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058 怒れる女神と不穏なメッセージ


 ピコポコやかましいタブレット端末を鞄から取り出す俺。

 早く見ろ、見ないとシバくぞと催促されてるみたいでなんだか怖い。


 うげ、予感的中。

 ラ〇ンに似たアプリ、カミンに表示された差出人はアストレアさんじゃねぇか。

 そういや、こっちへ転移する寸前に彼女の顔が見えた気がしたからな。


 いや、恐れるな俺。

 もしかしたら神界でなにかあったのかもしれん。

 火急の事態だったらどうする。

 どれどれ、チェックしてやろう。


『アキト常務! どうして私には声をかけてくれなかったのですか!』

『私も一緒に行きたかったのに!』

『神事部もアキトの直轄でしょう!? それなのに神事部長たる私になにも言わないなんて!』

『バカバカ! アキトのバカ!』


 ズラズラと並んでいたのは、まさかの文句だ!

 こえぇー!

 帰ったら絶対怒られるぞこれ。

 つか、もう怒ってるし。

 この旅程を企画したのはマリーなんだから、せめてそっちに言ってくれよ!


 でも、最後の文だけちょっとかわいい。

 駄々っ子みたいで微笑ましいね。


「わはははは、アストレアのやつめ、置いて行かれて嫉妬しておるのじゃ。すっかり恋する乙女じゃのー」


 俺の頭上で笑うのはマリー。

 どうやらタブレットを覗き込んでいたらしい。

 そう言えば肩車をしたままだった。

 全く、誰のせいだと思ってるんだか。


「アキト、続きがあるようじゃ。早くスクロールせい」

「はいはい」


 スイッと指で画面をスワイプする。

 さらに並んだ文句の羅列、その最下部に。


『それと、運命部及び解析部からの緊急報告があります』

『あなたがたが向かったそのロンデニオンにて、強大な魔力を感知したそうです。その位置情報を添付しておきますので、確認のほどよろしくお願いいたします』


「「は?」」


『既に現地ではなんらかの異変があるかもしれません。くれぐれもお気をつけて』


「おいおい、マジかよ。もう異変が起きちゃってるんだけど」

「ふむ、こちらの神々がやられたのもそれのせいかのう」

「だって、この世界はマリーが救済したんだろ?」

「うむ、それは間違いない。しつこく蘇る魔王をわらわの細腕で倒したのじゃ。どれ、位置情報は、と」


 細腕は余計だと思うが、マリーがそう言うなら確定した事実なのだろう。

 それはいいけど、アストレアさんもさぁ、こんな重要なことは文句より先に書いとくもんじゃないのか普通?


「んーむ、このポイントは魔王城があった位置じゃの」


 よくわからんマップの真ん中に赤いポイント。

 ほう、大陸の中央に陣取っていたとは、相当戦力的に自信があったんだろうな。

 だって四方八方から攻め込まれる可能性が高いわけだろ?

 そんなとこに居城を構えるなんて並大抵じゃないぞ。


 あー、でもすっげぇ高い山の上とかなら安全か。

 俺とフランで救った初めての世界、ミドガルズの魔王城みたいにな。


 それにしても魔力、ねぇ。

 ピンとくるのはやっぱり魔界関連だよねぇ。


「んー、強大な魔力ってことは魔族に関係してるのかなぁ?」

「やめてよアキト。もう魔族はこりごりだからね。私、サイスに犯されそうになったもの」

「本当ですかフラン先輩!? 魔族め、許せぬ!」

「怖いです~! でも、犯すってなんですか~?」


 嘘ですから!

 フランの捏造です!

 騙されるなよミリィ、ユエル!


 魔族を擁護するのもおかしな話だが、サイスの名誉のために言っておきます!

 ヤツは女性でしたから!


「じゃがのー、気になる点もあるのじゃ。ここの神々の症状なんじゃが、かつて魔王が使っていた【超絶怠惰】のスキルとよく似ておる」

「なにそれ?」

「ロンデニオンの住人にのみ効果があるワールドスキルの一種でな、人々を無気力にし、生命力や魂を奪いやすくするものなんじゃ」

「なにそれ怖い!」

「そのスキルにあらがえる者が勇者となったんじゃが、早々に死んでしまってのー。それでわらわが立ち上がったのじゃ。わらわにそんなスキルは効かないからの」

「なるほどな……じゃあウェスタニア専務のご両親はそのスキルにやられて……」


 可哀想に。

 この世界の神々すら影響を受けてしまうスキルではどうしようもなかったのかもしれない。

 ウェスタニアさんもさぞや無念だったろう。


「んにゃ。ウェスタニア親子がここに住んでいたのはもっと後の時代じゃったはず」

「へ? じゃあなんでご両親は……」

「食あたりであっけなく、なのじゃ。なんでも得体のしれないキノコをガッパガッパと平らげた挙句……」

「えぇぇ!? 食あたりかよ!?」

【TP値大幅上昇!】


 しまった。

 思い切りツッコミを入れちまった。

 ええい、無視無視ぃ!


