062 とどめを刺すのはこの俺だ!
「報連相! 報告! 連絡! 相談! このみっつは社会に出たら最重要なんだよ!? わかったかい!? わかったのならすぐに連絡をしなさい!」
「は、はぁ、そうですね……」
なんでか魔神ズールに説教される俺。
魔族に社会のなにがわかるのだろう。
俺だってそれなりに苦労してるんだぞ。
あ、なんかだんだんムカついてきた。
「うるせぇ! 魔族の癖に社会を語るんじゃねぇ!」
「……ボクだってねー! 上からは責められ、下からは突き上げが大変なんだよ! さっき聞いたけどきみは常務なんだろ!? だったら管理職になるまでは、ずっと辛酸を舐めてきたはずだよねー!?」
「…………あの……なんか、すみません……」
意外なズールの反撃。
そして正論。
まさしくその通り。
きっとこいつも苦労してる。
湧き上がる共感の念。
出会いと立場さえ間違ってなけりゃ、いい飲み仲間になれた気がするほどだ。
居酒屋でお互いクダを巻けたら楽しかったろうに。
だが俺は女神代行でこいつは魔族。
生きざまも立ち位置も決して交わることはない。
ならばせめて、俺の手で生まれ変わらせるしかあるまい。
なんだか忍びない気もしないでもないがな。
「なにを謝っておるのじゃアキト!」
「いやぁ、だってさぁ、あまりにも境遇が俺と似ててな……」
「!? まさかわらわがアキトを責めている上司などと思っておるのではなかろうの!?」
「えっ!? 違うの!?」
「ふぎぃぃ! アキトのアホ者ー!」
アホ者って。
しかもなんちゅう声出してんだマリー。
はしたないぞ。
「アキトさん。神界に連絡はつきましたよ」
「サンキュー、ミリィ。返答は?」
「神ンによれば、そちらで対処せよ、と言う一文のみです」
「雑ゥ!!」
丸投げかよ!
ちょっとくらい人員を回してくれたっていいのに!
常務と副神界長が危機に陥ってるんですが!?
「きみ、アキトって言ったっけー。お互い苦労してるよねー……」
「うるさいよ! ほっとけ! こっちは多少の齟齬をきたしてるだけだ!」
くそっ。
ズールが俺を同情の目で見てやがる。
やれやれ顔で俺の肩にポンと手を置くな!
「……聖女マリアよ。今のうちにワシを……」
「あ、そ、そうじゃったの!」
すまん。
俺も完全に魔王のことを忘れてた。
そうだよ。
魔王シェザールさえ倒しちまえば、ズールの計画もおじゃんになる。
やっちまえマリー!
「はぁぁぁ!」
散ってしまった神力を再び励起するマリー。
おっと、俺もただ眺めてられん。
ヒソヒソとフラン、ミリィ、ユエルに耳打ちする。
「だーかーらー! そーはさせないってねー! 三度目だよこれ言うのー!」
ズールが漆黒の翼を広げ、高く飛び立つ。
当然狙いはマリーだろう。
上空から両手の爪を伸ばし、マリーへ急降下。
ドゴン
「ふぐわっ!? 誰だい!?」
横っ面に光弾を受け、吹っ飛ぶズール。
弾が飛んできたほうを睨みつけている。
「あ、ごめんね。なんか隙だらけだったから」
下手人はフランです。
俺の手から神力を供給したフランが勝手にやったことです。
「きみかぁー! きれいな顔の割にやることがエグいねぇー!」
長い八重歯をむき出しに笑う魔神。
心底嬉しそうなのは、女神と闘える喜びなのだろうか。
どうやらヤツはこちらへ矛先を変えたようだ。
意外と短絡的で助かるわ。
「ユエル、防御スキル展開」
「はいは~い! お任せを~!」
ユエルが素早く詠唱し、複雑な印を指で結ぶ。
緑に輝く幕が、俺やマリーを包んだ。
事前に聞いておいたんだが、ユエルは防御系が得意で、ミリィはどちらかと言うと攻撃系。
聞いてもいないのに、フランは万能系だと胸を張ってたっけ。
