真実と私
「…と、いうわけです。ご理解いただけましたか?」
私はソファーに座り、シュノアート帝国の宰相が話す内容を必死に脳で処理していた。
パパの言葉に皇帝たちの動きが止まり、静まり返った所でシュノアート帝国の宰相が「ご説明致します」と何処からともなく颯爽と現れ、聖女が何故複数人夫が必要なのかを説明してくれたのだ。
曰く、シュノアート帝国の聖女は皆成人まで生きられない。それは魔物から国を守るため聖女が作った結界でシュノアート帝国全てを覆い尽くし、膨大な魔力を日々消費するから。ここらへんの話は皇帝から聞いていたので知ってはいた。でも、その後に続いた話はシュノアート帝国の人たちしか知らない話だった。
14年前に産まれた皇女様。その皇女様が聖女だとわかった時、シュノアート帝国の貴族たちは当たり前の様に皇女様に国を守らせようとした。それを両親は良しとせず、他国産まれの母が自国の家宝であった魔法のランプ的な物を使い、皇女様が長生き出来る方法を探したらしい。その方法が複数の夫を作り、魔力譲渡をしてもらうことだった。魔力は基本的に他人に譲渡出来ないが、愛し合った夫婦は魔力譲渡が出来るそうだ。「何で愛し合った夫婦だけなの?それなら親兄弟でも出来そうじゃん」と思わず質問した時「とうとうこの質問が来てしまった」とパパが固唾を呑み、ママが「いい?ちさ。赤ちゃんはコウノトリさんが運んで来てくれて〜」と話し出したので、シュノアート帝国の宰相に説明を求めると、顔を真っ赤にして目を逸らされた。周りを見ても私と目を合わせてくれたのは首を傾げた姉だけだったので、説明してもらうのは諦めた。
魔力を使い果たすから寿命が短くなる。だから夫に譲渡してもらう。それはわかった。でもさ。
「最初から聖女様に無理して結界なんて張らせなきゃいいだけじゃ…そもそも昔の人たちは魔力譲渡とか考えなかったの?」
「勿論パパはちさに無理なんてさせないぞ!…でもな、パパにもどうにも出来ない事があって…。それに、夫婦であれば魔力譲渡が出来るってわかったのもここ最近だからね。まぁ、魔力譲渡が出来るとわかっていたとしても、聖女様たちは皆未成年だったし、子供に手を出すのは……パパだって他の方法があったら法を変えたりしなかったさ。でも、どれだけ調べてもそれ以外でちさが長生き出来る方法がなかったんだ…」
「パパ…」
悲しげに目を伏せるパパに、私はずっと思っていた事を口にした。
「…あのね…言い辛いんだけどさ…私、パパとママの子供じゃないんだよね……」
本来は言わずともわかることだ。でも、天然過ぎる両親はその事に全然気付いていない。だから私は心を鬼にして真実を告げた。
「えっ?どういう事だ?ちさはちゃんとパパの娘だぞ?」
「そうよー。ママちゃんとちさを産んだわよ?」
「え?いや、だって…」
私はかくかくしかじかと、シュノアート帝国に居た平民の両親の事を話した。
「ちさを拐ったのは他国の獣人だったし、経緯はわからないけど、その人たちは善意でちさを育ててくれたのかもしれないね」
「大変だったのね、ちさ。今度一緒にお墓参りに行きましょうね」
「……………」
両親の言葉に、私は言葉が詰まって何も言えなくなる。以前シュノアート帝国の宰相に言われた時は全力で否定したが、両親の口から言われると、こっちが真実なのだとすんなり受け入れてしまう。悲しんでいいのか喜んでいいのかわからなくて、滲んできた涙を腕で強く擦る。
「……私の人生、波乱万丈過ぎない…?」
産まれた時から色々あり過ぎだ。獣人はどうして私を拐ったのか。拐われた筈の私は、どうしてシュノアート帝国の貧民街で平民の両親に育てられていたのか。疑問で頭がいっぱいだ。
「…獣人?人間ではなく?」
皇帝が眉間にシワを寄せ呟いた言葉に、シュノアート帝国の宰相が頷いた。
「ああ。表向きは他国の人間に拐われたとしたが、実際は皇女様を拐ったのは猫獣人だ。獣人に拐われたなどと知られれば、皇女様の外聞が悪くなってしまうからな…」
「え?どうしてですか?」
猫獣人に拐われるなんて、諸手を挙げて大歓迎したいくらい喜ばしい事だ。いつか猫獣人に会いたいと思っていたけど、赤ちゃんの時に会っていたとは。記憶がないのが悔しくてたまらない。
「獣人が人を拐うのは、拐われた人間がその獣人の番である事が殆どなのです。皇女様が獣人の番など言語道断、許されざる事です。私は皇女様の許嫁ですから、皇女様を守る義務があるのです!」
「全然いいです!猫獣人の番なんて寧ろ本望です!番なら肉球の匂いを毎日嗅いで、猫吸いしても怒らないでしょうし!」
大好きな猫と家族になれるなんて、幸せしかない。猫を飼いたいと何度も思ったけど、いつか来る別れを思うと耐えられないから、今まで一度も猫を飼ったことがない。前世でもママが猫アレルギーだったから飼えなかったし。まぁ、飼えなかったが、庭によく来ていた野良猫とこっそり遊んだ記憶はある。幸せな記憶を思い出していると、兄が私の肩を思い切り掴んできた。
「ミィ!落ち着いて!獣人はほぼ人間と変わらないんだぞ!?肉球なんてものはないし、腹に顔を埋めても人間と同じ腹しかないから!!」
「それより今コイツはミィナの許嫁と言わなかったか!?何故こんな男がミィナの許嫁になれるんだ!!おかしいだろ!」
「おかしくはない。皇帝陛下にも皇后陛下にも許可を貰っている。私は皇女様が産まれるずっと前から皇女様をお慕いしているからな」
「はぁ!?産まれる前から!?意味がわからない!巫山戯ているのか!?」
「巫山戯てなどいない。そもそも巫山戯ているのはお前たちだろう!!あの出来損ないを皇女様として送ってきておいて!!あんな偽物に誰が騙されるものか!!」
「そーだそーだ!!」
「馬鹿にするにも程があるわー!!」
何故か憤慨しだしたシュノアート帝国の宰相と両親の言葉に、そう言えばついこの間シュノアート帝国の皇女は国に返った事を思い出す。慌てて皇帝の顔を見るが、スッと顔を逸らされた。




