074 とうとうこの時が来た!
「お、お、おおおい! どうすんだよフラン! 神界長さまから呼び出されるなんて絶対ただごとじゃねぇぞ!? クビか!? 俺たちはクビなのか!? あれか!? 太田の件がバレたのか!?」
「わ、わわわ、私もわかんないわよアキト! ででで、でも……どどどどうしよう!? 行けば叱られそうだし! 行かなきゃ叱られそうだし!」
ダバダバと慌てふためく俺とフラン。
緊張のあまり歯が上手くかみ合わず、ガチガチと音を立てる。
ついでに膝も笑ってらぁ!
どうせならどこからか飛んできた矢を膝に受ければ、行かずに済む理由になるのによ!
いかんいかん。
緊急事態に脳が混乱しまくってる。
落ち着けー。
落ち着くんだ俺ー。
「いいかフラン。こういう時は『人』と言う文字を手の平に三回書いて飲み込むんだ!」
「なにそれ!? どこのおまじないよ! 『女神』と三回書いたほうがご利益ありそうなんですけど!」
「そ、そうか、なるほど! めがみ、めがみ、めがみ、と……ごくん」
「ど、どう?」
「余計にわけがわからなくなった気がする」
「ダメじゃないの!」
全くもってダメだ。
一向に思考がまとまる気配はない。
「アアア、アキト、ここ、ここは神界での先輩たる私に任せなさい! 怖かったら背中に隠れててもいいのよ!」
「うおおお! 頼もしいぞフラン! よし! 俺はこんな風にお前の後ろで隠れてるからな!」
「ギャー! そこはお尻よ! エッチ!」
背中に顔を寄せたつもりが、どうやらフランの尻だったらしい。
異様に柔らかいとは思ったんだよ。
故意ではありませんよ。
事故です。
ええ。
故意ではありませんとも。
「……ぐにゅー……」
フランの足元からくぐもった声。
うわぁ!?
「フラン! ミリィを踏んでる! 踏んでるって!」
「えっ!? あっ、ごめんね!」
フランは慌ててどくが、ミリィの顔と腹に見事な足跡。
こりゃひどい!
道理でフランの尻が高い位置にあったわけだよ。
俺が背中とお尻を間違ったのも無理はないよね!
ね!?
「なぁフラン、ミリィたちをこのままにしていっていいのかな?」
「取り敢えずソファに寝かせていくしかないんじゃない?」
「そうだな……じゃあフランはユエルを寝かせてくれ。ミリィとマールは俺が……あ、ウェスタニアさんは床のままでいいや」
俺の発言にビクンビクンと全身を痙攣させて喜びを表すウェスタニアさん。
気絶してるはずなのに、身体は正直に反応してやがる。
うつ伏せのままだが、なんだかすっごい笑顔になってるし。
どんだけドMでド変態なんだ。
三人を寝かせ、全員にタオルケットをかけてやると、だんだん俺も落ち着いてきた。
黙々と作業をしてる時って、色々とつらいことも少しは紛れるからね。
いいぞ。
やっと調子が戻ってきた。
なるようになれ、が俺の座右の銘だもんな。
「こっちはOKよアキト」
「おう、こっちもだ。んじゃ、神界長さまのとこへ行くぞ」
「うん」
まだ不安そうなフランの腰を抱き寄せ、青い瞳を見つめる。
その目に映っている俺は、俺から見てもいい笑顔をしていた。
つられたフランも少しだけ笑う。
うむ。
笑っているほうが好きだぞ。
フランのおかげで俺も腹を括ることができた。
たとえ結果がクビであったとしても、彼女とともに生きて行こうと。
俺はそう誓いながら念じた。
ヒョイン
神界長室への転移が完了する。
広大な空間。
いや、部屋か。
そこは膨大な数のモニター群が部屋の大半を占めていた。
そして様々ななにかの機器類。
なんだここは。
俺がパッと思いついたのは、映画かテレビで見た軍や自衛隊の指令室、あるいはNASAかどこかの管制室である。
なんじゃこりゃ?
「こんなところに神界長さまが住んでいるの……?」
キョロキョロしながらフランが言う。
「住むかっ! さすがにここは居室じゃないだろう……きっと執務室なんだろうけど……ん?」
広大な部屋の一番奥に、なんとも立派な椅子があることに気付いた。
背もたれがこちらを向いているため、その姿は見えないが何者かの気配がする。
「……よく来てくれた。待っておったぞ……」
その椅子付近から重厚な声がした。
それはまさしく神界長のものだ。
それにしてはなにかおかしい。
声が妙に弱々しいってのもある。
もっとおかしいのは、あの圧倒的な重圧の神力をまるで感じられないことだ。
以前に会った時は、その神力の波動を受けただけで圧殺されそうなほどだったのに。
くるぅり、とゆっくり椅子が回る。
おっ?
