んだ女性達が一斉に頭を下げる。


「「「お帰りなさいませ」」」


 ジュリアが止まった。


 そこに居たのは。


 リナ。

 ミシュリーヌ付き侍女のナタリー。

 さらに、セシリア付きの聖堂シスター達。

 ジェラルドの侍従エミルまでいる。


 なぜか全員、当然のような顔をしている。


 沈黙。


 数秒後。


「……なぜ貴女達まで居るんでしょうか?」

 ジュリアが真顔で訊ねた。


 リナが首を傾げる。

「なぜ、と申されましても」


「ジュリア様が旅行へ向かわれると聞きましたので」

「お世話係は必要かと」


「いえ不要ですが」

 即答だった。


 ナタリーも続ける。


「ミシュリーヌ様は侍女無しでは流石に……」

「え、私そんな偉い人扱いなの?」

「今さらですか?だって、そのお髪、ご自分で編めますか?」

「………」


 ミシュリーヌが無言になった。


 さらに。


「セシリア様の護衛と生活補助のため、白の聖堂より同行許可を頂いております」

 シスター達まで自然に言った。


 ルカは納得したように頷いている。

 だがセシリアは「私なんかに」とおろおろしている。


「貴族って大変ね」エリザが他人事みたいに呟く。

「いや、お前も一応貴族だろ?」ジェラルドがジト目を向けた。


「むしろ、誰も付いて来てないお前の家の方が心配だぞ」

「どういう意味かしら?」

「大方想像つくけどな」

 ジェラルドは呆れたように肩を竦める。

「お前、研究始めると徹夜するわ、髪ボサボサになるわ、服インクだらけになるわで、もう家から諦められてるんじゃねえの?」

「……なにか、とても失礼なことを言われている気がするのだけれど?」

「言ってるが?」


 ジュリアはゆっくり目を閉じる。

(おかしい。静養のはずだったのですが、なぜ規模が拡大しているんですか……?)


-----------------------


 次の日。ポートモーナ郊外。

 黒塗りのレンタル魔導馬車六台の行列が、森林地帯へと向かっていた。

 魔導馬車。アークライト家が開発した空気温度調節と振動抑制機能のついた高級馬車である。


「やや旧式ではありますが、魔導馬車が借りれたのは助かりました。しかし、……なんでしょうかこの大名行列は」

「もはや、お忍び旅行とは言えないレベルだな」とジェラルド。

「最初から計画をお知らせくだされば、飛空艇を手配しましたが」とリナ。

「それではもはや旅行とは呼べないでしょう」


 窓の景色は、焼けたレンガや石畳から、深い緑へと塗り替えられていた。

 遠くで農作業中の人々が、こちらに気づき手を振っている。


「やっぱ目立ちすぎじゃね?」


 一行が着いたのは、のどかな田舎の村だった。

 店はおろか、宿などもなさそうである。


「……なあ。宿どうすんだ?」とジェラルド。


「………」

「………」

「………」

「無計画かよ!」


 そんな中。


「あの」

 と白い聖堂のシスターが手を上げた。


「こんなこともあろうかと、天幕いくつかをお持ちしていますが、ご用意いたしましょうか?」


「ああ、あれか。手伝おう」とルカ。

「あれならいいな」とジェラルド。


 村の外れの草原に、次々と立てられていく巨大な円形の天幕。


「随分手際が良いですね。まるで野戦陣地のようです。すばらしい」

「感心している場合じゃないです。次からはちゃんと最初から計画書を提出してください!!」

「すまんリナ。次からは気をつける」


 ◇


 夜。白の聖堂の天幕の中。


 中は意外なほど広かった。

 簡易ベッドなら四つは置けそうな広さがあり、中央には空気温度調整用の小型魔道具まで設置されている。


 外では、森の虫の音だけが静かに響いていた。

 ポートモーナのあの喧騒が、まるで遠い別世界みたいだった。


 ルカが外で薪を割り、シスター達が夕食の支度を始めている。


「これはいいですね」

 ジュリアが素直に感心した。


「だろ?」

 ジェラルドが笑う。


 その横では、リナが当然のように紅茶の準備を始めていた。


 湯気の立つカップを受け取りながら、ジュリアがぽつりと呟く。

「しかし、若い頃のように、自由気ままに旅をすることも難しくなりましたね」

「いや、まだ若いだろ」

 ジェラルドが即座に突っ込んだ。


「ジュリアは特にね」

 ミシュリーヌが肩を竦める。

「あんた、自分が国家元首だってこと忘れてるでしょ?」


「なりたくてなったわけではないのですが」

「そういう問題じゃないと思う」

 ミシュリーヌが呆れる。


 セシリアが、静かに微笑んだ。

「ジュリア様は、ルクス様や皆に愛されているんですよ」

「?」

「だからこそ、こんな平和な旅ができるんです」


 外から小さな虫の音と、ルカの薪割りの音が響いてくる。


 ジュリアは少しだけ黙り込み――


「……平和、ですか」

 どこか不思議そうに、そう呟いた。


 数十分後。

 エリザが村から大量の野菜を抱えて帰ってきた。シスターたちが大喜びだ。


「……何してたんですか?」

「交換です」

「何と?」

「誘引式広域蟲駆除魔導具です」

「あの虫ホイホイですか。何故そんなものを持ち歩いているんです?」

「何を言ってるんですか。この季節の屋外探索には必須のアイテムです。あと、研究者の嗜みですね」

「そんな嗜みは初耳ですね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