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072 バカ野郎をブッ飛ばせ!


「おぉぉおおりゃぁぁ!!」

「はぁぁぁぁ!!」


 俺とフランが放つ裂帛の気合とスキル。


 アナライジングによればレベル80以上の狂猛なモンスターの群れ。

 だが俺たちはものともせず蹴散らしていく。


 これぞ無双。


「しかしこいつら、倒しても倒しても延々と湧きやがる。どうなってんだ?」

「さぁねー、でも、やるしかないじゃない?」


 背中合わせに立つフランが、すこしだけ楽しそうに言う。

 今のフランは俺から神力を供給されているし、この異世界ミドガルズにおいてはレベルも99だ。


 ミドガルズ内に限って言えば、無敵に等しいだろう。

 だから俺も安心してフランに背中を預けているのだ。


 守ってやるよ、などと格好いい言葉を常日頃ほざいてる俺だが、そのうちフランに守られる日が来そうで気が気じゃない。

 そんなことになったら男として情けないぞ。


 ともに闘うパートナーとしては理想的なんだけどね。

 伴侶としてのパートナーなら、やっぱり守ってやりたいもんな。


 ま、フラン自身はそんなこと気にしないと思うが。

 しかしこいつはわかってんのかねぇ?

 俺がどれだけ四六時中想っているのかを、さ。


「アキト、右から新手よ!」

「む、左からもだな。挟み撃ちか……なんでこれほど系統立った行動が魔獣にできるんだ……?」


 さっきなんて、俺たちを前方に集中させた挙句、斜め後方から伏兵じみた群れが現れたもんな。

 あれには少しだけヒヤリとしたぜ。


 こっちは二人しかいねぇってのに周到なこった。

 伏兵をおくなんて、シミュレーションゲームじゃねぇんだからよ。

 堂々と正面からぶつかってこいってんだ。


 ……シミュレーションゲームか。


 もしかしたら魔獣を操る指揮官がいて、そいつが指揮をっているとしたら……

 ……あのクソキモオタ、そう言うの好きそうだな。


 しかも三国志や大戦略などの硬派なやつじゃなくて、エロ系のシミュレーションゲームな!


「フラン、ここは俺が食い止める。お前にマスタージャンプとスローフォールのスキルをかけるから、上空でズームアイを使って周囲を調べてくれ」

「了解よ」

「全く動いていない大集団を見つけたら教えてほしい。マスタージャンプⅢ(スリー)! スローフォールⅡ(ツー)!」

「任されましたー。ズームアイⅣ(フォー)!」


 フランは一度しゃがむと、全身をバネにし、弾かれた鉄砲玉のように空へ飛んで行った。

 うほー!

 パンツ丸見えだー!

 清純なフランらしく純白ぅぅぅ!

 はぁはぁはぁはぁ。

 じゃなくて。


「俺から見えなくなるほど飛びやがって。あれじゃ成層圏まで行っちまうぞ、っと! サイクロンブレードⅣ(フォー)!」


 俺に群がるサイみたいな姿の魔獣どもを、刃の竜巻で薙ぎ払う。

 こんな連中、神々のスキルを使うまでもない。

 この世界のスキルだけで充分だ。


 数の暴力、なんて言葉もあるが、俺にはそんなもん関係ない。

 とにかく片っ端から粉々にしてやるだけよ。


「…………キトー……こうに……たわよー」

「あぁーーーーん!? なんてーーーー!?」


 遥か上空から途切れ途切れに聞こえるフランの声。

 さっぱり意味がわからねぇ。


「ウィスパーボイスⅢ(スリー)! フラン!」


 魔獣を牽制しながら、ささやきのスキルを発動させた。

 これは指定した相手が、どんなに遠くへいても会話できると言う優れものだ。

 いわば電話のようなもんである。

 ただし、パーティーメンバーにしか効果はない。


「フラン、なんだって?」

「わぁ! 急に声がするからびっくりしたぁー! アキトなの?」

「俺しかいねぇだろ。んでどうした?」

「向こうの山の麓あたりに塊があるわね。きっとあれよ」

「向こうってどっち!? 状況報告は的確に! 俺からは全く見えないんだぞ!」

「あ、そっか。太陽が反対側だから、えーと東のほうよ!」

「了解だ。サンキューフラン。早く戻ってこいよ」

「はーい」


 さて、スキルの効果で落下速度を落としたフランが戻ってくる前に、邪魔なモンスターを片付けるとしますかねぇ。


 俺は居合の構えのごとく、スッと腰を落とした。

 対多数向きの行為ではないが、ソードスキルの奥義を使うにはこのポーズになるのがルールなんだよ。


 ピィンと俺の足元が円状に輝く。

 そして俺の頭上に現れた赤いゲージが溜まり始めた。


 発動までに少し時間がかかってしまうのは唯一の難点だな。

 フランの姿が徐々に大きく見えてくる。

 おお、素晴らしき絶景かな!


