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071 女神は崇拝されるもの


 キャンプにいる全員が満ち足りた食後の一服中である。


 とは言っても、この異世界ミドガルズに喫煙の習慣はない。

 なので、フランが淹れたお茶が主役だ。


 このお茶がまた、連中の度肝を抜き、フランのファンが一気に増えた。

 フランのかわいらしさも相まって、中には女神さまだと崇めるやつらもいる始末。


 しかもそれが正解なんだから、余計に始末が悪い。


 もっと悪いのはそんな輩を歯牙にもかけず、俺にべったりしてるんだから男どもの敵意も上がる一方なのだ。


 てめぇら、さっきまで俺のメシが美味い美味いっつってたろうが。

 いくらフランがかわいいからって、手の平を返しすぎだろ。


 恨みがましく俺をねめつけている連中に、負けじとガンをつける。

 アベルからインフェルノウルフを俺が軽々と屠ったことを聞いたのもあって、そっと目を逸らしていく男たち。


 根性のねぇ野郎どもだな。


 そもそもアベルが悪いんだよ。

 勇者たるアベルが、自分を超える英雄だなどと俺を紹介したもんだから変な空気になっちまったろ。


「それにしても相変わらずお二人は仲がいいですね」


 焚火の向こう側に座ったアベルが、空気を読んでか読まずか、そんなことを言い出した。

 そばには妻のステラが寄り添っている。


「お前たちもな」

「ははは。僕は20年前から思っていたのですが、やはりあの頃からアキト団長とフラン副長はお付き合いを?」

「当時は違ったさ。な? フラン」

「うん。でも今はアキトを愛しているわ。結婚の約束もしてるしね」

「おお! それはそれは!」

「お二人に神の祝福を!」


 アベルとステラ、そしてその赤ん坊にも、祝福を。

 ご利益あるかもよ?