今は全く使えないのにね。
そして、マリーは超攻撃型。
「第一聖典! 神界葬送!!」
マリーの突き出した両手から溢れる光の奔流。
それは魔王ではなく──────
「なーっ!? 最初からボクを狙ってたのかい!? げひゃぁぁぁぁぁ!!」
俺たちを攻撃しようとしてたズールが光の河に飲み込まれる。
奇妙な絶叫とともに壁へ激突した。
崩れ落ちる大広間の壁面。
別にマリーとは打合せしてたわけじゃない。
マリーは神力を高めてたんでな。
なんとなくこうなる気がしてたんで、フランたちと計画を立てたってわけだ。
「いいぞマリー! ズールは俺に任せろ! お前は魔王を送ってやってくれ!」
「了解じゃアキト!」
マリーは神力とも違う、別の力を高め始めた。
同時に俺はフランをミリィたちに預け、ズールが激突した壁へダッシュ。
魂が上がってきていない。
ズールはまだ生きている。
「がぁぁぁぁ!」
雄叫びを上げながら瓦礫を蹴散らすズール。
だが、その身体は結構ボロボロだ。
そのまま生き埋めになってりゃいいものを。
「そうはいかないってぇぇぇ! 言っただろぉぉがぁぁぁぁ!」
「グァァァァァァァ!!」
ズールから立ち昇る禍々しいオーラ。
同時に絶叫する魔王。
戸惑い、立ち止まった俺。
ズールと魔王がオーラでつながって……!?
一瞬の静寂。
そして闇。
「「オオオオオオォォォォォ!!」」
なんだこれは。
魔神ズールと魔王シェザールの声が重なって聞こえる。
闇の中でも、より濃い闇が立ち昇り、天井を貫く。
瓦礫や埃と一緒に舞い降りてくるのは陽光。
光に照らされたそのおぞましき姿。
「へ…………? だーっはっはっはっは! なんだそりゃ! 超級覇王電影弾かよ!? うはははは!」
だって、巨大な暗黒の球体から、ズールの顔だけがそのまま生えてるんだぜ!?
これが笑わずにいられるかっての。
「「笑うなー!! ボクは魔王シェザールと融合したんだ! これでもう、その忌々しい神力は効かないよ!」」
足があったら地団駄を踏んでいそうなズール。
笑われたのがかなり癪に障ったようだ。
「「それに見てよ! 黒水晶も融合したから人間どもの悪感情を無限に吸い込める! このボクは究極の存在となったんだ! そう、そうだよ! ボクは魔界王を超えたんだ! キャーッキャッキャッキャ!」」
まかいおう?
そんなのがいるんだ……
魔界の主神みたいなもんかな?
ってか、マジだ。
いつの間にか黒い水晶がなくなってる。
やべぇな。
あれを壊さないとこの世界の人々が……
のんきに笑ってる場合じゃねぇなこりゃ。
しかし、ズールのやつは随分性格が変わったもんだ。
不相応な力を持つと、ああなっちまうのかねぇ。
くわばらくわばら。
「「さぁ、ボクの腕の中で眠るといいよ! 子猫ちゃんたちぃぃぃぃ!!」」
目が血走り、涎まみれで叫ぶズール。
小さな真っ黒の球体が無数に現れ、ヤツの周囲を漂い始めた。
ああ、もうダメなんだな。
力に狂ってやがる。
分かり合えそうだったあいつはもういない。
ならばせめて、この俺が送ってやる!
「みんな! 今こそあの力を発揮する時だ!」
「? どの力よ?」
「なんのことです?」
「なにかありましたっけ~?」
華麗にズッコケる俺。
どうやら俺とマリー以外はわかってないようだ。
「アホー! TPだよTP! ツッコミパワー! あれでしか魔王は倒せないつってたろ!」
「「あぁーー!!」」
あぁーじゃねぇよ!
初めて聞いたみたいな顔しやがって!
「発動条件はそのものズバリ、ツッコミじゃ」
「わかりやすっ! そんで使いにくっ!」
魔王にツッコミを入れて倒すって、ものすごくシュールだな!
