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073 そこらに転がる女神たち


 俺は自らの失態を隠蔽いんぺいするため……ごほっごほん。


 もとい。

 身勝手な理由で転生先の異世界ミドガルズを滅ぼそうとした太田邦夫に天誅を食らわせた俺とフラン。


 あの後、アベルとステラに説明し、ついでに宮廷魔術師となった勇者の一人、ポンタにも会ってきた。

 俺たちの顔を見ただけで泣き出したポンタに、夫であるバルガスの顛末も説明したら、さらに号泣してたっけ。

 ……さすがに『きみの旦那を美少女に転生させました。しかも、もしかしたらアベルとステラの子として生まれるかもしれません』とは言えなかったがな。

 たぶん、違う意味で泣かれると思う。


 驚いたのは、初めて会うはずのミドガルズ王が俺たちを大歓迎してくれたことだ。

 なんでも、20年前にアベルから俺たちの話を聞き及び、ずっと会ってみたいと思ってたんだそうだ。


 20年も待たされた反動からか、それとも差し迫ったミドガルズの脅威が去ったからだろうか。

 あるいはその両方か。


 俺たちは国賓級の歓待を受けたのだ。

 まぁ、アベルたちとともに魔王討伐に参加したわけだし、ふざけた理由でミドガルズを滅ぼそうとした太田の野郎も成敗したんだから当然かもしれないがね。


 んで、夕飯時だったことも手伝って、超豪華なディナー、いや、あれはもううたげだな、が催された。


 酒あり、歌あり、踊りあり、そして半裸の美女たちをはべらせる俺あり。

 鼻の下を伸ばす俺をつねりまくるフランだったり。

 心底楽しそうに、幸せそうに、今度こそ訪れた平和を享受する人々だったり。

 と、なかなか盛りだくさんだった。


 救ったあとの世界を見る機会ってほとんどないからな。

 だいたいはすぐ神界に帰っちゃうし。

 なので、俺にとっても人々の顔を見る良い体験にもなったと言える。


 ぶっちゃけると、ちやほやされるのはとても気持ちがいいってこった。


 ともあれ、そんな充実した時間を過ごし、散々飲み食いしたあと、俺とフランは神界へ帰還したわけだ。



「ウィー、お前らぁ、今けぇったぞぉー」

「酔っ払いオヤジみたいよアキト。私、そんな旦那様は嫌だからね。毎日働きもせずお酒ばっかり飲む夫なんて」

「飛躍しすぎじゃね!? お茶目なジョークじゃねぇか。どんだけ想像力豊かなんだよ」

「ならいいけど……って、あら? 誰もいないのかしら」


 救済部の部長室は静まり返っている。

 こちらでの時刻は午後5時すぎか。

 確かに終業時間はすぎてるけど、普通ならって言うか、ここ最近は夜遅くまでみんな帰らないことが多い。


 なぜなら、俺が帰らないからだ。

 だって、東京の部屋に戻っても寒いだけなんだもん。

 なら、快適な神界にいるほうがマシだろ?

 あたたかいし、腹が減ったら食堂でなにか作ればいいしな。


 そんな俺に、フランは当たり前として、ミリィやユエル、それにマリーも付き合ってくれてたりする。

 ……ウェスタニアさんはほっといてもそこらへんに転がりながら一人でアンアンしてるからいいんだ。

 むしろ、そのままそっとしておきたい。


 そういやその真っ先に『お帰りなさいませご主人様ぁぁぁ』と騒ぎ立てそうなウェスタニアさんすらいないのか。

 珍しくみんな定時で帰ったのかな。


 それにしては、なんだか神界全体が静かなような……

 普段なら四六時中、女神たちのざわつきみたいなものを感じたりするんだがな。


「アキト! 早く来て! ねぇ、ミリィ! どうしたの!? ユエル! マリアベル副神界長!」


 切羽詰まった様子の悲痛なフランの声。


 慌てて駆け寄ると、ソファにミリィが倒れてる!

 給湯室への入り口付近にユエルが!


 机の蔭にはうつ伏せに倒れたウェスタニアさんの背中で、うつ伏せに倒れてるマリーが!

 状況がややこしいわ!!

 つーか、なにが起こったらこんなことになるの!?


 まさか食中毒とかじゃないよね!?

 食い意地の張ってるこいつらなら有り得るぞ!


 やべぇよやべぇよ!

 食中毒なんて出してみろ!

 速攻で食堂は営業停止処分になっちゃう!


 俺は急いで全員の呼吸と脈を調べた。

 取り敢えずみんな生きているようではある。


「ねぇアキト、これなに?」


 フランが示しているのは、介抱するためにはだけたミリィの白い胸。

 うひょう!

 じゃなくて、心臓付近に気味の悪い真っ黒なあざがあった。


 ……いや……

 これはどこかで……


 そうだ!

 これはもんだ!


 魔神サイスや四天王ズールの全身に施されていた不気味な模様。

 あれに似ている。


「ア……アキ……ト……」


 聞き取れないほどのか細い声を発するマリー。


「マリー! どうした! なにがあったんだ!?」


 そっと背中を支え、抱き起こす。

 もう泣きそうなフランも顔を寄せた。


 まるで看取るみたいだぞ。

 縁起でもない。


「……ま……魔界の………………」

「おい! しっかりしろ! マリー! 死ぬな! 死ぬんじゃない! くそっ! ……仕事はしないけどいい子だったのにな……」

「マリアベルさま! 死なないで! 私まだ立て替えたジュース代を払ってもらってません!」

「……こりゃ! 勝手にわらわを殺すでない! ……フランよ、お金は返すがもうちょっと心配してもよいと思うのじゃ……」


 あれぇ!?

 意外と元気!

 そういや、脈も呼吸も普通だったな。


「マリー、なにがあったって言うんだ? なんでみんな倒れてる? ミリィの胸にある紋はお前にもあるのか? ……どれどれ、はだけて調べましょうかね」


 ワキワキとさせる俺の手を、すかさずペシッと叩き落とすフラン。

 うむ。

 既に阿吽の呼吸の域まで達したな。

 夫婦漫才、ここに極まれり。


「ま……魔界が……」


 再び途切れ途切れに話し出すマリー。


「うんうん、魔界が?」

「……この神界に……ガクッ」

「マ、マリーッ!」

「マリアベルさまー!」


 随分都合のいいときに気絶しますね!?

 なにひとつ説明してもらえなかったよ!


 もうダメだ。

 これじゃ埒が明かない。


 とにかく、魔界がこの神界になんらかの接触をしてきて、女神たちの胸に紋を刻み、それが元でこうなったってことはわかった。


 だが問題は対処法だ。

 人間の症状ならまだしも、女神の身体ってどうなってんだ?


 臓器類はだいたい同じっぽいんだけど……

 仕方ない。

 資料室で調べてみるか。


 などと、マリーたちを介抱しているフランの左右に揺れるお尻を眺めながら考えていた時、異変は起こった。


 ピ……ン……ポン……パンポ……ン……


 チャイムまで死にかけてんじゃねぇよ!

 せめて放送のチャイムくらいちゃんと鳴らして!?


 いや待て。

 誰がこの放送を?


 副神界長のマリーですら動けないんだぞ?

 だもんで、俺は全ての女神が行動不能に陥ってるのかと思ってたんだが。


「…………あー、あー……常務取締役、及び救済部部長……この放送が聞こえているのならば、両名はただちに神界長室まで来るのだ……」


 男の声!?

 この神界で男と言えば、俺以外では一人しかいない!



「アキト!」

「ああ! 間違いない、神界長さまの声だ!」




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