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はるか傍らの少女  作者: つづら日和
第二章 転校生
37/63

11ー3

 私は目の前のセレナを凝視していた。

 

 丸山…私がそう名乗ろうと思ったのは人間の本を読んでいたときだった。その本には怪盗と呼ばれるモノが存在しており、変装姿の時に自分の本名を並び替えたものを名乗っていた。なんでわざわさ自分の名前を並び替えるという誰かにバレる確率を上げるのかはわからなかったが、彼らとマルに接点があることを私は報告を受けて知っていたため、丸山という「マル」が入った名前を名乗れば自分はマルだと彼らにアピールできるかもしれないと思った。彼らがマルとよく接触し、こちらの事情も知っているのであればアピールの効果は全く意味のない行為ではあったが幸いにもうまく佐竹陽希は餌に食いついてくれた。

 

 私、カルメは決してセレナと仲が良かったわけではない。

 ただ自分と同じで逆らえない立ち位置にいるのだと思っていた。今思うとあいつも私と同じなんだと勝手に共感し安心していたのかもしれない。

 だって現に、私の目の前に彼女は裏切って指名手配者と同行しているのだから。

  

 私達の星は数百年前までは地球と同じで生物は感情を持っていた。

 己の欲のために争い、向上させ…そうでなくてはこの星はこんなに発展することはなかっただろう。

 そして発展した先、その装置は生まれた。それは試作品ではあるがかなり強力で…今までの現実を大きく翻す装置だった。名を記憶改変装置という。今では神具などと大それた名で呼ばれているが生物の手によって作られたただの装置だ。だけど私達の能力よりも性能がよく、時間がかなりかかるが生物一つの人生を簡単に捻じ曲げて別のものにしてしまうような畏怖すべき対象ではあった。

 その装置は、聖地と呼ばれる部屋へ運ばれあの方によって使用された。その使用は悪用ではなかった。私にとって相手の記憶を変えてしまうこと…それさえが恐ろしいものだと今では思うが、あの方が行っていることが間違っているとは言い切れない。

 同じ生き物同士で争うのは酷なことだと言って見たこともないモノに涙し、怒りや悲しみで溢れ返る民たちを見ると哀れむあの方と違い、私は自分のことだけで精一杯だった…今でもそうだと思う。

 どこかの国で起こっている争いよりも私の明日がどうなるかのほうが大事で…何処かで餓死してしまいそうな子に寄付をするより、近くにいる大切な誰かが笑ってくれるようなプレゼントを買うほうが大切…周りの人なんてどうでも良かった私にとって後に言ったことはあの時こうしてればよかったという願望でしかないけど…

 きっと私はあの方と違って過去に戻れるのなら、ニュースに出てきた死にゆくモノたち助けるよりも、私がしてあげられなかったことを身近にいる大切なモノにしてあげるのことを即答で優先するようなやつだ。世界のモノを見るあの方と同じ景色が見えるはずがない。

 大切なモノを失ってから大切だったんだと気づいた…今まで…勉強しかしてこなかった。


「なんで、あなたここにいるの?」

 セレナ=クリスチャード…あなたは私とは違う。

 気づいてから大切にする私とは…。

 本当は今すぐこのことを上に通告しないといけないはずなのに…それだけは聞きたかった。

 

「…んーなんでって、言われてもなぁ」

 彼女ははにかんだ笑みを浮かべながら言った。

「カルメはどうしてあの子の体を大事にするわけ?」

 サラっとなんともないように言われた言葉に私は絶句した。

 体…。そう言われても無理もないのかもしれない。だけど、無性に怒りがわいてきた。

 

「あなたも一緒に来ない?」

 

 セレナが手を差し出してきた。

 差し伸べられた手を私は払いのける。

 パンっ!と乾いた音がなる。普段ならならない、手と手が当てる音。


「行かない!!」

 

 私は叫んだ。

 あなたがあの子のことを体と言おうが私とっては妹だ。例え、あの頃と違っても…私の大切なモノには変わりない。

 

 勉強ばかりしていた私の邪魔をして挙句の果に勉強のデータを消し飛ばすような奴だ…おねーはつまんないと言って馬鹿にしていつも私を笑ってきた。

 だけも、そんな勉強ばかりしている私をいつも寂しそうに見ていた。

 その時、私はなぜ妹が寂しそうに見ているのかが分からなかった。だけど私の邪魔ばかりしてくる鬱陶しいやつだから勝手に寂しがって苦しんどけばいいんだって、いい気味だって心の中で笑っていた。

 …ホント、私は自分のことばかりの最低なやつだった!!

 もっとちゃんと向き合えばよかった。


「壊れたものはなおらないよ?」

 平然と言い切るその顔に私は嫌悪する。

 なんでそうかんたんに割り切れるのか私には分からない。


 友達と喧嘩をした…ただそれだけだった。妹は未来での凶暴化を恐れて大人たちに神具の祀られる聖地へと連れて行かれた。

 そしてその装置によって妹は神の使いになった。言い換えれば失敗作だ。

 試作品は試作品…記憶を少しでも操作できる私達の種族は神具の効果は聞きづらい。妹は強引に感情をえぐり取られた結果、何も感じない物になってしまった。

 神の使い…従順にあの方から言われたことをのみをこなすモノあの方もあの方だ。失敗作しかそばに置かない…きっと他の生き物を信用していないからそんなことをなさるんだ。


『私は道をすぐに踏み外してしまう彼らの光にならなければいけない。』


 あの方がそういうのを聞いたことがある。言い換えればお前らと私は違う存在なのだと言っているのと同じだ。

 

「私の妹は壊れた。だけど私は妹のそばにいる。」


 例えそれが私自身の自己満足でしかないとわかっていても。

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