063 やっぱりコタツは最強です
東京。
我が居室。
静かな室内にテレビの音声。
『……では、次のニュースです。未曽有の大寒波が世界中を覆い、その関連死を含めた死者が全世界で1000万人を突破した模様です。深刻な食糧や燃料の不足を受け、ついに日本政府も非常事態宣言を……』
うぅー、寒いー……
室内なのに凍えるような冷え込みだ。
電気の使用制限もあって、俺の生命線はもはやこの小さなコタツに託されていた。
対面に座ったドテラ姿のフランもブルブルと震えてる始末。
ぬくぬくのコタツがなかったら俺たちはもう凍死してたな。
コタツさまさまだぜ!
お供のミカンは既に入手困難な高級品になっちまったけどな!
しっかし、この地球にいったいなにが起こってるってんだ。
いくらなんでもおかしいぞ。
「ふぅー、さっむいわねぇー」
「ああ」
カリカリカリカリ
「地球ってこんなに寒かったっけ」
「いや」
カリカリカリカリ
「ねぇー、アキトォー」
「うん」
カリカリカリカリ
「激しく抱いてぇー」
「いいとも。さぁ脱げ」
「脱がないわよエッチ! ちゃんと聞いてるんじゃない! そもそもさっきからなにをカリカリ書いてるのよ! 寂しいフランちゃんを構ってほしいんですけど!」
「なにじゃねぇよ。臨時の報告書に決まってんだろ。それともお前が書くか? あん? 本来なら常務の俺より救済部部長のフランシアさまが書くべきなんですがねぇ?」
「あ、ああー、そうでしたか。こりゃまた失礼しました。どうぞ、お邪魔は致しませんのでお書きください。では、拙者はこれにて、ドロン」
「昭和のサラリーマンかっ」
忍者みたいなポーズでコタツへ潜るフラン。
全く、アホかわいいなぁ。
俺は今、先日の異世界ロンデニオンにおける顛末を報告書にまとめている。
マリーも今頃、膨大な始末書を前にヒィヒィ言ってることだろう。
せっかくのオフ日だと言うのに、ご覧の有様だ。
まぁ、外出しても寒いだけだからいいんだけどさ。
あの闘いはどうなったのかって?
…………勝ったよ。
えぇ、勝ちましたとも。
……俺の放ったゴッドスキルの奥義があったろ?
あれが発動した瞬間にさ。
頭の上に【神格が不足しています】とか出た挙句、見事に不発しやがってなー……
仕方なく全員でズールを取り囲み、超絶怒涛のフルボッコ。
これ以上ないくらいきっちりと神界送りにしてやったわ。
あいつも今頃は審問部のお姉さまがたから更なるフルボッコにされていることだろうよ。
そう言えばその魔神ズールなんだけど。
やっぱり女性だったらしいよ。
なんなの?
魔族って女しかいねぇの?
しかもだよ。
サイスは【暗躍する魔】、なーんて無駄に格好良い二つ名があったよね。
ズールはそんな名乗りを上げなかったなぁとか思ってたら、なんとあいつは魔界四天王の一人なんだって!
あんなのが四天王って……
ものすげぇ小物っぽかったのに。
だけど、魔族があんな連中ばっかりなら神界は今後も安泰ってもんだわな。
んでまぁ、そのあとは例の黒水晶をマリーとミリィのチョップで割って捕らわれた魂を解放してやったわけだ。
どうしてもチョップで割りたいって言うもんだからよ。
漫画かなにかの影響だろうか。
どっちにしてもアホだなあいつら。
「ねぇ、アキト。そう言えばレシピのほうはどうなったのかしら?」
ポコンとコタツから顔だけ出すフラン。
モグラか。
「あぁ、ユエルが必死に解読作業中だよ。俺が資料室からかき集めてきた文献とにらめっこしてる」
「ふーん、そうなんだ。アキトって、本気でロリコンよね」
「ぶっっ! なんでそうなる!?」
「マリアベルさまとユエルだけ特別扱いしてるもん」
「してねぇよ! それにミリィだってどちらかと言えばロリっ子だろうが!」
「二人にだけ優しいじゃない!」
「あれはだな、あの二人って中身はともかく、見た目が幼いだろ?」
「うん」
「俺にはどうしても見た目通りにしか見えないんだ。つまり、娘とか妹とかそんな感じにな。そうなると守ってやらなきゃなるまい?」
「へぇー、じゃあアキトは実際に娘や妹がいたら濃厚なキスとかするんだ?」
「ぐっはぁぁぁぁぁ!!」
思わず吐血しそうになる。
それほどのダメージだった。
言っちゃアカン!
