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057 一度は救われた世界


「さて、手回しは全て済んだのじゃ。みんな、準備は良いかの?」

「「「「おー!」」」」


 マリーの号令に拳を突き上げて答える俺たち。


 いよいよ、遥かな過去にマリーが一度救済した異世界【ロンデニオン】へ向かうのだ。

 目的は当然、ウェスタニア専務の母親が作ってくれたと言う料理のレシピである。


 そんなものが果たして残っているかは甚だ疑問だが、手掛かりがない以上、現地で調査するしかあるまい。

 まさか専務本人から聞き出すわけにもいかんしな。


 なんでかって?

 こう言うのはな、サプライズ性が大事なんだよ。

 よりインパクトを与えたほうが、感謝の念も大きくなるだろ?


 『さぁ召し上がれ!』っていきなり料理を出したほうが、『まあ素敵! 抱いて!』となるだろ?


 卑怯と言うなかれ。

 ここは狡猾と言ってもらおう。


 ……あれ?

 どっちにしてもクズっぽいね俺。


 まぁいい。

 なんとでも言うがいいさ。

 俺ものっぴきならないんでな。

 甘んじてカスの称号を受け入れてやろうじゃないか。


 ってなわけで、今回は救済部全員で赴くことにした。

 救済しに行くわけじゃないし、危険もないだろうとの判断からである。


 それに、調査や聞き込みには手数がないとね。


 まぁ、そのために数日かけて各部署への根回しと、俺たちが不在の間、救済部の業務を任せられる人員集めに奔走してたんだ。

 俺とマリーの役員権限を最大限利用しつつな。


 いやー、役員ってのは思ってたより便利だね。

 なんせ、大抵のことには二つ返事で許可が出るもの。


 ただ、食堂だけはさすがに閉鎖せざるを得なかった。

 他人に任せてクオリティの低い料理を出すわけにもいくまい。

 俺の沽券にも関わるからな。


 一応、向こうの世界で数日滞在する予定にはしてあるが、うまくいけば日帰りも可能だろう。

 俺たちが帰ってくるまでに飢え死にする女神がいないといいんだが。


「わたし、みなさんと一緒に出張へ行くの初めてなんで、とっても楽しみです~! ワクワク」

「こらユエル。遊びに行くのではないのじゃぞー。んふふー、アキトと新婚旅行ー。ドキドキ」


 はしゃぐユエルをたしなめたはずのマリー。

 その割には顔がユルッユルだ。

 あと、新婚旅行じゃねぇからな。


「ねぇアキト、バナナは持って行ってもいいかしら?」

「甘いですよフラン先輩。おやつはやっぱりお菓子じゃないといけません。じゃーん、チョコとポテチとキャンディーと……」

「あぁーん! いいなぁー! ミリィ、私にも分けてね!」

「もちろんです。みんなで食べましょう」

「わーい!」


 ……フランとミリィも遠足気分かよ。

 もう、好きなの持ってけ。 


 これ、俺が仕切らないといつまでもグダグダしてるパターンじゃね?

 仕方ねぇなぁ。


「それでは、これより救済部は臨時調査出張業務を開始する! マリアベル副神界長、案内をお願いします」

「うむ! 皆の者! わらわに掴まるのじゃ!」


 ドヤッと宣言して大の字に立つマリー。


 この小さな身体のどこに掴まれと!?

 あっ!

 フランとミリィに両腕を取られた!

 ユエルは足にしがみついてる!


 俺はどこをまさぐれば……いや捕まれば……でもなく掴めばいいんだ?

 ……背中しか空いてねぇじゃん。


 俺はマリーの後ろに回り、そっと背中から抱きしめた。

 はずだったんだが、手がふくらみに触れちまった!