 ゲージは満タン。


 ああ!?

 もう溜まったの!?

 まだパンツを見ていたいのに!


 ズームアイ! ズームアイ!

 ダメだ!

 奥義発動中は他のスキルが使えない!

 ドアップでパンツを見るには、とっとと奥義を撃つしかないよな!


 俺は神速でエターナルソードを迫り来る魔獣へ突き出した。


「アトミックブラストソード!!」


 剣から放たれるとてつもないエネルギー。

 俺はその場で回転し、360度を薙ぎ払う。


 はよ終われ!

 魔獣なんかどうでもいいんだ!

 フランを下から見せろぉぉぉぉぉ!


 膨大なエネルギーの噴出が終わり、横に立っているのは渦中の人、フランさま。

 全てが手遅れであったのだ。


「お疲れ様、アキト。かっこよかったわよー」

「しくしくしくしく……」

「アキト!? どうしたの!? なんで泣いてるの!? どこか怪我でもしちゃった!?」


 やめろぉ。

 俺を気遣うなぁ。

 余計に虚しさしか残らないだろぉ。


「上から見た感じだと、もう残ってるのは例の塊だけみたいよ」

「そうか。なら一気に攻めちまおうか」


 たぶんそれが本陣だろう。

 元凶たるクソキモオタの太田邦夫もきっとそこにいるはずだ。


 俺たちは見つからないようにこっそりと、だが、とんでもない速度で移動を開始した。

 飛んで行くと目立つし、逃げられる可能性もあるんでな。

 ステルスとマッハブーツのスキルを使ったわけだ。

 説明いらずのスキルはありがたいねぇ。


 んで、山の麓近く。

 そこにはおびただしい数の魔獣。


 しかも、そいつらはきっちりと長方形に整列し、陣形を組んでいた。

 こりゃやっぱりおかしいぞ。

 太田の野郎はなんらかの手を使って魔獣を従わせているんだろうか。


 その本陣の真ん中。

 一番安全だろうと思われる場所。


 ひときわデカい象みたいな魔獣の上に見えるのは人影。

 いやがった!


 ズームアイのスキルで確認する。

 間違いない。

 太田邦夫だ。


 だが、顔は太田なんだけど、なんでか頭だけはサラッサラの銀髪だ!

 しかも前に会った時より若々しい!


 ……そうか。

 あいつは転生したんだもんな。


 ミドガルズでは20年経ってるんだから……二十歳かよ!

 そら若いわ!


 だけど、顔は転生してもそのままだったのね。

 南無。


 その太田だが。

 さっきからなにやら奇声を上げている。


 聞き耳をたてるまでもなく、甲高い声が丸聞こえだ。


「きぃぃぃぃ! ぽっくんの邪魔をするヤツらはどこへ行ったんでしゅか!? ぽっくんのかわいい怪物たちを殺した忌々しいヤツめ! 見つけ次第殺すでおじゃる! だけどこの数では王都を攻め滅ぼすなんてできないでござるなぁ! 一度地底へ戻ってもっと強い魔獣を補充するしかないンゴ! 見てろよ女どもぉ! ぽっくんを愛さなかったことを絶対に後悔させてやるんじゃぁー! こんな世界、ぽっくんが滅ぼしてやるぅぅぅぅぅ!」


 こいつ!

 逃げる気か!?


 しかも世界を滅ぼすって!?

 なんちゅう短絡的なアホなんだ!


「フラン、あんなバカはほっとくわけにいかん! 全力でシバくぞ!」

「あたぼうよ! べらぼぅめぇ! ありゃ女の敵でぇ!」

「また江戸っ子になってる!?」


 もうここまで来たら小細工はいらん!

 全霊をもってブッ飛ばすのみ!


