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070 俺の料理は負傷者の心をも満たす


「お、お久しぶりです! 僕が生きているうちに再びアキト団長やフラン副長と会えるなんて!」


 男泣きで俺の両手をブンブン振るアベル。

 中年男がみっともないぞ。


「あれからだいぶ経ちました。ともに魔王を討ち滅ぼしたのがまるで夢だったのではないかなどと思うほどです……それにしてもお二人は全く20年前のまま変わられておりませんね! きっと団長たちは神さまだったんだよなどとバルガスたちと話していましたが……今なら真実だったのだと確信できます! ミドガルズの危機にはこうしてまた来てくださったのですから!」

「落ち着けアベル、そんなに興奮すんなよ……って20年!?」


 驚いた。

 マジでこっちの世界は時間の流れかたが早いらしい。


 にしても20年て。

 そりゃアベルもバルガスも老けるわけだ。


「こ、これは……! インフェルノウルフを倒したんですか!?」


 燃えカスになった狼の死骸を愕然とした目で見るアベル。


「我々でも苦戦する魔獣を無傷で……さすがです!」


 今度は俺を驚愕の眼差しで見た。

 よせよ。

 テレるじゃん。


「待て待て。お前だってレベル99の勇者だろう? こいつのレベルは75だったぞ。なんだよ苦戦って」

「ハハハ……お恥ずかしい限りですが、寄る年波には勝てませんでした。加齢とともにステータスがどんどん落ちまして……」


 な、なるほど。

 20年前が18歳だったんだから、今はもう38歳か。

 ならば体力の低下もうなずける。

 スポーツ選手であれば、現役引退を考える時期だもんな。


 てか、ステータスも下がっちゃうのか……

 結構厳しい世界なんですね……


「ところで、ここの村人たちはどうなったんだ?」

「はい、大半は無事です……勇敢に食い止めてくれた冒険者たちがいましたから……」


 焼けて絶命した幾人かの遺体に、そっと黙祷するアベル。

 俺とフランもそれに追随する。


 魂はとっくに上がっていってるようだし、彼らのことは神界のミリィに任せるしかあるまい。

 せめて安らかに眠ってくれ。


「さぁ、新手が来ないうちに郊外のキャンプに戻りましょう。魔獣の大軍勢が迫っていると言う情報もありますから」


 アベルの言葉を聞いた俺は、フランに目配せする。

 俺は一気に太田のところまで行きたいからだ。


 しかしフランは全くこっちを見ていなかった!

 それどころからホイホイとアベルの後ろをついて行ってる!


 いつからそんな安っぽい女になっちゃったの!?


「ふぎゅ!」


 俺がフランの首根っこを摑まえると、潰れたカエルのようにフランが鳴く。

 当然怒るフラン。


「げっほげっほ、うぇーっほ! なんてことするのよバカアキト!」

「アホ! 俺たちにそんな暇あるか!」

「だってお腹も空いたし、お昼もまだだったし……」

「……確かに腹は減ったが、キモオタを見つけるほうが先だろ」


「キモオタ……?」

「ああいや、なんでもない」


 怪訝そうなアベルに慌てて手を振る。

 いきなり太田のところへ行くなんて言い出したら、ついてきそうだもんな、こいつ。


「フラン副長、キャンプには食料がたくさんありますよ」

「ほんと!?」


 途端に目の色を変えるフラン。

 この食べたがり屋さんっ。


「ただ、女や子供と老人たちを先に王都へ逃がしましたので……食材はあっても、料理を作れる者が……」


 落胆したようなアベル。

 すかさず俺のほうを見つめるフラン。


 なんだよその期待に満ちた目は。

 そんな暇はねぇっつってんだろ。


 つつつーとフランは俺のそばに寄ってくる。

 耳元へ唇を寄せて、とんでもなく甘い言葉をささやいた。


「ねぇ~、アキトぉ。帰ったらおっぱい吸わせてあげるから~、お・ね・が・い」

「本当だな!? 絶対だな!?」

「ちょっ、食いつきすごくない!? 冗談よ、冗談!」

「いいや! 一度言った以上、約束は必ず守ってもらうからな!」

「ひぃぃ! アキトがケダモノにぃ!」


 バカ野郎!

 おっぱいってのはなぁ、男の夢なんだよ!

 あのふくらみには夢が詰まってるんだよ!

 そんな素晴らしいもので俺を釣ったんだから、それ相応の覚悟をしとくんだな!


 うっひょう!

 俄然やる気が出てきたぜ!