とうとうそのお姿を拝謁できるのか!
いったいどんなガチムチマッチョなおっさんが現れるんだろう?
よくよく考えてみればさ。
神界長って、フランたちのお父様にあたるおかたなんじゃないの?
ってことはだよ。
俺はこのおっかねぇ人から結婚の許可をもらわなきゃならないわけだ。
うへぇ。
考えただけで胃がキリキリする。
お父さん! 娘さんたちを僕にください!
バカモン! 貴様などに大事な娘たちをやれるか! 貴様はクビだ! いや、ミジンコに転生させてやるわ! この不届き者めが!
……絶対こうなるって。
やべぇよ。
怖いよ。
ミジンコは嫌だ。
せめて哺乳類にしてくれ!
「……えっ!?」
フランが息を飲む。
おっと、妄想に耽りすぎた。
「……って、えぇぇ!?」
骨と皮!
ひょろひょろ!
ちっちゃい!!
でっかい立派な椅子に全く似つかわしくない、白いローブ姿の小さなヨボヨボ老人が座っていた!
失敬かもしれないが、今にもお迎えがきそうなほどのくたびれ果てた老人だ!
嘘だぁ!!
この人が、いや、このかたが神界長!?
ドッキリ!?
マリーあたりが仕掛けたドッキリなんじゃないのこれ!?
「……こんな姿で失礼するゾイ。よく来てくれたな、アキトにフランシアよ。待っておったゾイ」
しゃべりかた!
なにその語尾!?
あの重厚な声は作りものだったのか!?
「……疑っておるな? ワシが神界長の『ゼノウルス』だゾイ。面倒なので『ゼノ』と呼ぶがいいゾイ」
「「…………」」
俺もフランも声が出ない。
正直言って、まだ冗談だと思っている。
マリーが『ドッキリ大成功!』とか書かれたプラカードを持って、そこらへんから飛び出してきそうだからだ。
「面食らっておるのう。まぁ無理もない。神力を失ったワシはこんなもんだゾイ」
「「はい!?」」
神力を失った!?
なんでまた!?
「ヌシらがコソコソとミドガルズでなにかやっておる時に、魔界から攻撃を仕掛けられてな。ほれ、覚えておるか? 正月に撃ち込まれた紋の刻まれし柱を」
「は、はい。覚えていますわ。神界長さま」
「ああ、あの『謹賀新年』と書かれた……」
あったなぁそんなこと。
変わった年賀状だと思ったもんだよ。
「うむ。あれを大量に撃ち込まれたのだゾイ。あれはのう、一本ならどうと言うことはないのだが、複数になると強烈な結界になるのだゾイ。解析部がそれを解明したのはつい先日での。対策を講じようとした矢先に先制されてしまったゾイ」
なんてこった。
俺たちがミドガルズに行ってる間にそんなことが……
って、おいおい!
コソコソやってたのバレてんじゃーーーん!
ミジンコ確定!
さらば現世よ!
「その結界と言うのが曲者でな。神々にのみ効果を発揮し、神力を吸い取った挙句、我らの身体に封印を刻むと言う悪質なものだったのだゾイ」
「それがあの、胸に刻まれた紋ですか……」
「うむ。誰の胸をみたのか知らぬが、ヌシもスケベよの」
「!?」
なんてこと言うのこのお爺ちゃんは!
別にスケベ心で見たわけじゃ……!
だが、これでわかったこともある。
神界長ゼノウルスはスケベジジイだ!
じゃなかった。
俺は神力を持っていても、元が人間だから結界の効果がなかったんだな!
んでもって、フランは吸われるべき神力が体内に全くないもんだから、神と判断されなかったんだろう。
……考えてみれば哀れなヤツだ。
正真正銘、立派な女神なのにな。
「現在、この神界において神力を保持しておるのは、アキトだけだゾイ。そして、身体が無事な神はフランよ、ヌシだけである!」
ゼノウルスさまはプルプルと震える脚でどうにか立ち上がると、俺たちをビシッと指さした。
大丈夫ですか?
そのままポックリと逝ったりしませんよね?
「そこで、有事における臨時的ではあるが、汝、火神秋人を神界長に任ずる!」
「「!!!!」」
「今後は秋津火吐命改め、秋津火吐大神を名乗るが良い! そして救済の女神フランシア! 汝を救済部部長から副神界長へ昇格するものとする!」
マジっすか!?
俺が神界長だって!!??
またまた御冗談を!!