「「キャーキャキャキャキャ!」」
気持ち悪い笑い声(?)を上げながら、多数の球体を撃ち込んでくるズール。
ほら見ろ。
モタモタしてっから先制されたじゃん!
カンカンカキン
なんとかユエルの張り巡らせた防御スキルで弾き返す。
これもいつまで持つか。
俺の防御スキルと同じものだから重ねがけもできないし。
「「どうしたんだい子猫ちゅわぁぁぁん! 攻撃してこないのかぁぁぁい!? キャキャキャキャ! ほーらほらぁ! ボクが怖いのかなぁー!? 大丈夫ー、優しく殺してあげるよぉぉぉ!!」」
攻めあぐねていると感じたのか、ズールが挑発してきた。
好機!!
「今だ! つっこめ! 『誰が子猫だっっ!! てめぇ、あのサイスよりザコだろ!?』」
「うん!『あんたなんて気持ち悪い、顔だけオバケだわっ!!』」
「行きます!『そのみっともないブサイクな姿の写真を魔界中にバラまきますよ!!』」
「は~い!『手がなくてよだれも拭けないのは、なんとも哀れですね~!!』」
「魔王シェザールよ……今こそ送ってやるのじゃ……『怖いどころかなにかのギャグかと思ったのじゃ! おほほほほ! 神界でも魔界でも永遠の笑い種となるがよいのじゃ!!』」
【全TP値解放! 最終決戦スキル 『ツッコミの極意』発動!!】
「「グオオオオオオオオオオオオオオオ!」」
もはやツッコミでもなんでもなく、ただの罵詈雑言だ。
だが、俺たちの言葉は真紅の輝きとなってズールを覆い尽くす。
この絶叫は魔神が放ったのか、それとも魔王のものか。
あの巨大なズールの本体が凝縮し、そして弾けた。
紅い輝きは破片となって宙を舞う。
神力は効かずともツッコミパワーは魔王への特攻スキルだからな。
経緯は不明だけど、突っ込まれるのが死ぬほど苦手なんだそうだよ。
それにしても、すげぇなツッコミパワー。
道中もツッコミまくってたから、溜まりすぎてたのかも。
「……我が敬愛する聖女マリアよ……重ねて礼を言う……よくぞこの身を滅ぼしてくれた」
「……シェザール……よいのじゃ。これもまた女神の務めゆえ、気にするでない」
ズールの魔力から解き放たれたのか、魔王の声だけが聞こえる。
その声には断末魔とは違う穏やかさがあった。
「最期まで世話になった……ありがとう」
感謝の気持ちを残し、魔王シェザールの魂は天に還っていった。
これで残されたのは内部の炎が消えかけの黒水晶と、ヘロヘロのズールのみ。
「バカな、そんなバカな……! このボクが!? 有り得ない!! こんな……こんなぁぁ!!」
どのボクだかしらんが、裁可を下す時が来たんだぞズール!
貴様も円環へ還れ!
これが救済部の決裁だ!
「天より授かりし根源の礎! 天より賜りし原初の脈動! 混沌を退けたるは光の道! 悪鬼を滅するは輝ける神々の恩情! おお、光の女神たちよ! 我に導きの力を与えたまえ!!」
ズールの四方八方を、幾重にも幾重にも、しつこいくらいに陣が覆っていく。
「こ、これは多重積層型の法陣……!? 嘘、じゃろ……? これほど巨大な陣など見たことも……アキト、お主は、なんと言う……」
目を白黒、口をパクパクさせるマリーたち。
見たか。
資料室からパクってきた神々のスキルの奥義を!
……内緒な。
「ヒィィィィィィイ!! なんでもする! なんでもするよー! だからボクを助けてぇぇぇーーー!!」
「今なんでもするって言ったな? だったらあっちでお前が魂を奪った人たちと魔王に土下座で謝っとけ!」
「あそこは地獄よりもいやだぁぁぁぁぁあああああ!!」
「ゴッドスキルバースト! 神々の抱擁!!」