 なんせ一応、女神代行と本物の女神が祝福をしてるんだからな。


 そんな和やかムードな俺たちとは反対に、フランのはっきりきっぱりとした言葉を真に受け、どよめく周囲の男たち。

 なんのつもりか泣き出す野郎もいる。


 聞き耳立ててんなよ。

 全く、女々しいやつらだ。


 ってか、どんだけフランが好きなんだよ。

 女神崇拝って意味ならわからんでもないんだが……

 こいつらは明らかに女性として見てるだろ。


 フッ、諦めてくれ。

 フランは俺の物なのさ。


 顎に手を当てニヒルに笑む俺。

 決まったな。


「アキト、変な顔してないで聞いてよ。一度神界に連絡を入れたほうがいいんじゃない?」

「変な顔とはなんだ! 失礼だよ!」


 とは言え、フランの言うことも一理ある。

 かなり強引に飛び出してきたし、みんなも心配している頃合いかもしれん。


「タブレットは持ってきてるから、『カミン』で無事と伝えるわ」

「お、用意がいいじゃないか。頼んだぞフラン」


 たぶん、ミリィが行きがけに持たせてくれたんだろうな。

 フランにそんな機転はないもん。


 ちなみにカミンとは、ラ〇ンに似たチャットやスタンプをやり取りできるアプリだ。

 ただし、神界専用だったりする。


「うーん……おかしいわね……」

「なにが?」


 珍しく真剣な表情のフラン。

 真面目な顔もかわいいぜ。


「ミリィから返事がないのよ」

「仕事が忙しいんじゃねぇの? このミドガルズからも子羊が増えているようだし」


 子羊ってのは神界用語で、言わば人間の魂だ。

 簡単に言うと死者ってことになる。


「そうかなぁ? 食堂で切り盛りしてるユエルはともかく、暇そうなマリアベル副神界長からも返事がないのよ? おかしくない?」

「はっははは、暇そうって、マリーに失礼だなおい。あれでも上司なんだぞ」

「だってぇ、そうとしか見えないんだもん」


 確かに毎日ふらふら遊んでるもんな。

 あれでも一応仕事はこなしてるってんだから、なかなか不思議な幼女である。


「取り敢えず『カミッター』のほうにもつぶやいておくわね」

「おう、そうだな。そうしてくれ」


 神ッターとは某SNSのツイ〇ターみたいなアプリで以下省略。

 あれなら神界全体に伝わるしな。


「バルガスやポンタにもお二人を合わせたかったなステラ」

「そうね……バルガスがあんなことになってなければ……」


 寂しそうにそんなことを話すアベルとステラ。


「ああ、バルガスならさっき会ったぞ。あいつのおかげでミドガルズの窮状がわかったんだよ」

「はい!? どこでです!? バルガスは先程のインフェルノウルフにやられて……えぇぇ!?」


 目を剥くアベル。

 しまった。

 余計なことを口走っちまった。


 このバカアキト、とでも言いたげなフランのジト目が痛い。

 うー、マジごめん。


 でもまぁ、この二人なら話してもいいような気がする。

 その旨をフランに目で問うと、ハァーとため息交じりにうなずいてくれた。


「アベル、ステラ。ちょっとこっちへ寄ってくれ」


 言われるままに寄ってくる二人。


「実はな……俺たち、神なんだ。正確には俺が代行でフランが女神」

「……やはりそうでしたか。薄々そんな気はしていました」

「はははは、嘘みたいだろ? 信じられなくても無理はない、ってあれぇ!? 信じるの!?」

「当然ですよ! 団を率いた手並み、どんなモンスターにも臆さない勇気、魔王と対峙した時の冷静さ。そして先程の料理、お茶。みんなも言っていましたが、あれは神の御業みわざでしょう」


 いや、料理はごく普通の……

 まぁ、納得してるんならそれでいいか。

 これ以上言うのは無粋ってもんだよな!


「んでまぁ、人は死んだら神の世界にくることになっててな。バルガスとはそこで再会したんだ。でも安心してくれ。あいつはこの世界にもう一度生まれ変わるよ」

「そ、そうでしたか! いやぁ、それは朗報です! ポンタにもあとで知らせよう!」

「ええ! きっと喜ぶと思います!」


 嬉しさで抱き合うアベルとステラ。

 よし俺も、とフランを抱き寄せようとしたんだが、見事にスカ。


 いつの間にかいねぇし!


 ああ、なんだ。

 お茶を淹れに行ってたのか。


「そういやポンタはどうしてるんだ?」

「今や彼女は宮廷魔術師です。なので王都にいますよ。バルガスとの子を育てながらですが」

「えぇ!? バルガスとポンタって結婚してたの!?」


 あの野郎!

 妻子がいるってのに、美少女に転生したいとかほざきやがって!

 しかも、なんの未練もなさそうに昇天してんじゃねぇよ!


 ちくしょう!

 もう一度ガチムチに生れ変わらせてやればよかった!



 ガンガンガンガンガン!



 俺の脳内葛藤を打ち破ったのは、金属を打ち鳴らす音。


 言わんでもわかる。

 こんなもんは火急の事態以外に有り得ない。


「敵襲! 敵襲ーーーーー!!」


 にわかに慌てだす男たち。

 すかさず立ち上がる俺と、アベル夫妻。


「アベル。キャンプの連中を連れて王都へ行け」

「なにを言うんですアキト団長! 僕も勇者です! 共に闘いましょう!」

「バカ言え! ステラとお腹の子はどうする? お前が守ってやるべき大切な二人なんじゃないのか?」

「グッ、それは……」


 唇を強く噛むアベル。


「ここは俺が引き受けた。なぁに、心配すんなって。あんなもんは楽勝だ」

「私も、よ」


 いつの間にか戻って来ていたフラン。

 無駄に自信ありげな仁王立ち。

 その余裕はどこからくるんですかねぇ。


「……俺とフランで引き受ける。アベル、負傷者たちはお前に任せたぞ」

「は、はい! ご武運を!」

「必ず無事でお戻りください!」


 俺たちは黙ってアベル夫妻と固い握手を交わした。

 そしてフランが己と俺に様々な支援スキルをかける。


 焼け落ちた村のあった方角から地鳴りが近付きつつあった。

 物見の男が途方もない魔獣の数だと騒ぎ立てている。


 動ける男たちは必死の形相で天幕や資材を片付け、馬車へ負傷者を。


「用意はいいかフラン」

「うん!」


 俺はエターナルソードのスイッチを入れた。

 ブォンと頼もしい輝きを放つ剣。


 アベルとステラはまだ逃げない。

 ギリギリまで踏みとどまるつもりか。

 それとも俺たちを見届けたいのか。


 迫る魔獣の群れ。

 いや、これはもう軍勢と言っていいだろう。


「俺が道を切り開く。フラン、遅れるなよ」

「ふふん、誰に言ってるのよアキト」


 お前だよ!

 もういい、行くぞ!


「ヴァリアブルスラッシュⅣ(フォー)!」

「エーテルリアクターⅣ(フォー)!」


 俺の剣気とフランが放つビーム状の魔法が魔獣を蹴散らしていく。

 そのまま新手の群れに向かって走り出す俺たち。



「す、すごい……さすがはアキト団長とフラン副長だ……!」



 アベルの驚愕と嘆息が背中を打つ。


 俺は前を向いたまま親指を立てて答えてやるのであった。




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