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069 行ってきますは強引に


 満面の笑みで天へ昇っていくバルガス。

 美少女に転生できると知って、とんでもなく満足そうだ。

 その目はまだ見ぬ麗しき己の姿を映し出してでもいるのか、やたらとキラキラ輝いていた。


 夢見る乙女かよ。


 ってかさぁ、お前、勇者の一人だろ?

 そんでモンスターにあっさり殺されたってのに、ミドガルズにはなんの未練もないわけ?

 晴れ晴れとした顔しやがって。

 まだ向こうじゃアベルたちが必死に頑張ってるだろうに。


 あ、そういや転生先を決めてやるの忘れてた。


 ……ミドガルズでいいか。

 考えるのも面倒臭いし。


 カタカタとキーボードを打ち、パソコンに情報を入力してやる。

 これで万事オーケー。


 バルガスは異世界ミドガルズにおいて裕福な家庭のもと、かわいらしい女の子に転生しますよっと。


「あぁぁ! それも私の仕事じゃないですか!」


 パソコンに覆いかぶさるミリィ。

 ふはは、もはや手遅れだ。

 既にデータは転送済み!


「だけど、ミリィ。よくバルガスを引き留めてくれたなぁ。そうでなきゃこの情報は知り得なかったぞ。ありがとうな」

「へへへー。アキトさんとフラン先輩が初めて功績をあげた一件でしたからね。私が救済部へ転属する折に、色々チェックしておいたのが功を奏しました」

「うんうん、仕事熱心でえらいえらい」


 頭を撫でるとミリィの銀髪ツインテールがピコピコ上下する。

 きっと嬉しさの表れなんだろうが、まるで犬の尻尾だ。

 かわいいからいいけどね。


「で、どうするのアキト。各部署に通達して許可を得るにしてもしばらくかかるわよ?」

「うぉぉぉ、そうだった!」


 フランの言葉で一気に現実へ引き戻される。

 同時に、太田邦夫の小汚い顔を思い出して怒りも沸点に達した。


 意外と熱しやすいんだよ俺。

 自分では短気ってほどでもないと思ってるんだがな。


「……常務権限発動。常務と救済部部長の二名による異世界視察業務を緊急承認求む。…………受諾完了」

「ちょ、ちょっと! なに勝手に進めてるのよ! 役員だからってやっていいことと悪いことがあるんだからね!」

「うるせぇぞアホフラン! 俺もお前も減給どころかクビになる可能性だってあるんだ! それでもいいのか!?」

「うぐっ! それは確かに困るわね……美味しいものが食べられなくなっちゃうもん……」

「そっちかよ!? 言っておきますけど俺がクビになったらフランたちを養えませんから!」

「そんなのヤダァ!」

「その場合、私とユエル、そしてマリアベル副神界長がアキトさんを養えばいいのでは?」

「あ、そっか」

「おぉい!? 余計なことを言うなミリィ! フランも納得すんな! とにかく行くぞ! あのクソキモオタをブン殴ってやる!」


 俺は強引にフランを抱き寄せ、異世界ミドガルズへの座標をイメージする。

 ……捉えた!

 一度行った場所は忘れんぞ。


 神力の励起開始!


