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公爵、戻る

 リリーの足の痛みは三日で治まり、恥ずかしいほどにぐるぐる巻きにされた包帯は外された。

 無事に婚約の手続きは受理され、ミレーヌの言って回った先から瞬く間に広がった話により祝いの品が屋敷には届き始めている。


 週明けに王都に戻れなかった分、今週末は公爵は領地に戻らない。

 前公爵から木曜日に伝えられたリリーは表情に出ないように用心しながら、内心喜んでいた。

 週末は色々と起こった。公爵の呼び出しから始まってサマー嬢の襲来、求婚、兄の訪問までリリーが自分で起こした分も含めて目白押しだったのだ。やっと人心地ついたのに、公爵が現れてはまた騒動が起きそうな気がする。

「では、足の様子を見ながらダンスの練習を始めましょう。それにドレスもまた作らなくちゃいけないわね。婚約披露パーティーはいつになるかしら。」

 パンと手を打つアナベル夫人に、リリーは公爵がいなくても変わらないことにやっと気付いた。公爵の正式な婚約者と認められたら、リリーは忙しくなるに決まっていたのだ。


 両家の顔合わせは前公爵たちが王都に来るタイミングでダニエルが両親を連れてクルム邸を訪問することに決まり、リリーには関与を求められていない。ただし、ちゃんと手紙で報告するようにとダニエルに言われて父母それぞれに手紙を書いて帰る兄に託した。「予定通りに求婚されました。こちらではいい暮らしをさせていただいています。ミレーヌ様が可愛らしくて、化粧のテクニックがすごい使用人もいます。サマー嬢の魔の手から公爵様を守るために頑張ります。」という内容を極力丁寧に丁寧にそれっぽく見えるように努力した。もう渡してしまった以上、やることはないと思っていたが実家に対してやることはない。


 まずは婚約披露パーティー、結婚式、結婚披露パーティー、王家主催の夜会用のドレスの採寸、制作である。

「男は女性に合わせればいいの。リリーが一番綺麗に見えるようにしましょうね。」

 婚約が正式になると、アナベル夫人からは「娘だと思って嬢なんて付けないわ。私の事もお義母様と呼んでいいわ。」と言われた。呼び捨てにされることは良いが、アナベル夫人の事はとても義母とは呼べず今まで通りで許していただいている。

「婚約パーティーはお父様の贈ったエメラルドの指輪が映えるようにしないと、さすがにダメかしら。お母様はどう思います?」

 さらっとリリーのことを母と呼ぶのは、もちろんミレーヌ嬢だ。こちらも「ミレーヌと呼んでくださいませ。」と言うのを何とか二人きりの時だけにして欲しいと懇願した。おかげでミレーヌのリリーの部屋に突撃訪問する回数が格段に増え、マーシャに追い返される確率も上がっている。

「ミレーヌ様が申し訳ございません。リリー様が嫁いでいらっしゃるのが、本当に嬉しいのでございます。しかし全てを受け入れるのが義母となるリリー様の務めではございません。ワタクシ達が防ぎますので、どうか心安らかに準備をお進めください。」

 マーシャやアリソンが盾になって守ってくれてはいるものの、リリーの罪悪感は増すばかり。クルム領に来てからやんわりと断り続けていたパジャマパーティーなるものを来週開催することで、ミレーヌの暴走を止めることになった。

 義母と義娘とアンとアリソンたち四姉妹の相談により、ドレスのデザインが決まるとリリーは一息ついた。今まで着たことのない色とデザインに怯え、妥協案を提案しては更に違う案を出される。アナベル夫人や本業である四姉妹の熱意に絆されて承諾してしまったが、本当に自分に合うのか不安でいっぱいだ。

「リリー様に似合うものばかりだと思いますよ。私はワクワクしております。」

 気遣ってくれるマーシャの言葉も、唇を尖らせるばかりでソファーで座面に顔をくっつけて目を閉じる。打ち合わせの延長戦をしようとするミレーヌにはこんな姿は見せられないので、本日も丁重にお引取りを願った。

