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064 試作料理はどんな出来?


 と言うわけで、食堂の厨房へ向かう俺とユエル。


 フランとミリィまでついてきているのは、完全に物見遊山だろう。

 調理に参加する気もまるでなさそうなその表情が小憎らしい。


 だがまぁ良しとしよう。

 雑用にはこき使えるしな。


 さすがにマリーは疲れててこっちにこないか。

 なんて思ってたら、フランが鼻歌まじりにマリーの手を引きずっているじゃないか!


 しかも顔が床にザリザリとこすれてる!

 これはひどい!


 大人しくソファで寝てればいいものを……

 なに考えてんだマリーは。


 調理台には既に様々な食材が具現されている。

 ユエルが気を利かせてくれたのだろう。


 素晴らしきかな、豊穣の女神よ!


 あとでチューしてやらねばならんな。

 どれどれ、チェックしましょうかね。


 材料の数々は二か所にわけられていた。

 つまり、二品の料理を作るってことだ。


 レシピにはもっと色々な料理が記されていたんだけどね。

 ではなぜこの二品かと言えば、ページの上に『ウェスタニアが大好きなお料理』とハートマーク付きで書かれていたからに他ならない。


 俺はこれを見た時に、ちょっと泣きそうになっちゃったよ。

 だってさぁ。

 ウェスタニアさんの母親は本当に娘を愛してたんだなってのが、これだけでも伝わってくるからな。


 些細なところに見え隠れする愛情って、なんか心に突き刺さるんだよね。

 琴線に触れるって言うの?


 俺もこんな風にフランたちを愛せたらいいと思うんだ。

 まさに愛は世界を救う!

 ……なんか聞いたことあるなこれ。


 愛で思い出したけど。

 魔界には愛ってもんがないのかねぇ。


 いやね。

 ズールやサイスも、もっと愛情を受けて育っていればあんな風に歪まなかったんじゃないかなぁ。

 なんて思ってたりするんだよね。


 顔だのスタイルだのの素材はいいんだから、普通にしてりゃイケてそうなのに勿体ないよな。

 神界と魔界の確執は深そうだから、新参の俺がとやかく言うことじゃないんだろうがさ。


 ズールでまた思い出した。

 ロンデニオンでの一件があっただろ?


 あの出来事を重く受け止めた神界は、一度救済された世界も徹底的に洗い直すことにしたみたいだぜ。

 言わば救われたあとのアフターケアだな。


 今までは救ったらその世界の住人に任せっきりだったけど、ロンデニオンみたいに魔界絡みや、その他の新たな悪が生じないとも限らなくなったから再調査するって話だ。


 ま、俺たちは救うまでが仕事なんで、そのあたりは他の部署に任せるしかないんだけど。


「どうしたのアキト? 魂が抜けちゃった?」

「抜けねぇよ!」


 怪訝そうな顔のフランが間近にいた。

 長い金髪からふわりといい香りがする。

 アホ毛がぴょこぴょこと、今日も元気だ。


 それはいいんだが、もうマリーの手を放してやれ。

 ボロ人形みたくなってんぞ。


「いや、大丈夫だ。ありがとなフラン」

「うん? どういたしまして?」


 なんとなくフランの頬に触れる。

 柔らかで少し冷たい。


 むにーん!


「いひゃいいひゃい! ひょっほ! にゃにふんにょほ!」

「ほっぺって無性に引っ張りたくなるよな」


 俺の言葉に大きく頷くミリィとユエル。


「非常にわかります。フラン先輩の頬は伸びそうですから」

「わかりますね~、わたしのほっぺもおもちみたいにのびますよ~」


 『愛とは、なんぞや』みたいなことを寸前まで考えてたから、ちょっとした照れ隠しみたいになっちまった。

 だが、この様子だとうまくごまかせたっぽいね。


「フランもいじったことだし、食材のチェックを始めよう」

「下ごしらえみたいにいわないでよ!」


 ピーピーわめくフランは放置し、ひとつひとつ手に取って材料を確認する。


 えーと、大根、人参。

 こっちは、こんにゃくかこれ?

 あとは、里芋にゴボウに……豚肉……?


 えぇぇ!?


「ぶほぉ!! どう見ても豚汁の材料だこれ!! 嘘だろ!?」

「いえいえ~、これで材料は合っているはずですよ~。ブブーンのお肉は豚肉と同じ味ですし~」

「あのでっかい猪みたいなやつ本当に家畜だったんだ!?」


 のんきなユエルの間延び声に二度驚愕する。

 あんなバカみたいにでかい獣、解体するだけで大変だぞ。

 ロンデニオンの連中すごいな!


 じゃあ、もうひとつの料理は!?


 嫌な予感しかしないが、もう片方の食材を調べる。


 えーと、……椎茸に舞茸。

 ……シメジ、えのきだけ……


 キノコばっかりじゃねぇか。


 そんで、米。

 米!?


