059 木箱に込めた想いとは
「なんだったんだよ……」
「まぁ、あんなもんじゃろ。女神とて死んでしまえば転生の理に逆らえぬのじゃ。言わば女神転生、略してメガテンじゃの」
「こら、ゲームタイトルっぽく言うんじゃない!」
「本来ならこのような現象は有り得ぬ。やはり子を想う母親の愛とは強いものなんじゃのー」
それには激しく同意するけど。
肝心の情報がなにも聞き出せなかった。
またも手掛かりを失ったわけでして。
「アキトさん、彼女は『寝台の下に』と最初に言っていましたよ。寝台とはベッドのことでしょう?」
「そういや言ってたな! でかしたぞミリィ! 今夜はお赤飯だ!」
「いえ、それほどでも。ですが、今夜はカレーがいいです。できれば甘口の」
「子供かっ」
つっこみながらもミリィの銀髪を撫でてねぎらう。
無表情の癖に頬が少しだけ赤くなってるあたりがかわいい。
この間にも【TP値上昇!】とうるさく表示されているのだが、もう完全に無視することにしよう。
「ほんじゃ、このベッドをどかしてみようぜ。おーい、力持ちー」
俺の声で、みんなの視線がマリーに集中する。
一瞬キョトンとしてから目が吊り上がった。
「力持ちとはわらわのことか!? こんなに幼いなりをしておるのに!?」
「いやー……そうは言ってもマリアベルさまは副神界長ですから……私の神力はアキトの中ですし……」
「私とユエルの筋力ですが、女神の中では平均値程度だと思われます」
「ですね~。マリアベルさまにはかないません~」
「こんなベッドくらい誰でも持ち上がるじゃろ!?」
ここで始まる内輪もめ。
正直誰でもいいんです。
どうせみんな力持ちなんですから。
やっぱりあれかね。
女の子としては力持ちだと恥ずかしいんですかね。
「端っこをちょっと支えてくれればいいだけなんだが……じゃあこうしよう、手伝ってくれた人にはチューしまーす」
ビュン
真っ先に動いたのはフランだ。
ほぼ生身だってのに青い瞳をギラつかせながら、音速を超えた速さでベッドを支えやがった!
こんなときだけすごいな!
ってかチューの件は冗談で言ったつもりなんですけどね!
ビュビュビュン
「チィッ! しまったぁ! のじゃ!」
「くぅっ! 出遅れましたっ!」
「わたしとしたことが油断を~!」
ほんの一瞬遅れた三人も全力でベッドを持ち上げている。
ちょ、俺いらないじゃん!
「はぁはぁ……どう? アキト。私が一番槍……一番乗りよ!?」
「お、おう、よくやったフラン」
「ちゅー忘れないでよ!?」
「は……はい、わかりました……」
フランの形相が怖くて、つい敬語になる俺。
必死すぎるだろ。
俺のチューなんてそんなにうれしいか?
とにかく、ベッドは持ち上がった。
床を改めてみると、小さな木箱らしきものがあるじゃないか。
むしろ、それ以外になにもないんだが。
サイズはA4くらいかな。
かなり古びてはいるが、木材は腐っていない。
よくもまぁこんなもんが残ってたもんだ。
女神における『昔』って、地球で言う千年単位とかだろ?
普通なら木材なんて風化してると思う。
でも、なんだろこれ。
この箱からはとてもあたたかな気配がする。
既に忘れかけた母親の温もりのような……
「みんな、箱があったぞ」
「宝箱!? やったねアキト! これで広いお家に引っ越せるわね!」
「んなわけないだろ。仮に中身が宝だとしても、所有権はウェスタニア専務にあるし」
「そうなんだ? つまんないわねー」
いやごめん。
地球での法律だから、こっちではわからないんだ。
でもまぁ、常識から考えてもウェスタニアさんのものだろ?
「それでそれで? 中身はなんなのじゃ? わくわく!」
「開けましょう。ほら、とっとと開けてくださいアキトさん」
「ドキドキしますねぇ~」
瞳を輝かせるマリー、ミリィ、ユエル。
興味津々ですな。
俺も、もしかしたらすごいものが入ってるんじゃないかと、ほんのちょっぴり期待してるけど。
俺たちは箱と共に、一度表へ出た。
家の中だと薄暗くてかなわん。
「ほんじゃ、開けるぞ……」
全員でぐるりと箱の周りを囲んだ。
俺がそっと箱の蓋に手をかける。
「どきどき」
「わくわく」
「うきうき」
「ぺこぺこ」
「口で言うなよ! そして最後のはなんなの!?」
まぁいい、開けるぞ。
パカリンチョ
「アキト……なに、これ?」
「うーん。どう見ても紙束だな。もうひとつのこれは……手紙かな?」
「なーんじゃ、つまらんのー」
入っていたものは、ノートサイズの紙束を紐で綴じたもの。
それと、巻いた紙を蝋で封印してあることから手紙と判断したものだった。
マリーの落胆もわからなくはない。
だが、俺にはかすかな希望がある。
「……これって~、レシピ、と読めませんか~?」
「よく気付いたなユエル」
「「「えぇぇ!?」」」
そうなのだ。
紙束のほう、その煤けた表紙にはかすれているものの、レシピと書いてあったのだ。
今にも崩れ落ちそうな表紙を慎重にめくる。
『大地を穿つたおやかなる白き杭 1本』
『稚児を悲しませるは紅き槍 2本』
「…………?」
神力のおかげで文字自体はなんなく読めるのだが、さっぱり意味がわからない。
1本、2本とあるのだから、材料だとは思う。
なんだか武器の名前みたいだけどな。
「ユエル、これって食材が書いてあると思うんだけどさ。なんだかわかるか?」
「う~ん、神界で調べればたぶん~……」
「オッケー、充分だ。こいつは借りて持ち帰ろう」
さすがに手紙の内容まで改めるつもりはない。
これはウェスタニアさんに直接渡すべきものだ。
俺にだってそのくらいのデリカシーはあるんだよ。
だから嘘つきって言わないでおくれ。
俺は紙束と手紙を箱へ戻し、鞄に詰めた。
やたらスムーズに入って行く箱に違和感が。
んん!?
あれほど入っていたはずの菓子類がほとんどなくなってる!
いつの間に食ったんだ!?
食べる? のひとことすらなかったぞ!
お陰で木箱が何個でも入りそうです!
ありがとよ!
さてと。
これで残った憂いはあとひとつだ。
「おし、ほんじゃ帰ろうか! ……ってわけにもいかないよな」
「うん! 救済部が人々を救わないでどうするのよ」
よく言ったぞフラン。
それでこそ俺の女神だ。
「じゃの。わらわが救ったロンデニオンを見捨てるわけにもいかぬでな」
「ですね。一度救済した世界を狙うなんて許せません。フルボッコにしてあげましょう」
「わたし、救済のお仕事をするのは初めてですけど、精一杯がんばります~」
なんとも頼もしい面々ですこと。
「わかった。我々救済部は、このまま異世界ロンデニオンの臨時救済業務に移行する! 小細工は一切必要ない! 一気に乗り込んで元凶をブッ倒してやろう!」
「「「「おぉーー!!」」」」
雄叫びと共に立ち上がった俺たち。
さぁ、この世界を救おうではないか!




