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カオスと私

 私には今やらなければいけないことが沢山ある。姉に直談判しようと躍起になっている両親を宥める事に、何故か拗ねている姉の機嫌取り。それから、私と両親を囲んで殺気を垂れ流している皇帝や宰相、元婚約者たちと兄、そしてジェルミーの怒りを鎮める事だ。

 でも怖過ぎて顔が上げられない。皆が居た部屋に入って三十分は経っただろうか。ソファーに座るよう促されたが、私は床に正座し何とか赦しを乞おうとした。『今回だけでも穏便に』『今日は皇太子殿下のお誕生日ですし、寛大なご処置を』『笑顔が一番!』と、兎に角必死に媚び諂ったが、皆の殺気は膨れ上がるばかりだった。

 私の両隣にいる両親は皆の殺気なんてお構いなく姉に猛抗議しているし、姉は姉でさっきからずっと『プンスカ』『カンカン』と擬態語を使い怒ってますアピールをしてくる。カオスが過ぎる。


「ミィ、ミィはミィニャ・アンガーだよな?俺のたった一人の妹で、これから先もずっとミィはミィニャ・アンガーでいてくれるよな?」

「え?えっと…結婚するまではミィニャ・アンガーですけど…結婚してもお兄様はずっと私のお兄様ですよ」

「俺と結婚したらずっとミィニャ・アンガーだろ?なら俺と結婚しよう。ミィが名乗っていいのはアンガー家の家名だけだ」

「えーっと…」


 拗らせ過ぎたシスコンな兄に戸惑いつつ、兄から必死に目を逸らす。目を合わせたら惚れちゃいそうなくらい兄の目が本気なのだ。惚れっぽい私には刺激が強過ぎる。


「君は見どころがあるなぁ!ちさを愛してくれる人は誰でも大歓迎だよ!」

「そうねー!彼をちさの夫にしましょう。宜しくねー義息子君!」

「……………え?」


 なんかとんでもない事を言い出す両親を唖然と見つめていると、さっきまで殺気を駄々漏らしていた兄は暫く両親を凝視した後、満面の笑みを浮かべ出した。


「宜しくお願いします!!義父様、義母様!!」

「えっ」


 がしりと両親の手を握り締め「俺が絶対にミィを幸せにします!」と宣言し、いい笑顔を私に向けてくる兄に目を白黒させていると、部屋に充満していた禍々しい殺気が大爆発した。


「ぶっ殺す!!」


 皇帝のその言葉が合図となり、至る所で膨大な魔力が込められた魔法が兄に放たれる。私じゃとても防げないそれらを、余裕の表情で躱す兄の姿に、思わず感嘆の声が上がる。


「あらあら、ちさったらこの国で随分愛されてるのねー!まぁ、ちさを一番愛してるのはママとパパだけどね!」

「いやー、よかったよかった!パパ一安心だよ!シュノアート帝国にはこれ程の魔力を持った人たちはあんまりいないからね。ちさは誰を夫にしたい?好きなだけ選んでいいぞー!」


 目の前の惨劇が見えていない両親は、各々好きな事を話している。パパのとんでもない発言に私が「何言ってんの。この国もシュノアート帝国も重婚は出来ないでしょ」とツッコムと、パパとママは揃って首を傾げた後「ああ!成る程!」と二人で勝手に納得して頷き出した。


「シュノアート帝国の聖女だけは重婚が許されてるんだぞー!寧ろ、夫を複数人持たないとちさが早死にしちゃうからね!100人でも1000人でも沢山夫を作って、今度こそパパたちより長生きするんだぞ!」

「孫も沢山産んでちょうだいねー!今世は孫とひ孫と玄孫を抱っこしてから死ぬって決めているんだからー!」

「…………………はい?」


 ちょっと待って。色々説明が足りていない。シュノアート帝国の聖女だけは重婚オッケーなんて聞いた事ない。そもそもだからといって私とは全く関係ない話だ。パパとママは前世の両親であって、今世は違うんだし。なのにどうして私が夫を複数人持つ話になるの?しかも複数人夫を持たないと早死にするってどういう事?

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