「公爵様が戻って来たら、今度はダンスなのよ。どうしよう。」

 呟いてみると、不安が募る。


 リリーはダンスが不得意である。下手ではない、不得意なのだ。

 元婚約者のラルフは苦手であった。だから夜会に参加出来る年齢になっても二人で極力踊らずにすませていた。ダニエルから様々な相手と踊る必要性を指摘されることはあったが、リリーとしては結婚パーティーさえこなせればあとは有耶無耶に出来ると思っていたのだ。

「まさか婚約パーティーをもう一度しなきゃいけないなんて。前回は幼かったからミスしても愛嬌でごまかせたのよ。結婚パーティーだって幸せでって言えば何とかなるかなって。おまけに王家主催の夜会も公爵の相手だったらきっと注目されるわ。」

「というか、ファーストダンスとか踊らされそうじゃありませんか?クルム公爵の再婚ですよ。相手が気になってもし自分が踊っていても気にしますよ。」

 アンの指摘にリリーは言葉も出せず、足をバタつかせた。確かに第三者だったら自分も気にするだろう。こればっかりはアナベル夫人やミレーヌでもどうにもならない。リリーが練習するしかないのだ。せめてラルフと背格好やレベルが同じなら問題ないが、身長も肩幅も恐らくダンスのレベルも違うだろう。


「坊ちゃんは得意な方ですから、身を任せてしまえば良いのです。顔を寄せあって笑っていれば、それだけで問題ありませんわ。」

 マーシャの言葉に、リリーは頭を抱えた。

「私のステップが悪目立ちしてしまう。足でも踏もうものなら、公爵を狙っていた令嬢たちに叩き殺されかねないわ。マーシャ、夜会に出る前にはしっかりと私の顔を心に刻んでね。」

「そんな大袈裟な。」

 呆れるマーシャにアンはコソッと囁いた。

「それが王都で美形と言ったら一番に出てくるのはクルム公爵なんですよ。舞台俳優より整っていらっしゃるから、大きな声では言われませんがファンは多いです。あの光に耐性をつけようと色々と見て回ったアンが保証いたします。」

 胸を張るアンにリリーは深く項垂れた。

「あぁ、けれど酷い顔になったらサマー嬢が婚約破棄するように働きかけてくるかもしれないわ。お世話になった公爵家に恩をお返しできないわ。」

「坊ちゃんは死ぬ気でリリー様をお守りしますよ。」

 被害妄想が激しくなってきたが、マーシャは公爵の名誉のために言葉を添えた。多分怪我一つさせないだろうし、万が一怪我をしたら世話をしたがるだろう。車椅子があるから王都に戻っていいとリリーに言われたアルフレッドは捨てられた犬のようだった。

「死んだら駄目よ。私が盾になるわ。」

「であれば、ダンスの上達は必須になりますね。お互い無事が一番でしょう?出来ることからやりましょう。」

 現実逃避した先の結論にリリーは力無く頷いた。

「さっきまで領地にいらっしゃらないでと祈っていたけれど、練習するには公爵様がいないと無理だわ。どうか早くいらっしゃって。」

 両手を胸の前で組み、神に祈り始めたリリーにマーシャは小さな声で呟いた。

「来ないでなんて思われていたなんて、坊ちゃんお可哀想に。」


 □□□□□□□□

 リリーが祈りを変えても公爵は現れず、療養という名の元に鈍りきった体をアナベル夫人を師として練習を始めた。翌週末には公爵が領地に戻るからと覚え直したステップは優雅さに欠けているが、公爵のリードがあればどうにか出来るらしい。


「お戻りになりましたよ。」

 今までの中で一番待ち焦がれたリリーの前に現れた公爵は、リリーと目が合うとパッと逸らして「出迎え、ありがとうございます。」とだけ言いスタスタと玄関に入っていってしまった。時間にして五秒もない。声をかける隙も与えられなかったリリーの横で、

「あんなに親しげにおしゃべりしていたのに、二週間会えないだけで逆戻りなんてお父様の人見知り!!」

 とミレーヌは叫んで憤慨した。

読んでいただき、ありがとうございます。

次回の更新は来週月曜日を予定しております。

よろしくお願いします。

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