それは言っちゃアカンやつや!
「ば、バカだなぁ、か、勘違いしてるよフ、フランは。はは、ははは」
「どもってるわよ。それで、なにが勘違いなの?」
「お、俺が一番愛してるのはフランだってことさ、ははは、はははは」
「ほんと!?」
ガバリと詰め寄るフラン。
大きな青い瞳が激しくギラついてる。
やべ。
この場を逃れるために、余計なことを口走っちまった。
優劣なんて決めるべきじゃないのに。
「ねぇ、本当? もう一回はっきり言ってよ! ねぇってば!」
く、フランのくせにやけに迫力がある。
こんなときだけ本気出しやがって。
「俺は……」
「俺は?」
「フランを……」
「フランを?」
「いち……」
「いち? 一番? 一番なに?」
「一番……あ」
「あ!? 愛!? 続きは!? ハァハァ! 早く言って! 愛してるって言って!! ハァハァ!」
あれぇ!?
言わされてないかこれ!?
ってか、鼻息荒すぎ!
顔も怖いよフラン!
ピンピロポンポロリーン
傍らに転がってるタブレット端末が場にそぐわない軽快なメロディーを奏でた。
だがこれは天の助け!
いや、女神の救け!
「おおっとぉ、神界からの連絡かなぁ!?」
「ああ! もう! ズルいわよアキト!」
キーとかシャーとか叫ぶフラン。
お前は猫か。
「ん、ユエルからだ」
「このロリコン!」
「違うわっ! 解読作業がもうじき終わるんだってよ」
「へ? そうなの?」
「ああ。一度確認にきてくれませんかって」
「いいんじゃない? ついでに向こうでご飯作ってよ。お腹ペコペコー」
「そうだな……報告書も一段落ついたし、行くか」
「うんっ!」
なにが嬉しいのか、ニコニコ顔で俺に掴まるフラン。
あ、俺が言ったセリフのせいか。
ヒョイン
「あれ? なんだ、みんないたのね」
「おっす」
転移先は救済部の部長室。
そこにミリィ、ユエルだけでなく、マリーもソファで寝転がっていた。
やたらぐったりとしているのは始末書の書き疲れだろう。
南無。
「アキトさん、フラン先輩。ごきげんよう」
「お待ちしてましたよアキトさ~ん」
「…………」
マリーだけはうつ伏せのまま、手だけをピラピラさせて挨拶している。
しゃべる気力もないって、どんだけ疲れてんだ。
とてとてとユエルがこちらへ走ってくる。
なんて愛らしい姿なことか。
和装の幼女は素晴らしいね!
「けほん」
「ビクゥッ」
フランの他意はなさそうな咳払いにも、俺の心臓は急激に縮む。
どうやら、さっきのダメージが抜けていないらしい。
「それでですね~、このレシピなんですけど~」
「うん、どんな感じだった? その食材は揃えられそうか?」
「はい~、たぶん問題はないと思います~」
「お、そいつはラッキーだな。ロンデニオン限定の食材だと取りに行くのが大変だもんな。味もよくわからんから具現化もできないだろうし」
俺がソファへ座ると、当たり前のように膝へ乗ってくるユエル。
柔らかなお尻の感触が今の俺には効く。
「レシピを解読したものがこれなんですけど~」
「どれどれ……んーと、大地を穿つたおやかなる白き杭……これって大根だったの!?」
「はい~、どうやらそのようです~」
「稚児を悲しませるは紅き槍……えぇ!? 人参のことぉ!? た、確かに子供は人参が嫌いかもしれないが……なんだこれ……」
「うふふ~。言い得て妙、というやつですね~」
「でも、よくやってくれたなユエル。いい子だ」
「えへへ~、がんばりました~」
思わず頭を撫でちゃいますよ。
だけどユエルさん、唇をとがらせて目をつむるのはやめてください。
怖いお姉さんたちがすっごい顔してますんで。
「オッケー。じゃあ取り敢えずレシピ通りに一度作ってみるか! 丁度お昼時だしな! 食べる人ー!」
「はい! はいはーい!」
「当然挙手しますとも! えぇ、しますともさ!」
「は~い! どんな料理になるんでしょ~?」
「…………!!」
みんな綺麗な挙手ですな!