 俺はエターナルソードのスイッチを入れ、一気に魔獣の群れへ飛び込んだ。

 右に左に斬り払いながら全力で叫ぶ。


「太田邦夫ーーーーー!!」

「ひっ!? だ、誰でおじゃるかぁ!? ……あ、後ろの子は……あの時のかわいいかわいい女神たんではありませんかぁ!! 者ども! 男は殺して女神たんだけ捕まえるんじゃぁーー! ぶひぃぃぃぃ! 女神たぁぁぁん! ぽっくんのお嫁さんにしてあげましゅよぉぉぉ! あの黒髪幼女の女神たんは一緒じゃないんでしゅかぁぁぁぁ!?」


 象さんの上で何かを振りながら魔獣に命令する太田。


 フランのことは覚えてるんかい!

 それに黒髪幼女の女神って……ミリィに幼女化されてた俺じゃんか!

 このド変態め!


「……どうしようアキト。私いま、本気であの人を殴りたいんですけど」

「だろ? てか、ぜってー殴る!」


 神力全開!

 もはや剣すらいらぬわ!


 神力を纏った俺に触れるだけで魔獣は霧散していった。

 大地へ還るがいい!


 眼前に迫る巨大な象。


「な、なにをしてるでおじゃるか! もう、目の前に来てるでおじゃるよ! あ、あ、あぁぁぁぁ!!」

「こんの、バカ野郎がぁぁぁあああ!!」


 象さんの鼻を駆け登り、頭の上にいる太田へ───


 ドゴォォォォオオオ!


「ぽっくんはただ女の子にモテたかっただけなんでしゅよぉぉぉぉぉーーー…………………」


 俺に思い切りブン殴られた太田は、夕暮れを迎えつつある空の彼方へ消え、キラリと光るお星さまとなった。


「知るかバカ! そんな腐り切った性根でモテるわけねぇだろ! そのまま神界まで飛んで行け!!」

「しっかり審問部の女神に怒られて反省しなさーーーい! ……逆に喜んだりして」


 象さんの上でたたずむ俺とフラン。

 フッ、虚しい闘いだったぜ。


 ひゅるるるる


 陽光を反射させ、ピカピカと輝くものが空から落ちてきた。

 パシッとキャッチしたそれは、なにやらよくわからんが、小さな宝珠オーブのようだ。


 俺たちは象さんを降りながら、オーブをよく見ようと沈みかけの太陽にかざした途端。

 あれほど騒いでいた魔獣の群れがピタリと静まった。


 全ての獣が伏せの体勢になってる!?

 なんだこれ!?


「あの野郎。まさかこいつを使って魔獣を操っていたのか?」

「そうみたいね。ねぇ見てよ、インフェルノウルフがまるで子犬だわ。かわいいー! よしよし、いたたた、よーしよしよし」


 かわいいか!?

 しかもそいつ、思い切りフランの頭を噛んでない!?


 それはともかく、このアイテムが危険だとわかったのは朗報だ。

 こんなもんがあっては第二第三の太田が現れぬとも限らんしな。


 破壊してしまうほうがよかろう。

 てか、太田はどこで手に入れたんだこんな物騒なもん。


「よし、フラン。こいつらを地底に返して俺らも帰ろうぜ」

「うん、そうねー。バイバイ、ワンちゃん」


 クゥン


 すっかり懐いた様子のインフェルノウルフが一声鳴いた。


 その後、俺たちは魔獣の群れを引き連れ、地底への亀裂へ向かった。

 気分はまるでハーメルンである。


 まずはアベルから聞いておいた亀裂があると言う地へ、リターンオブシティのスキルで近隣の街まで俺が飛ぶ。

 亀裂の場所を確認したら転移でフランが待つ場所へ戻り、そこから全ての魔獣とともに再び亀裂まで転移させにゃならん。


 これが意外と大仕事でな。

 すっげぇ疲れたわ。


 順番の最後尾となった、一番デカい象さんを亀裂へ押し込み、神力を駆使して二度と解けぬ封印を施す。

 最後にパキンとオーブを握り潰すと、ようやく全てが終わった。


「アベルたちに説明しなくていいの?」

「いや、会ってから帰ろうぜ。安心させてやらんと」

「うん! ステラにもお別れを言いたかったし」



 俺たちはアベル夫妻と会ってから神界へ帰るのだが、その神界がまさかあんな事態になっているとは、この時はまだ思いもよらなかったのであった。




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