067 変態専務の一人懲罰
あれからしばらく経ったある日のこと。
今日も今日とて神界にてお仕事に邁進中の俺なんです。
ウェスタニア専務の鶴の一声は絶大で、女神たちの給料は爆発的に上がった。
特に俺。
役員報酬なんてものが出るようになり、そりゃもうウハウハですわ。
しかもそれだけじゃない。
高位の魔神二人を倒した功績による特別報酬も、いまさらながら出るらしい。
こちらは賞与、つまりボーナスと一緒に支給されるようで、今から楽しみなのだ。
まぁ、取り敢えずウハウハには違いないんですが、今度は別の問題が持ち上がってきたわけでして。
……日本円に換金しても使うところがないんだよね。
なんせ、日本は、そして地球は異常気象の真っただ中。
東京もほとんどが氷漬けになってる。
人々はまだ普通に生きて生活しているが、経済や流通はほぼ破綻。
食料、燃料は既に配給制へ移行している始末。
俺の引っ越し計画も当分はお預けとなるだろう。
「……ハァハァ……あぅん…………」
もう季節的には夏と言ってもいいくらいなんだが、このガチで異常な気象はどういうことなんだろうか。
気象庁とNASA(アメリカ航空宇宙局)の発表だと、地球の軌道が少しだけ太陽から離れたことによる氷河期の再来ってことらしいんだけどね。
その離れた原因がわからないらしい。
「……ハッ、ハッ……くぅっ、あひっ……」
一説には太陽質量の急激な低下とか、地球の重力異常とか言われてる。
ま、こんなんじゃぶっちゃけなにもわかってないのと一緒だと思う。
「……あぁっ……はぅぅ……」
ここのところ、地球からくる子羊たちもだいぶ増えてきた。
そろそろ俺も原因究明に乗り出さなければならないだろう。
なんせ故郷だし、できることなら救ってやりたいもんな。
「……あぁぁぁ!」
「ちょっとアキト! いい加減にしてよ! うるさくて仕事に集中できないんですけど!?」
隣の机で執務中のフランが、眉毛をピクピクさせている。
その視線は座っている俺の下へと向けられていた。
俺の尻の下。
そこにはなんと、四つん這いになったウェスタニアさんが俺の椅子がわりになっていたのだ!
「……フ、フランシアさん……わたくしのことはどうぞお構いなく……あはぁ……」
「ひっ!? わ、笑ってるわこの人……!」
上気した顔でニンマリと笑うウェスタニア専務。
ドン引きのフラン。
「……これは女神たちを薄給で苦しめてしまった、わたくし自身への罰なのですわ……だからなにもお気になさらず……下僕のように扱ってください……」
「気にするわよ! 隣でハァハァ言われたら気が散るわ! ねぇ、アキトもなんとか言ってやってよ!」
ガクンガクンと俺の肩を揺さぶるフラン。
その振動で喘ぐウェスタニアさん。
なにこれ。
罪を償いたいから下僕のように扱えと専務から言われたのは本当だ。
だけど、ここまでしろとは言ってねぇし、させたくもないよ!
先に言っとくが、俺にこんな倒錯した趣味はないからな!
でもさ、ちゃんと断ったにも関わらずご覧の有様なんだ!
むしろこの人、こんな扱いをされて喜んでるフシがないか?
俺の見立てでは、間違いなくドMだぞ。
パッと見だの喋りかただのはヤンデレっぽいくせに、すげぇギャップだ。
「なぁ、ウェスタニアさん。もう気が済んだでしょう?」
「……ダッ、ダメですわ! アキトくんは将来ご主人様となるおかた! わたくしを呼び捨てになさってください! 敬語も厳禁ですわよ! フランシアさんもよろしいですわね……?」
「「は、はい」」
思わず揃って返事をする俺とフラン。
妙な迫力がありやがる。
こりゃヘタに逆らわないほうがいいな。
夜道で後ろから刺されちゃかなわねぇ。
「……わたくしはこうして這いつくばり、ご主人様の椅子となることが罰であり至福なのですわ……ご主人様のお尻、最高ですもの……」
「変な言いかたはよしてくれ!」
「……ねぇ、ご主人様……わたくしはどんな命令でも従いますわ……そう、たとえ『どのような』命令であっても……」
チロリと真っ赤な唇を妖艶に舐めるウェスタニア……さん。
あまりの淫靡さに俺の背中をゾクリと冷たいものが走る。
今、どのようなって言ったよね。
こんな美人で、どちゃくそエロい身体の女性にそんなことを言われたら俺だって悶々とするわい。
ところで、時々俺の足を舐めようとするのはやめてもらえませんかね?
