075 昇り詰めちゃいました
唐突にゼノウルス爺ちゃんから、神界長へ任ずると告げられた俺。
しかもフランが副神界長だとさ。
まるで夢のようではある。
ってかマジで夢オチなんじゃねぇのかこれ?
「フラン。俺のほっぺたを思い切りつねってみてくれないか」
「アキト、私にもお願いするわ」
お互いの頬をつねり合う。
「ふんぎぎぎぎぎ! なんてことしやがる!」
「きぃぃぃぃ! アキトこそ本気でしょ!?」
いってぇぇぇぇ!
こんにゃろ!
ガチで全力出しやがって!
ほっぺがもげるわ!
だけど、これで夢じゃないってのははっきりしたな。
「なにをやっておるか……」
俺たちの夫婦漫才を見て呆れ顔のお爺ちゃん、いや神界長ゼノウルスさま。
すいませんすいません。
アホなフランが、本当にすいません。
「名ばかりの神界長へ任じたわけではないゾイ。アキトよ、いや秋津火吐大神よ。汝に祝福を授ける…………光あれ!!」
真っ白なヒゲをモゴモゴさせながら言う神界長。
ツルツルピカピカな頭がキラリと輝く。
おお、マジで光あれ、だ。
ドン!
「ぐっ! おぉぉおお!」
「アキト!? どうしたの!? 顔がすっごいブサイクよ!?」
失敬な!
今はそれどころじゃねぇんだ!
光が、光が!
俺の中を駆け巡ってる!
しかも、超全力疾走で!
な、なんなんだこれは!
この全身に満ち溢れる万能感は!
この爆発的に膨れ上がる神力は!
「そして救済の女神フランシアよ。汝にも光あれ!!」
「えっ!? ちょっ、ひぎぃぃぃぃぃぃ!」
とても女神とは思えない悲鳴を上げるフラン。
おい、はしたなさすぎるぞ。
どうなってんだそのひどい顔。
「…………これで、ヌシらの神格は上がったゾイ……はひぃ……疲れたゾイ……」
ぐったりと立派な椅子にもたれかかる神界長。
ローブの胸元からは、例の不気味な紋がくっきりと見える。
しかし、さすがは神界長だ。
神力を失ってもここまで動けるとは。
マリーたちなんて、自分じゃ身体を起こすことすらできなかったもんな。
神力ってのは、神々の根源たる力だ。
つまりは生命力そのものとも言い換えられる。
神々が受肉した身体上の構成は人間に近いからか、神力をすべて失っても死ぬまではいかないようだが、まるで動けないのでは生ける屍も同然だ。
元が人間の俺だって、神力を大放出したあとはしばらく動きたくないくらい疲れるからね。
ってかさ、魔界の連中が神力を吸ったのはいいとして、やつらはそれをどうするつもりなんだろ?
魔族にしてみりゃ、最も忌むべき力だろうに。
触れたらそれこそ死をもたらす、魔族にとっては猛毒みたいなもののはずだ。
「大丈夫ですか神界長さま。お体に障りますよ」
「アキトや、案ずることはないゾイ。これは任命式のようなものだからのう。それに、ワシはもう神界長ではないゾイ。たった今から、ヌシが神界長となったのだ」
俺が神界長……
……どうしましょう。
全く実感ないんですけど!
