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068 俺、必ずブン殴ると誓います


「まさしくその通りですぞ! それがしは殺されてしまったのです! アキト団長、それがしの最後の記憶は凄惨を極めておりました。見たこともない強力なモンスターの群れに街が襲われ……」

「待て待て! 魔王は俺……いや、勇者であるお前たちが倒しただろうが! しかもバルガス、お前ほどの猛者がやられちまうとはどう言うこった!?」


 バルガスは苦渋に満ちた表情となる。

 だが、俺にはとてもじゃないが信じられなかった。


 勇者アベルをリーダーとするパーティー。

 すなわち、アベル、バルガス、ステラ、ポンタの四名は、異世界ミドガルズにおいてそれこそ五本の指に入る強者つわものなんだぞ。


 なんせ俺とフランで選抜し、鍛え上げたんだから間違いない。


 その一人であるバルガスがこうも簡単に倒されるとは。

 いや、それよりも、その強力なモンスターとやらはどこから湧いたんだ?


「バルガス、悪いが順を追って話してくれないかな?」

「勿論ですとも」


 むしろ懇願するような目で大きく頷くバルガス。

 なんだか前に見た時よりも老け込んでしまったようにさえ思える。


 あれ?

 バルガスって確か二十代だったよな?

 なんだか皺も増えたような……髪も白髪交じりだし……

 まさかこっちとミドガルズは時間の流れかたが違うのか?


 ともかく、その朴訥なバルガスが訥々と話した内容はこうだ。


 魔王討伐後、ミドガルズは平和な世の中になった。

 少なくともしばらくの間は。


 大目標であった魔王がいなくなったため、冒険者たちはまさしく世界を冒険する職業へと転身したのだ。

 そして、一人の偉大な冒険者が世紀の大発見をする。


 その男は、ミドガルズの地底に広大な空間があることを突き止めたのである!


 そこはまさに異境、そして人外魔境であった。

 独自の生態系を保持しており、凶悪な魔獣の跋扈する空間。


 調査に赴いた人々を拒絶するほどの。


 修羅場を潜り抜けてきたベテラン冒険者ですら歯が立たなかった。

 なれば、と国王は布令を出し、地底世界への入口を固く封印したのだ。


 だがある日、その封印は解かれた。


 溢れ出すモンスター。

 蹂躙される町や村。


 こうなっては当然、勇者も黙っていられまい。

 アベルを筆頭とする歴戦の冒険者たちがなんとか食い止めている。


 バルガスは、その激しい戦火の中で人々の盾となり、そこで果てた。


 これが現在のミドガルズにおける状況である。


「……そう、か。誰かをかばって死ぬなんてお前らしいぜ、バルガス」

「はは、は、情けない限りです」


 ボリボリと頭をかくバルガス。


 なに言ってんだ。

 誇りに思うよ俺は。

 お前は立派な勇者の一人だ。


「しかし、どこのバカが地底への封印を解いたんだろ?」

「それなのですが、『オタクニーオ』とか『オータクニーオ』とか言う名前の男らしいのです」


 オータクニーオ?

 変な名前だな。


 まぁ、異世界だとチョリエッタなんて名前が有りなんだから……

 ん?

 んん?


 オータクニーオ……

 おうたくにいお……

 おおたくにお…………


 いやいやいや。

 まさかまさか。

 ははは……


 俺は部屋の隅へ高速で移動し、手招きでフランとミリィを呼んだ。

 二人とも俺に顔を寄せてくる。


「なになに? どうかしたの?」

「なんでしょう? キスのおねだりですか? いくらでもしてあげますよ」

「違うわっ! なんで上から目線なんだよ! あのさ、フラン、ミリィ、『太田邦夫おおたくにお』って名前、覚えてないか?」


 キョトンとするフラン。

 はいはい。

 お前の記憶力に期待はしていませんでしたとも。


「ああ、アキトさんが女児姿の時に来た人ですね? 気持ち悪い喋りかたのオタク丸出しな……キモッ」


 さすがはミリィ。

 字は汚いが頭はいい。

 だけど、ちょっとばかり偏見入ってないか?


「確か彼はアキトさんが……ミドガルズに……転生させた、と言う記憶、が……」

「言うな! 言わないでくれ!」


 ミリィの言葉に思わず耳を塞ぐ。

 聞きたくねぇ!


「なになになに!? まさか元凶はアキトなの!? せっかく魔王を倒して平和になったのに!?」

「言うなっつーの! このアホォォォ!!」


 フランの追い打ちに頭を抱える俺。

 今の俺にそんな現実を突きつけるんじゃない!


 おお、おおお、落ち着け俺!

 このままじゃ大失態だぞ!

 減給どころの話じゃねぇ!


 あのキモオタめぇぇぇ!

 せっかく転生させてやったってのに、余計な面倒事を起こしやがって!

 ブン殴ってやりてぇ!


 そうか。

 そうだよ!

 ブン殴りに行けばいいんだ!


「……行くぞフラン……」

「? どこへよ?」

「決まってんだろうが! ミドガルズだよ!」

「ちょっとアキト、落ち着きなさいよ!」

「落ち着いてくださいアキトさん!」


 いきり立つ俺に二人がかりで押さえられる。

 そんなもんはものともせず立ち上がる俺。


「くぅっ! なんて神力なの!」

「アキトさん、どの道すぐには向かうことはできないんですから一度冷静になりましょう!」

「今のアキトになにを言ってもムダよミリィ! こうなったらアレしかないわ!」

「アレですね? 了解ですフラン先輩!」


 ぶちゅうぅぅぅぅぅ


 二人から同時に唇を吸われた!

 さらに舌が侵入してくる!


 こ、こりゃたまらん……

 極楽だぁ。


 しおしお~


「見事に戦意をそぎましたね。フラン先輩、我々の魅力も捨てたもんじゃなさそうですよ」

「当然だわ! 愛の度合いが違うもの!」


 ドヤ顔で俺を見おろすフランとミリィ。

 完敗です。


「……アキト団長とフラン副長が出来ていたって、当時からの噂は本当だったんですな……それにそんな幼子まで手籠めにしておるとは……さすがです」


 やめろバルガス!

 そんな目で俺を見るな!


 俺は黙って裁定者席へ戻り、水差しから水を飲むと、大きな溜息をついた。

 ピンクのお花畑と、太田への怒りがいまだに脳内でダンスしている。


「大丈夫ですかアキト団長」

「ああ、気を使わせてすまんなバルガス。だけど安心しろよ。ミドガルズの件は俺がなんとかするから」

「おおお! まことですか! アキト団長に来ていただけるなら、勝ったも同然! アベルたちも喜ぶでしょう!」


 すまない。

 自分の尻拭いをしに行くなんて、口が裂けても言えなかった俺を許してくれ。

 お前の仇はきっと俺がとってやるからな!


「あ、そうだ。バルガス、これからどうする? お前の功績を考慮すれば、好きなように転生させてあげられるし、望むならミドガルズで生まれ変わることもできるぞ」

「あぁー! それは私の仕事ですよ!」


 うるさいミリィの口を塞ぎながらバルガスに問う。

 彼はきつく目を閉じ、しばらく悩んだあと、クワッと目を剥いた。



「では、それがしを美少女に転生させてほしいのです!」

「はい!?」


 お前、そんな変態的な願望持ってたの!?



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