「きのこの炊き込みご飯だこれぇ!!!」

「なにそれ美味しそう! やめてよアキト、すっごくお腹がすいてきちゃうじゃない!」

「私も既にぺこぺこりんちょです」

「名前だけでも美味しそうですもんね~」

「……!? ……!!」


 いやまぁ、思い出の味に相応しいっちゃ相応しいのかもしれんけどさぁ。

 日本人の俺ですら懐かしい気持ちになるくらいだし。

 だけど、なにもここまで和食に寄せて来なくても……


 俺としては馴染みもあるし、作りやすいけどなんかこう、なぁ?

 異世界料理ってんだから、もっとワイルドなもんを想像してたんだが。


 ドドーン!

 20メートルもあるブブーンを丸焼きにしただけのものー!

 とかね。


 そこにちょっとしたタレを塗っただけで現地の人から『こんな美味いモン食ったのはじめてや! あんたは天才や! 神や!』とか褒め讃えられ……

 ……そんなアホみたいな世界あるわけないか。


「ま、まぁいいや! ほんじゃまずはダシを取ろう! ユエル、準備を頼む」

「は~い!」


 張り切って三角巾を締めるユエル。

 俺もエプロンを付け、水を張った鍋を火にかけた。


 根菜類を綺麗に洗い、イチョウ切りにする。

 ゴボウは洗ったら、ささがきにしておく。


 里芋は皮をむいて輪切り。

 この里芋なんだが、地域によってはジャガイモを入れるところもあるんだよね。

 個人的には里芋のほうがねっとり感もあって好みだったりする。


 こんにゃくはスープがよく絡むように手で千切るのがポイントだ。

 手伝いたいとうるさいミリィに任せたら、嬉々として引き千切ってるし。

 こえぇよ。

 ってかお前、それがやりたかっただけだろ!?


 さて、豚肉だが、今回使うのは薄切りのバラ肉です。

 脂身の甘みを味わってもらうのと、肉からもいいダシが取れる一石二鳥ってわけ。

 食べやすいサイズにカットしておきましょう。


 いかん。

 だんだんクッキング番組みたいな気分になってきた。


 切った材料は油を敷いた鍋に入れ、少し炒めるのだ。

 煮崩れを防ぎ、香ばしさをプラスするためである。


 そうしたら、ダシと水を投入し、灰汁アクを取りながらしばらく煮る。

 野菜が柔らかくなったら、最後に味噌を溶いて完成だ。


 うむ。

 いい感じ。


 お次は炊き込みご飯ですな。


「今回は炊飯器ではなく、土鍋で炊きます!」

「「「おぉ~!!」」」


 俺の宣言に驚く一同。

 ホントにわかってんのかね?


 なんで土鍋なのか教えよう。

 異世界ロンデニオンに炊飯器なんてないからです!


 ってことは、土鍋か釜で炊いてたはずだろ?

 少しでも味を近付けたいからってのもあるんだが、なによりもおこげですよ奥さん!

 おこげの魔力には誰も勝てないんですよ!


 すまん。

 少し興奮した。


 調理に戻ろう。


 まず椎茸だが、生のではなく、乾燥椎茸を水で戻したものを使用する。

 これがまたいいダシを出すんだ。

 他のきのこ類は洗ったあと、手であらめにほぐししておこう。


 これで下準備はオッケーなんだけど、ちと物足りないんだよね。

 まだ味に深みがない。

 ここはアレだな。


「なぁ、ユエル。鶏のもも肉を出してくれないか?」

「! なるほど~! いい考えですね~!」


 俺と料理を作りまくってるユエルだからこそ、すぐに察しがついたようだ。

 うむうむ。

 ちゃんと成長してるな。

 ちっちゃいけど。


 理論的にはさっきの豚肉と同じ。

 脂身と肉がいい味を出してくれるんだ。

 それに、鶏肉は肉の中でも一番炊き込みご飯と合う。


 鶏肉も一口大に切り分け、今度こそ準備完了。


 土鍋へ、事前に研いで水気を切っておいた米を入れる。

 そこへユエルが作ってくれた例の特製アゴダシ、醤油、みりん、日本酒を加えた。

 下処理した具材も全て投入し、火にかける。


 強火から始まり、沸騰したら15分ほど弱火で炊く。

 炊き上がるまで蓋を開けないのが鉄則だぞ。

 そのあと火から外し、さらに15分ほど蒸らせば完成。

 この時に、タオルなんかでちょっと包んでやればご飯がふっくらするよ。


「よーし! 完成だ! さぁ、おあがりよ!」


 やべ。

 どっかで聞いたようなセリフを言っちまった。


 俺の声に死体みたいだったマリーがガバッと跳ね起きる。

 まるでゾンビだ。


「わぁー! んーー! いい香りー!」

「こ、これを食べてもいいんですか? 本当にいいんですね!?」

「とっても美味しそうにできました~!」

「……二日ぶりのご飯なのじゃ……」

「はい!? なにやってたんだよ!? って、あー、始末書か」


 なんとか椅子によじ登ったマリーがコクコクと頷いている。


 そりゃご苦労様……




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