「あん! アキト、もっと優しく揉んで欲しいのじゃ……」

「揉むかっ! いやごめん、失礼した」

「うむ、そのツッコミが向こうでは重要になるのじゃ」

「?」


 マリーがなにを言ってるのかわからないが、俺は手をおへその辺りに移す。

 ここなら卑猥には感じないよね。


「よろしい、では転移を開始するのじゃ!」


 マリーから神力が立ち昇る。

 そして、視界が暗転する寸前、慌てたようなアストレアさんの顔が見えた気がした。



「ここがロンデニオンじゃ」

「へぇー」


 俺たちが着いた先は、なんだかあんまり違和感のない風景が広がっていた。


 なんて言えばいいんだろ。

 日本の田舎のほうみたいな。

 山と森林に覆われた感じなんだよね。

 まぁ、馴染みがあっていいんだけどさ。


 そういや、マリーがこの世界に詳しいからって、なにも調べないまま来ちまったな。

 いつもの出張なら前もって解析部の女神が資料を用意してくれてるんだが。


「む。ちと座標がズレたかの。ウェスタニア親子が住んでおったのは、あの山の中腹あたりにある集落なんじゃが」


 マリーが指さした山。

 それほど高くもないし、遠くもない。


 ふーん。

 専務は集落に住んでたのか。

 異世界の神様ってのは随分フレンドリーなんだな。

 村人たちと住むってことは土着の神様だったのかねぇ。


「ま、せっかくだし、歩いて行こうか。風土も気になるし」

「賛成ー」


 真っ先に手をあげたのはフラン。

 さすがは我が愛しの女神。


「そうですね。ピクニック気分です。ひゃっほい」

「わたしも賛成です~。お天気もいいですし~、風景もきれいです~」


 ミリィもユエルも大きく頷いた。

 きみたち、本当に楽しそうね。


「わらわも賛成じゃ。のう、アキトや。肩車をしてくれぬか」

「ん? ああ、いいよ」


 ヒョイっとマリーを担ぐ。

 すべすべの太ももが俺の頬に当たり、とっても気持ちいい。


「すまぬのー。視界が低くて目的地が見えぬのじゃ」


 あー、ちっちゃいもんな。

 しかし、あれだな。

 言動といい、まるでお婆ちゃんの介護をしてるような気分になってくる。


 そういやマリーは見た目こそ幼女だけど、中身はロリババァだったな。

 地の果てまで飛ばされそうだから、絶対口には出せないけど。


「あ~、マリアベルさまだけズルいですよぉ~」


 これまたちっちゃいユエルがうらやましそうにマリーを見上げている。

 よしよし。

 ならばこうしよう。


「ひゃぁ」


 俺は左腕一本でユエルを抱き上げ、腕に乗せた。

 軽い軽い。


「ふわぁ~、いい眺めです~。アキトさん、ありがとうございます~、大好きです~」

「ははは、このくらいどうってことないさ」


 だが、そんな和気あいあいとした俺たちをジト目で見ている二人の女神。

 フランとミリィなんですけどね。


 あのね。

 俺の右手はもう塞がってますよ。

 お前たちが大量に詰め込んだ食いものが入った鞄でな!

 なので抱っこは我慢しなさい。


 そのあとしばらくは森の小道を歩き続ける我々一行。

 木々に集う小鳥や、時折顔を出す小動物たち。

 見たことあるような、ないような不思議な感覚だ。


 うーん、さすがは救済された世界。

 平和そのもの……じゃねぇ!


 目的地である山の麓に達した時だった。

 その少し開けた場所で、バカでかい猪に似た獣が道を塞ぐかのように悠々と横たわっていたのだ。

 差し渡しだけで20メートルはありそうなのがな!


「怪物か!?」


 俺は鞄をフランへ渡し、臨戦態勢に入ろうとした。

 おっと、マリーとユエルを降ろさなきゃ。


「あー、安心してよいぞ。あれは上の集落で飼ってる家畜じゃ」

「家畜!? あんなデカいのが!? そもそも食えるの!?」


 とてもじゃないがマリーの言葉は信じられない。

 だが、もっと信じられないことが俺の身に起こった。


【TP値上昇!】


 と、俺の頭上に文字が浮かんだのだ。


「なんだこれ!?」

【TP値上昇!】

「また出やがった! なんのメッセージなんだよ!?」

【TP値上昇!】

「しつこいわ!」

【TP値上昇!】


 いったいなんなんだ!

 なにか言うたびに出やがって!


「くふふ。とうとう出たのじゃな。ツッコミパワー、略してTPが」

「ツッコミパワー!? 説明してくれよマリー!」

「これはの、ツッコミを入れると上昇する数値なのじゃ。ここロンデニオンでは、ツッコミパワーが高い者ほど強いのじゃ。しかもな、この世界に巣食っていた魔王がツッコミパワーでしか倒せなくてのー。かなり苦労したのじゃよ。ま、今となってはなんの意味もない数値じゃが」

「なんだその世界!? ふざけてんの!?」

【TP値上昇!】

「うぉぉぉ! うぜぇぇぇ!」

「別に気にしなければよいだけなのじゃ。そのうち慣れるからの」


 慣れるかこれ!?

 んん?

 頭の中でツッコミを入れた時は上がらねぇのかよ!

 漫才師でも養成してんのかここは!


「ま、あの家畜『ブブーン』は無害じゃから、先へ進むとしようかの」

「ブブーンって名前なんだあれ……」


 俺たちはグースカピースカと気持ち良さげに眠っている猪の横を通り過ぎ、山道へ踏み入った。

 途中、一度だけ休憩を挟み、しばらく登るとすぐに小ぢんまりとした集落が見えてくる。


 なんだ、思ったよりも近かったな。


 10軒ちょいくらいの家が集まった小さな集落だが、どうにも様子がおかしい。


 人々はいる。

 だが、皆一様にダラリと呆けたまま動かないのだ。

 声をかけても無反応。

 手を眼前で振っても、その目はどこか遠くを見ているだけ。

 呼吸はしているし、脈もちゃんとある。

 だがこれでは生ける屍だ。


「どう言うことなんだ……?」

「わらわにもわからぬのじゃ……それにしてもおかしいのう。この集落の住人は全てが神なのじゃが……」

「えぇぇ!? 全員神様なの!?」

【TP値上昇!】


 今忙しいんだからもうやめて!


 困惑の極みにある俺たち。

 そこへ、なんとも間抜けな音が鳴り響く。

 その発生源は、鞄の中に収められたタブレット端末からであった。




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