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公爵は未来の義兄と馬車の中

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


 どこまでも続く馬車を走らせる音の中、アルフレッドは貴族特有の笑みを浮かべながら向かいに座るダニエルの沈黙に耐えていた。


 一刻も早く婚約手続きを完了させるために、次の日にはゴードンとリリーの兄ダニエルと共に王都へと戻ることになった。リリーの怪我は心配だが、リリーにべったりのミレーヌに「私が守ります」と宣言されて追い払われたため渋々である。本心を言うならば、階段の昇り降りや長い廊下でリリーを抱き上げて介助したかった。そうすれば、愛の言葉を囁くタイミングも出来ただろう。しかし当のリリーは「車椅子で十分です。案外楽しいです。」という断りを入れられ、アルフレッドはぐうの音も出ない程に落ち込んだ。

「まだ正式な婚約者ではないのだから、自重しなさい。もっと早く行動していれば、世話をする理由も正当だったのに。」

 二ヶ月も躊躇していたのを咎めるように言う母の言葉に、そもそも求婚したことが発端の怪我だとは反論出来ず、アルフレッドは馬車に乗らざるを得なかった。リリーの世話をできない原因は自分である。だったら早く印を押して、正式な婚約者にならなければならない。


 車椅子に乗ったリリーと他に見送られ、帰路に着く。馬が走り出して暫くすると、向かいに座ったダニエルと目が合い彼は微笑んだ。リリーに向けられていたものとは違う、アルカイックスマイルだ。

「さて、何からお聞きしましょうか。まずは。」

 そこで言葉を切ったダニエルは口を閉じ、そのまま何分も経過している。

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


 ダニエルにアルフレッドは先を促せない。「何」を聞かれるのか、心当たりが多すぎる。

 本当に手を出していないのか?と聞かれて全力ではいとは言えない。婚約もしていないうちからリリーとは口付けをしてしまった。しかも三度も。二度は前後不覚だったと言い訳が出来ても、昨日は素面だ。令嬢から強請られたとしても、紳士は我慢しなければならないものだ。

 サマー嬢に関しても詳しくは話せない。隠し部屋の存在は教えたが、何故あるのかをダニエルに教えられるにはまだ時間がかかる。それに最初はリリーに教えたい。

 他にもリリーの寝顔をじっくり見てから頬に触れたことや、ドレスに自分の好みが反映されていること、まず婚約者がいた令嬢にパーティーで目を奪われたことも婚約者(仮)の兄には言い難い後暗いことが山ほどある。男三人の狭い馬車の中で、逃げ道なく追求されればアルフレッドはひとたまりも無い。恐らくゴードンは守ってくれないことだろう。


 伯爵家の嫡男で自分よりも年下なだけならば、どうにでも出来た。が、妹とは違って勘が鋭く、口も回るダニエルは少々手強い。おまけに未来の義兄でリリーという弱みまで握られている。リリー曰く「口が悪い」ダニエルから、どんな口撃が来るのかアルフレッドは笑顔のまま怯えていた。


 ふふっ。ハハハハハハハハハ。


 隣で無言を貫いていたゴードンが吹き出すと、途端にダニエルが笑い出した。二人とも腹を抱え、ついには座席から床に崩れ落ちた。それでもなお笑いは止まらず、アルフレッドは二人の異変に動揺したまま動いている馬車の中で立ち上がった。


 ごんっ


 長身のアルフレッドが馬車の中で立ち上がれば、当たり前だが天井で頭を打つ。丁度どこかの角に当たった頭を抑えながら座席で悶えると、更にダニエルたちの笑い声は大きくなる。もしも外に通行人がいたら、奇異な目で見られたことだろう。だが森の中で聞こえる男二人の狂ったような笑い声は馭者の耳にしか入らず、馭者は立場を弁えて無表情を装って馬を走らせた。


