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056 思い出の料理を見つけだせ


 それからしばらくの間、俺は神界資料室に足しげく通うようになった。


 なにせ神界の全てが収められたと言ううたい文句の資料室。

 となれば、ウェスタニア専務についての資料もあるはずだとあたりを付けたら大ビンゴ。


 書物の検索端末を駆使してもなかなか見つからなくてヒヤヒヤしたけどな。

 つーか蔵書量が無駄に多すぎるんだよ。


 極めつけは、なんの気なしに俺の名前を検索したら、しっかり資料として情報が網羅されていたことだろう。

 いつ、だれが俺のことなんて調べたのか、さっぱりわからん。

 実は常に見張られてるんじゃないかと思うと怖くてしょうがねぇ。


 ってか、本気で個人情報保護はどうなってんだよ。

 もしかしてそんな概念すらないのか?


 まぁ、そのおかげで専務のことを調べられるんだから文句も言えないけどさ。


 もちろん、なんだか覗き見しているようであんまり気分は良くないが、背に腹はかえられん。

 給料を上げてもらうにはこうするしかないのだ。


 もう嫌なんす!

 貧乏は嫌なんすよ!


 もし、フランたち4柱の女神とひとつ屋根の下で住むことになったら、とてもじゃないが今のワンルームマンションじゃ狭すぎる。

 つまりはもっと広い場所へ引っ越しを余儀なくされるわけだ。

 そんな金がどこにある?

 

 仮に、全員から個室が欲しいなんて言われてみろよ。

 最低でも5LDKに風呂とトイレ別ってことだぜ?

 それはもう、一軒家レベルですよね!?


 そんなもんを都内に確保できるわけないだろう!

 ましてや家を建てるとしたら、それこそ億単位で金が吹っ飛ぶぞ!


 せちがれぇ!

 せちがれぇんすよ世の中は!


 ……すまん。

 いきどおりのあまり暴走してしまった。


 ともかく、そんな現状を打破するためにも、かきあつめた資料とにらめっこしているのが最近の俺なのである。


「アーキートー」

「……」


 机に手をついてぴよんぴょん跳ねるマリー。

 どうせ構ってくれって言うんだろ?

 かわいいけど無視無視。


 ここには役員しか入れないのをいいことに、マリーは毎度俺についてくる。

 そんなに暇ならフランたちといればいいじゃねぇか。


 てか、本気で仕事しないよね。

 この副神界長さまは。


「アーキートーやー」

「……」


 椅子に座った俺の背中によじ登ってくるマリー。

 そのまま首にしがみつき、読書中である俺の横顔をジッと見ている。

 邪魔ではないが、恨みがましい視線はやめておくれ。


「ふっ」

「おぅふっ!」


 いきなり耳に息を吹きかけられ、みっともない声が出ちまった。

 だがそれでも無視無視。

 はっきり言って忙しい。


「ほう……なかなかに強情な……」

「……」

「はむっ」

「!?」


 ビクッと跳ね上がる俺の身体。

 こいつ、耳を甘噛みしやがった!


「あーもう! なんなんだ!」

「わらわを無視するからじゃー! 構ってくれないとわらわは死んでしまうのじゃ!」

「ウサギかっ!」


 思わずつっこんでしまったが、ウサギの件は俗説らしいぜ。

 いやそれより、この構ってちゃんにはお仕置きをせねば。


「だったら、思い切り構ってやるわ!」

「わーい! ……んぐぅ!? むーっ! んーっ!!」


 俺はマリーの小さな身体を抱きしめ、問答無用で思い切り唇を塞いでやった。

 舌を絡ませ、全力で口内を蹂躙してやると、ジタバタもがくマリーの身体が見る間に弛緩していく。


「んんっ、んっ、んー……ん……んふっ……ん」


 ほれほれ、段々甘い声になってきたぞ。

 顔もそんなにトロンとさせちゃって。

 はしたない副神界長ですなぁ。


「ぷはっ……はぁはぁ、す、すごかったのじゃ……目の前が真っ白に……カクリ」

「ええっ!? 失神するほど!?」


 そんなテク、俺にはないぞ!?