「アキト、どうすんのよこの人……」
「俺が知るかよ……まさかこんなめんどくさい人だと思ってなかったからな……」
「はうぅ! め、めんどくさい女だなんて……ああんっ! わたくしはただ、節制の女神として自らの煩悩を律するのが……はぁんっっ!」
本人が一番律せてねぇから!
煩悩丸出しだから!
それにしても、罵られて嬌声を上げるとは……
真正の変態だな……
「あとでマリーとも相談してみるよ」
「早めにお願いね」
「ん、機嫌悪いなフラン。あの日か?」
「ちっがうわよ変態! ただ、アキトがそんな人にデレデレしてるのが……」
「……そんな人……!? あはぁん!」
「してねぇよ! ってか、なんだ焼きもちか。大丈夫、俺はフランを愛してるぞ」
「……ほんと?」
「ああ。だから安心していい」
「えへへ、うれしい。私も愛してるよアキト」
「あひぃぃ! わたくしの上で繰り広げられる、このわたくしを完全に無視した恋人たちの愛のささやきぃぃ!」
マジでなにこれ。
誰かなんとかしてくれよ。
「アキトさーん! ……う゛っ、この光景はいまだに慣れませんね」
迷える子羊裁定室から銀髪ツインテールを揺らしつつ現れたミリィが、部長室の惨状に思わず足を止める。
俺だって慣れねぇよこんなの。
「どうしたんだミリィ?」
「あ、ああ、そうでした。あのですね、一人、気になる子羊が来まして」
「ん?」
「ちょっとアキトさんとフラン先輩の支持をあおごうかと」
ミリィの言葉に顔を見合わせる俺とフラン。
どういうことだろ?
「まだそいつは居るのか?」
「はい」
「わかった、会ってみよう。フランもきてくれ」
「うん」
「お願いします」
「ああっ!? 行ってしまわれるのですかご主人さまぁ! これはもしかして新手の放置プレイなのでは……? あはぁぁんっ!! せめて、せめてわたくしのお尻を叩いて行ってぇぇ!」
叩くかっ!
クネクネと尻を振ってるウェスタニアさんを置いて、俺たちは裁定室へ向かった。
もうちょっと彼女の大きなお尻を見ていたい気もするがね。
少し狭い裁定室の内部。
裁定者用事務机の前に置かれた背もたれのない椅子に、一人の人物が座っていた。
鈍く光るフルプレートメイル。
やたらとデカく、ガチムチな肉体。
あれ?
こいつは……
「アキト団長!? フラン副長も! お久しぶりです! それがしです! バルガスです!」
「お? おぉー!? そうだそうだ!」
「誰だっけ?」
フランの一言で盛大にコケる俺とバルガス。
「お前ひどいな! バルガスだよ! 俺たちの初出張業務ん時に勇者アベルのパーティーメンバーだったろ!」
「あぁー!! 思い出したわ! いやー、星の数ほど子羊たちを見てきたから、つい忘れちゃった」
嘘つけ。
ここんとこずっとミリィ任せで、お前はほとんど見てねぇだろ。
ガチで忘れてやがったなこいつ。
「アベルがアキト団長とフラン副長はきっと神様だったのでは、と言っておりましたが、まさか本当だったとは!」
「あ、あはははー、あの時はすまなかったな。なにも言わずに帰っちまってよ」
「いえ! いいのです!」
ガッチリと再会の握手を交わす俺とバルガス。
あれぇ?
ちょっと待てよ。
「お前が神界にいるってことは……まさか死んだのか!?」