 □□□□□□□□

「いや、こんなに笑わせてもらって悪かったですね。夜会ではどんな相手も余裕の笑みで躱す姿をよく見ていたもので。」

「いえいえ、家族になるんですから素を見せるのも必要でしょう。普段の兄はこのくらいですよ。」

 まだ肩を揺らしながら笑い続けるダニエルとゴードンを前にアルフレッドは腕組みをして怒っていた。隣に座っていたはずのゴードンは、悶えている間にダニエルの隣に移っている。

「 二人が屋敷に戻ってくる前に話していたんですよ。クルム公爵と、兄のアルフレッドは別人そのものだって。多分沈黙に耐えられないから、帰りの馬車で試してみましょうと。」

「本当に目はキョロキョロして、動きもぎこちなく見物でしたよ。」

 堪えきれずに吹き出す二人も夜会では貴族としてスマしているはずなのに、何故自分ばかりが的にされるのかアルフレッドには理解できない。いや、出来る。ダニエルの大事な妹に手を出したからだ。

「どうせなら乙女でなくしていただきたかったんですが、口づけまでとは公爵も初でしたね。」

 思わず目を見開いたアルフレッドにダニエルは微笑みかけた。

「それが貴族というものでしょう?婚約破棄された妹が格上の公爵のお手つきになる。そうなれば、家としては逆転勝利です。」

 明け透けに言えば確かにそうだ。もし自分の知らない貴族の噂話であれば令嬢の人柄によっては「上手くやったな。」とアルフレッドも思うかもしれない。そしてリリーは関係ない貴族からそう思われる。

「そう思われても妹は怒りませんよ。」

 手に入れるにしても、もっと清廉潔白な方法があっただろうと後悔し始めたアルフレッドにダニエルが断言する。

「あれは図太い。ちょっとやそっとじゃ倒れません。これから先の事を考えていただく方が助かります。出来れば傍目から分かるほどに、妹が幸せに愛されていると表現していただけると私個人としても伯爵家としても有難い。」

 そう続けると、ダニエルはにっこりと微笑んだ。

「私は妻を好きになってから、彼女と結婚した際の我が家のメリットを見つけて糸を手繰り寄せました。ですから、公爵もそうなつていただくことを願います。」

「……ひとまずは、領地同士の流通の活発化。交流会を催しましょう。もちろん道路整備も念頭に入れています。」

「クルム領とエルバ領の双方の利益となるように努めましょう。」

 私欲に走る貴族にはなれない。生憎クルムは鉱石や眼鏡、エルバは茶葉が特産で共通の事業は起こせない。しかし競合よりはお互いに協力する可能性はあるだろう。

「有能だと評判のクルム公爵のことですから、きっと名案が浮かぶんでしょう。求婚のボートも前日の発案だそうで、私ではとても思いつきませんよ。」

 眉を寄せて考え始めたアルフレッドにダニエルが軽口を叩くと、思考は停止しゴードンに視線を向けた。

「湖の畔でなく、ボートだと言ったから驚いたものです。使用人に用意させるのも、大変でしたよ。まぁミレーヌが監視しているから二人きりになりたかったのは分かりますが、幾分急で焦りました。」

「成功して良かったですねぇ、公爵。それにリリーは眼鏡のないあなたを直視出来たようだ。」

 ペラペラと喋るゴードンとニヤニヤとするダニエルにうんざりしながら、王都へと早く着くようにアルフレッドは祈った。



 □□□□□□□□

 《こちらの領地の皆さんはクズ石と仰いますが、それでも十分綺麗だと思います。金具をつけたら可愛いペンダントトップになって、アンにプレゼントしました。》

 リリーからの手紙の一文を思い出したアルフレッドは、平民向けのエルバ領産紅茶とペンダントトップに加工した貴族向けには売れない極小の宝石を一つの箱に入れたギフトボックスを提案した。二人の婚礼の記念として配った後に、格上の相手との結婚にあやかりたい親達や若い娘がこぞって買う現象が王都で起こり、一大ブームとなるのは先のお話。

読んでいただき、ありがとうございます。

読み直す時間がないため、次回の更新は来週月曜日とさせていただきます。

よろしくお願いします。

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