 ま、まぁいい。

 これでしばらくは大人しくなるだろ。


 俺はそっと、マリーの身体を机に寝かせた。

 再び書物を開く。



 んで、俺がこれまでに調べた情報なんだが。


 ウェスタニア専務には明確な両親がいた。

 母親はこの神界に降臨した女神。

 そして、父親が異世界の神だと言うのだ。


 つまり混血ってことになる。

 しかもどこかの聖母みたいに、母親は処女懐妊したと言うおまけつき!


 まぁ、長きに渡る神界の歴史ではそれほど珍しい事柄ではないようなんだが、人間の俺には驚くほかはない。

 さして詳しくはないけど、確かに地球の神話でもそんな話がチラホラ見受けられるもんな。


 それはさておいて、だ。


 両親とウェスタニアさんはその昔、父親のほうの異世界で暮らしていたらしい。

 だが、なんらかの事情で、両親が現世からかむ去る、つまり死んでしまったようなのだ。

 残されたウェスタニアさんは主神さまのはからいもあり、こちらの神界で暮らすこととなったわけだ。


 おっと、そろそろ終業の時間だな。

 一度救済部へ戻ろう。


 俺はまだ転がってるマリーの身体を抱き上げ、ヒョインと転移した。


「アキトー、おかえりー。こっちも仕事終わったよー」

「おうー、御苦労さんフラン、ミリィ、ユエル」


「マリアベルさまはどうしたんですか?」

「え、えーと、遊び疲れて眠っちまってな」

「ほぉー……そうなんですか……へぇー……」


 ミリィの問いに適当な答えをしつつ、マリーをソファへ寝かせた。

 ジト目はやめろ。

 くそ、絶対疑ってるなこれ。


 そうだ、ちょっと聞いてみるかな。

 ふとした疑問が、つい口をつく。


「なぁ、お前らってさ、処女?」

「「「!?」」」


 カッと一瞬で真っ赤に染まるフランとミリィの顔。

 ユエルだけはキョトンとしているが。


 あれ?

 きいちゃいけない質問だった?


「あ、あ、当たり前じゃないの! アキトの変態! 普通そんなこと聞く!?」

「いやフランは俺と全裸で……」

「未遂だもん! 確認したらちゃんとあったもん!」

「なにが!?」


 ヤバい、なぜかこれ以上突っ込んではいけない気がする。

 知らぬが花って言葉もあるよね。

 深く聞かないでおこう。


「私もその、男性とのそう言った経験はないです。本当に愛する人ができた時のために……つまりアキトさ」

「わたしもですね~。ところで処女ってなんですか~?」

「ちょ、ユエル。私のセリフに被せないでください。いいところだったのに」

「ああ、うん。ミリィとユエルはそんな感じだな」

「あっさり流すんですか!?」

「わらわも経験はないのじゃー」

「起きてたのマリー!?」


 まぁ、俺もウェスタニアさんの母親が処女懐妊したって話だったから少しだけ疑問に思っただけなんだ。

 と、言った旨の説明をした。


「へー、そんなことがあったんだ?」

「初めて聞きましたね」

「なるほど~。それで、懐妊ってなんです~?」


 ついでに、これまで調べ上げたことも話しておこう。


「そうだったの……じゃあアキトはウェスタニア専務のためにお料理を作ってあげたいわけね」

「うん、端的に言えばそう言うことだ」


 フランにしては飲み込みが早いな。

 ま、実際には専務に思い出の料理を食わせて懐柔した挙句、給料を上げろと交渉するつもりなんだがな。

 …………よく考えたら悪いヤツだね俺は。


「でも、その料理がなんなのかはわかっているんですか?」

「食材がわかればわたしが出せますけど~」

「うーむ、それなんだよ。まぁ、普段なにを食ってたかなんて、資料に書いてあるわけもないし。ましてや他の世界の料理だもんなぁ。正直言って調べようがないんだ」


 腕組みして考え込む俺たち。

 

「ならば、行ってみるしかあるまいのー。案内はわらわがするから安心せよ、なのじゃ」

「「「「はい?」」」」


 なんでもないことのように言うマリー。

 マリーが案内を?

 まさか行ったことでもあるってのかよ。



「ほっほっほー。なんせその世界を救済したのは、このわらわじゃからのー」

「「「「はいぃ!!??」」」」





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