 ドバン


 俺たちが転移する寸前、慌てふためくマリーが子羊裁定室へ飛び込んできた。


「アキト! ここにおったのか! 大変なのじゃ! 魔界が!」

「悪いマリー! ちょっと異世界救ってくる! すぐ戻るから話はその時に聞くよ!」

「ちょっ! 待つのじゃアキト! それどころでは……」

「行ってきまーす!」


 ヒョイン


 俺たちが降り立ったのはなにもない草原だ。

 澄んだ青空。

 煌めく太陽。

 むせかえるような草いきれ。


 ここだけ見れば異世界ミドガルズは平和そのものなんだが。


「ねぇ、アキト。マリアベルさまがなにか重大なことをおっしゃってた気がするんですけど」

「ん? まぁ、チャチャっとブッ飛ばしてサッと帰れば大丈夫だろ」

「うーん、適当すぎない? 別にいいけどね……わぁー、いい風ー! 気持ちいいねー!」


 あたたかな風に長い金髪をなびかせるフラン。

 なんにもなけりゃ絶好のピクニック日和なんだがな。

 地球じゃ地獄のような寒さで満足に外出もできないし。


「さて、まずはアベルたちの消息を探さないとな」

「あぁー、水筒にお茶でも入れてくればよかったなぁー」

「うははは、完全にお出かけ気分じゃねぇか」

「だって、アキトと一緒だもん。どこでも楽しいよ」

「お、おう。そうか」


 真っ直ぐに気持ちをぶつけられると、こっちもテレちゃうね。

 俺もあんまり口には出さないけど、フランといられて嬉しいんだぜ。


 つまんねぇ男のプライドが邪魔してるだけで、素直に言えないけどな。

 自分でもバカバカしいとは思ってる。

 こんなくだらねぇ枷はすぐに外すべきだと。


「……俺もフランといられて嬉しいよ。ずっと一緒にいような」


 驚きに見開かれたフランのブルーに輝く瞳。

 でもすぐに、最高の笑顔で。


「うんっ!」


 大きく頷いてくれたのだ。

 守りたい、この笑顔。

 ……じゃなくて。


「おっと、アベルだったな。えーとアナライジングⅢ(スリー)! アベル!」


 俺は上位探知スキルを発動した。

 視界の右側にウィンドウが現れ、指定した人物の現在地をマップ上に示している。

 同時に細かな座標も表示された。


「よくわからん村にいるみたいだが……あ、ダメだ。行ったことない村だからリターンオブシティのスキルは効果無しだな」

「アベルを辿って直接転移したほうがいいんじゃない? 今回は神力の縛りもないんだし」

「おっ、頭いいなフラン。その手があったか」

「えっへん」


 そこそこある胸を反らすフラン。

 鼻もすごい勢いで伸びてる。


 たまの快挙だ。

 存分に天狗となれ。


「んじゃ行くか」

「はーい」


 ゴォォォオオ


 俺たちが着いた場所。

 そこは確かに村だったようだ。


 ────以前は。


 今は、あらゆる場が炎に包まれていた。

 樹木と言わず、建物と言わず。


 そして、人と言わず。


「ひどい……」


 フランが惨状を目の当たりにし、口元を手で押さえる。

 それでも目を覆わないのは、救済の女神としての使命感か。


 フランでさえ耐えているのに、俺が目を逸らすわけにもいくまい。


 その時、炎の蔭から巨大な獣がノソリと現れた。

 形は四足獣。

 姿は狼に似ている。

 大きさは差し渡しで5メートルはあろうか。


 決定的に違うのは、その毛皮。

 その獣自身が、全身に炎を纏っているのだ。


 村の全てを焼いたのはきっとコイツだろう。


「見たことのないモンスターね」

「ああ、俺のモンスター図鑑にも登録されていない。魔王ですら登録されてるのにな」


 ウィンドウを操作してみるが該当するデータは存在しなかった。

 ならば。


「アナライジングⅠ(ワン)!」


 表示される魔獣の情報。


【インフェルノウルフ レベル75】

 火炎無効。

 打撃耐性。

 精神系魔法無効。

 状態異常系魔法無効。


 おいおい、もひとつおい。

 ゲームなら隠しダンジョンに出るクラスのモンスターじゃねぇか。

 これほどの怪物では普通の兵士や騎士じゃ歯が立たんぞ。


 あのクソキモオタの太田邦夫が地底世界の封印を解いたってのは、これでどうやらマジ話っぽくなってきたな。

 いらんことをしやがって。


「フラン。防御スキルをかけるから俺の後ろにいろよ」

「がってん承知!」


 思わずズッコケそうになる。

 江戸っ子か!


「マジックシールドⅡ(ツー)! フィールドオブウンディーネ!」


 フランにかけたのは物理と魔法耐性上げるスキル、そして場に張ったのは火炎攻撃を軽減するスキル。

 どう見ても炎を使ってきそうだからな。


 クォォォォン


 スキルに反応したのか、狼が遠吠えをあげた。

 前脚に体重をかけ、いつでも襲える態勢を取る。


 だがその前に!


「アイスジャベリンⅣ(フォー)!」


 俺の眼前に無数の氷でできた槍が現れ、狼を目がけて殺到した。


 バキパキィ


 ヤツの前脚であっさり砕かれる俺の槍。

 嘘ぉ!?

 氷結系魔法でも上位スキルなのに!?

 火炎系のモンスターなら氷結系が弱点だろ普通!


「アキトはバカなの!?」

「なんだとコラ!」


 フランの雑言に思わず振り返る。


「神力の縛りはないってさっき言ったばかりよね!?」

「あ」


 マジでバカは俺でした。

 ごめんよフラン。


 てかね、やっぱり武器がないと落ち着かないんですよ。

 丸腰の不安感ってわかるだろ?

 まずは武器を神々のスキルで!


「我の意思に呼応し、顕現せよ! 汝、大いなる神の力を受けし偉大なるつるぎとならん!」


 俺の中で最も強い剣をイメージする。

 神力を用いてクリエイトする時に重要なのがこのイメージ力だ。


 あの魔神サイスをも斬り裂いた蒼き光剣。

 異世界ハイペリオスで得たレジェンダリーウェポン。


「我の名に於いて命ずる! 出でよ! エターナルソード!」


 瞬時に金属の短い棒が俺の手元に召喚された。

 すかさず上部のスイッチを入れる。


 ブォン


 音とともに蒼く眩しい刀身が柄から伸びていく。


 これこれ!

 この未来感と無双感!

 武器ってのは、こうでなくっちゃな!

 行くぜぇ!


「デルタスラッシュⅣ(フォー)!」


 残像すら見えぬほどの三連斬!

 袈裟斬り、逆袈裟、そして横薙ぎ。


 狼の纏う炎すら物ともせず、ヤツはいくつにも分断されて散っていった。

 自分の炎で火葬されるとは、なんともお粗末なヤツだ。


「やったやったぁ! かっこいいよアキトー!」

「うへへ、テレるじゃねぇか」


 フランの手を取り、立ち上がらせた時、俺のサーチスキルが駆け寄ってくる人影を捉えた。


「おーい! まだ誰か生き残りがいるんですかー!? そっちは危険ですよ! ………えぇっ!? ……あなたは………ま、まさか……アキト団長ですか!?」


 煙の中から現れたのは、壮年の男性。

 こんなおっさんに知り合いはいないはずだが、やたらと見覚えと言うか、面影があった。


 えーーー!?

 マジかよ……アベル、なのか……?



 ……ふ、老けてるーーーー!!




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