「よーしアベル! とっととキャンプへ行こう! 全力疾走だ!」

「えぇっ!? は、はい、こちらです」


 村を離れ、しばらく王都側へ進んだ丘陵地帯にキャンプはあった。

 そこかしこに天幕が張られ、負傷者や男たちがたむろしている。


 その負傷者たちを魔法で癒している者がいた。

 太った銀髪の女性である。


 いや、失敬。

 どうやら妊婦さんのようだ。


 彼女は俺たち、と言うか、アベルに気付き笑顔で手を振っている。


「お帰りなさいアベル」

「ただいまステラ」

「あら? お二人は……えぇっ!? まさか!」

「そうだよ! アキト団長とフラン副長がきてくれたんだ!」

「まぁ! お久しぶりです! お二人とも変わらずお若いままで……!」


 なんと勇者の一人、癒しの僧侶ステラであった。

 俺とフランにそっとハグをして再会を喜び合う。


 しかしまぁ、身重だってのによく頑張ってるなぁ。

 ……身重、か……


「なぁアベル。お前はもしかしてステラと?」

「はははは、その通りです。ステラと僕は結婚したんですよ」

「おお、そいつはめでたいな!」

「おめでとう! アベル、ステラ!」

「ありがとうございます。今はもう、僕らの子が元気に生まれるのを願うばかりですよ!」


 そうだろうとも。

 俺も願ってるよ。

 その子は次世代の勇者かもしれないんだからな。


 …………ちょっと待てよ。

 まさかとは思うんだけど、この子がバルガスの転生体とかってオチはないよね?


 やべ。

 あいつの転生先をこのミドガルズにしちまったし、有り得なくもないぞ!

 ガチだったらごめんなアベル……

 中身がバルガスでも見た目は美少女のはずだからかわいがってやってくれ……


「では、食材置き場に案内しますよ」

「あ、ああ、頼むよアベル」


 大きな天幕の裏手。

 そこには荷車に積まれたままの食材が多数見受けられた。


 こっちの食材はよくわからんから、図鑑のスキルを参考にする。

 それでもわからないものは直接味を見るしかない。


 牛肉、キャベツ、たまねぎ、人参……


 ふむ、それほど地球の食材と味は変わらんな。

 そこそこ種類も揃ってるようだし、色々と作れそうだが、はて、どうしたもんか。


「アキトー、これ、なに?」


 フランが指さしているのは、どう見てもデカいジャガイモかサツマイモだ。

 だが、切ってみると中身は真っ赤。


「ほー、こりゃ珍しい」

「なになに?」

「食ってみろよ」

「……えっ? うん……なにこれ!? 甘いんですけど! 不思議ー!」

「だろ? これは地球で言えばビーツって野菜だ。加熱するとカブみたいにとろりとして美味いんだよ」

「へぇー! アキトはなんでも知ってるのね!」

「よせやい」


 ビーツか……

 負傷者も多いし、胃に優しく栄養たっぷりなほうがいいよな。

 よし、メニューは決まりだ。


「アベル。水をたくさん用意してくれ」

「了解しました」

「フランには野菜を切ってもらうぞ」

「はーい」


 まずはかまどに巨大な寸胴を設置する。

 その中に油とバターを入れ、一口大の牛肉を炒めた。


 色が変わる程度に焼けてきたら、フランの切った野菜類を投入。

 たまねぎ、ジャガイモ、人参、キャベツ、にんにく。

 これらも炒めていく。


 油がなじんだところへ、アベルが動ける男たちと汲んできた湧水を注ぐ。

 さらにビーツと別の鍋で煮詰めておいたトマトも加える。


 香り付けに香草を少々。


 問題は味付けだ。


 塩はあるんだが、肝心のコンソメがない。

 こればかりは俺が具現するしかなかろう。


 ふんぬぬぬぬと神力を駆使して固形コンソメを捻出する。

 はぁはぁ、疲れた。

 こんな時にユエルがいればなぁ。


 ともあれ、これで完璧だね。


 もうわかったろう。

 この料理は『ボルシチ』だ。


 これなら野菜もたっぷり摂れるし、なにより身体が温まる。


 香りにつられたのか、ぐぎゅ~~、ぐりゅ~~とあちこちから腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。

 わかったわかった。

 もうちょい待っててくれよ。


 こいつはじっくり煮るのがコツなんだからな。


 しばらく煮込み、野菜にスープが沁み込んだら完成でーす。


 アベルと男たちに手伝ってもらい、器によそったボルシチを皆に配る。

 だが、真っ赤なスープに仰天する面々。


 いいからいいから。

 黙って食ってみなさいって。


「ふー、ふー……シュル……んん!? う、う、うまぁぁぁぁい!」

「なんだこれは!? 美味い! 赤いのに美味いぞぉぉぉ!!」

「オッフゥゥゥゥン! 胃袋に染み渡るぅ!」

「甘みもあって、野菜もスープを吸ってて……あぁぁぁ……誰かオレの手を止めてくれー!」

「肉、肉が、信じられないくらい柔らかい……!」

「これは神だ、神の御業みわざだ! ハフッ! ハフッ!」


 はっはっは。

 ほれ見たことか。


「アキト団長、ぼ、僕はこんなに美味いものを食べたのは初めてですよぉ……うぐっ」

「私もです団長! グスン、お腹の子も喜んでおりますわ!」

「えぇ!? 泣くほど!?」


 ダバダバと涙をこぼしながら頬張るアベルとステラ。

 感動しすぎじゃね?


 気持ちはわからなくもないんだけどさ。

 殺伐としてる時のあったかい食べ物って、不思議と心が休まるからな。



「ア゛キ゛ト゛ぉぉ、私も美味しくて泣けちゃう~!」

「なんでフランまで泣いてんだよ!?」




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