「そしてフランシアよ。神力を失いながらも、これまでよく頑張ってきたのう。今こそヌシにかけた制限を解除してやろう」
「は、はい! ありがとうございます! やったよアキト! 私、やっと女神に戻れるわ!」
変顔から立ち直り、いつものかわいい笑顔に戻ったフラン。
うんうん、色々よかったなぁ。
あの顔のままだったらどうしようかと思ったぜ。
俺ですらちょっと引いたもんな。
「……アキト、フランシア。ヌシらに恥を忍んで頼みたいのだゾイ。ワシらに施されたこの紋は、魔界に行かねば解けぬものだと思われ……」
「おっと、皆まで言うのは野暮ってもんですよ。ゼノウルスさま」
「アキトの言う通りです。みんなをこのままになんてできませんから!」
「……ありがとう。ワシの目に狂いはなかったゾイ」
苦しげだが柔和な顔になるゼノウルスさま。
任せてください。
今の俺とフランなら、なんでもできそうです。
……気のせいかもしれませんけど。
まぁ、やるだけやってみますよ。
「ゼノウルスさま。ひとつお聞きしたいんですけど」
「……フランシアやマリアベルたちとの結婚なら好きにするがよいゾイ」
「えぇぇ!? いいんですか!?」
「わーい! 許されたわよアキト! やったぁ! お嫁さんだー!」
そうじゃなくて!
いやいや、それはそれで嬉しいんですけどね!
聞きたいのはそれじゃねぇんですよ!
フランも喜びすぎ!
「聞きたいのは魔界の位置です。場所がわからないことには……」
「ああ、なんゾイ、早く言って欲しかったゾイ」
あんたが勝手に先走ったんでしょうが!
俺の心のツッコミを気にする風もなく、ゼノウルスさまは手近な端末をピコポコといじっている。
「ふむ、魔界の現在地は……と…………マジなのかゾイ!?」
素っ頓狂な元神界長の声。
ゼノウルスさまも『マジ』とか使うんだ?
そのうちマジ卍とか言い出しそうだな。
JKかっ。
それにしても、嫌な予感しかしないんですけど。
俺は我慢できずに、ゼノウルスさまが見ていたモニターを覗き込んだ。
「なになに、三次元域、ザ・ユニバース極東方面、おとめ座超銀河団、局部銀河群、銀河系オリオン腕、太陽系第三惑星近郊……」
えぇぇ!
これって、地球やん!
魔界が地球の近くにあるって?
いったいなんの用あるってんだ?
…………おい、おい、おい。
まさか地球が急激に寒冷化してるのってさぁ……
やめてくれよ!
ふざけんなよ!
魔界の標的は地球なのかよ!?
ちくしょう。
絶対に阻止してやる。
俺の母星を狙うなんて許しちゃおけねぇ。
「だけど地球近郊って言われてもなぁ。どうすりゃいいんだよ」
「えっ? もしかして私に聞いてる?」
「いや、フランに聞いても無駄だろ? ただかわいいから見てただけだ」
「ひどっ! でもちょっと嬉しいかも、えへへ」
うんうん。
おバカさんでかわいいなぁフランは。
「ところでアキトよ。この神界を外側から眺めたことはあるかのう?」
「はい?」
あれ?
そういやないな。
神界に来た当初は、なんとなーくだけど、イメージ的に浮遊大陸のようなもんを想像してた。
でもね。
ここ最近では、ひとつの巨大なオフィスビルとかなんじゃないかなぁなんて思ってたりする。
だって、神界中のどこへ行っても室内しか見てないからね。
会社組織みたいな感じだし、こっちのほうがしっくりくるんだよ。
「あらっ? 私もないかも。どんな形してるんだろうね?」
フランもないんかい!
お前、一応ここで生まれた女神だろ?
「安心せよ。この神界も地球付近に来ているゾイ。ただ、予想よりも魔界が接近をしておって驚いただけだゾイ。ヌシらも神界を外から見たら驚くゾイ。なんと神界とは……」
ビーッビーッビーッビーッ
ゼノウルスさまの言葉を遮るように鳴り響く突然の警報音。
警報音だよな?
神界長室の無数にあるモニターが全て真っ赤な画面へ切り替わった。
その画面には大きな文字で警告と出ている。
なんだなんだ!?
なにが起こるんだ!?
『緊急警告! 緊急警告! 艦尾7時方向に重力震! 規模はマグニチュード31.8! 超質量が転移してきます!』
機械音声が大音量で警告した。
えぇぇ!?
艦尾だって!?