「なんて間抜けな……おっと、それは失礼だな。なんとまぁ運の悪い……合掌」

「さ、さすがに同情するわね……アーメン」

「南無ー、です」

「かわいそうですね~、なんまんだぶ~」


 専務の両親へ適当な祈りを捧げるアホアホ三人娘。

 お前らそれでも女神なの?

 宗派もバラバラじゃねぇかよ。


「取り敢えず、だ。ウェスタニアさんが暮らしてた家に行ってみようぜ。わざわざこの集落へ案内したってことは、まだ残ってるんだろマリー?」

「さすがはアキトじゃ。よくぞ気付いたのー」

「マリーの考えくらい読めるさ」

「ほほー、相思相愛だからこそ成せる御業みわざじゃな?」

「そッスね」

「愛のない返事じゃの!?」

【TP値上昇!】


 うっははは。

 マリーもツッコミパワーが上がってやがる。

 ざまぁみろ。


 と、遊んでる場合じゃないな。


 マリーに案内された集落の一画。

 ちんまりとした慎ましやかな掘っ立て小屋、いや、家が建っていた。


 ここに親子3人で暮らしてたのかよ。

 良くて2部屋くらいしかなさそうだが。

 まぁ、俺の部屋も似たようなもんか。

 むしろこの家より狭そうな空間に5人もひしめいてたりするもんな。


 ……嗚呼、引っ越してぇ……


 俺はマリーを肩から降ろし、この家に相応しい小さなドアをくぐった。

 鍵などはかかっておらず、当然ながら内部も無人である。


 当り前のことではあるが、ウェスタニア専務はここを引き払う時に思い出の品を全て持ち出したようだ。

 つまり殺風景。

 ガランとした部屋には持ち出せなかったであろう、大型の家具しか残っていなかった。


「暖炉には異常なしよ」

「居間も特に目を引くものはありませんね」

「台所もおかしなところはありませんでした~」

「トイレもだ。こりゃ困ったな。手掛かりゼロとは」


 手分けして家探し……じゃなくて捜索したが目ぼしいものはなにも出てこない。


「奥の部屋はどうじゃ?」


 そうか。

 もう一部屋あったな。

 マリーに促され、寝室と思われる部屋に踏み入る。


 ふたつの大きなベッドと思われる木製の台が、小さなベッドを挟んで川の字になっていた。

 大きなほうは両親のもので、小さいのがウェスタニアさんのベッドだったのだろう。


 親子三人がすやすや寝ている様を想像し、微笑ましくなると同時に、もの悲しさを覚えた。

 幸せに暮らしていたのにな。


 だが、ここにも特に手掛かりはない。

 念のためタンスの中まで調べたってのに、成果は無しだ。


 本格的に困ったぞ。

 こりゃもう一度この村に住む神々を救済してから情報を聞きだすほうがいいかもしれんな。

 全員で打開策に頭を捻っていると。


『寝台の下に……』


 どこからともなく声が聞こえた。

 ハッとして顔を上げると、みんなも驚いた顔をしている。


 ってことは、全員が聞いたってことか。


「何者じゃ!」

『マリアベル副神界長さま。その節はお世話になりました。ウェスタニアの母でございます』

「「「「「えええええぇぇ!?」」」」」

【TP値上昇!】


 全員の頭上にメッセージが出る。

 今のはツッコミじゃないのに!?

 上がる基準がさっぱりわかんねぇよ!


 ってか、声だけではあるが専務の母親本人!?

 だったら直接聞けるじゃねぇか!


「あの! ウェスタニアさんが毎日泣いているんです! あなたの料理が食べたいと! だからどんな料理だったのか……」

『あっ、あっ、もう時間が……さよーならー……』

「おいぃぃぃぃいいい!!」

「待たぬかぁぁぁ!!」

「待ってぇぇぇぇ!!」

「我々の話を聞いてください!!」

「お待ちくださ~~い!!」

【クリティカル! TP値超絶上昇!】


 なにがクリティカルしたの!?


 結局一言も会話できず、声の主は去ってしまわれたのだ。

 残されたのは俺たちの頭上に浮かぶ、間の抜けた文字だけであった。




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