055 キャンパス編開始!(超嘘)
「おい、見ろよあれ。あの子、むっちゃかわいくね?」
「うっそだろ……? なんであの万年非モテ野郎と一緒にいるんだ……?」
「秋人くんが女連れよ? 有り得なくない?」
「あんな綺麗な子、どこからさらってきたのかな?」
「彼女だったりして」
「まっさかー! ただの留学生じゃない? キャハハハ!」
さらうかっ!
いや、ある意味神界からさらってきたとも言えないことはないが。
それに、そのまさかだったりするとは誰も思うまい。
それにしてもひどい言われようだなおい。
ここは俺の通うゼミの講義室。
なるべく目立たないように一番後ろの隅に腰かけてるってのに、このザワつきだ。
無遠慮に浴びせかけられる羨望の眼差し。
その全ては、当然ながら俺ではなくフランへ向けられたものである。
時々俺を眺めるやつもいるが、その目は猜疑心と妬みに満ちていた。
当のフランは、そんな視線を気にした風もなく、ニコニコとしている。
やたら楽しそうなのが不思議でしょうがない。
「ね、アキト。みんなが私たちを見てるけど、そんなにお似合いの恋人同士っぽいのかな?」
「ぶっ! ……お前はそう受け止めたのか……なんちゅうポジティブ思考……」
「え? 違うの?」
「女子連中はどうかしらんが、少なくとも男どもは違うな。ありゃ嫉妬だ。俺みたいな大したこともない男が美少女のフランと一緒にいるってだけでやっかまれるんだよ」
「ふーん、アキトは大したことあるのに、みんな見る目ないのねー。それに私、そんなに美少女かなぁ? 自分じゃよくわかんないや」
「ああ、すっげぇかわいいよ」
「ほんと? えへへー」
ドヨッ
このどよめきは、フランが俺に抱き着いたからだ。
みんなの目が信じられないものを見たかのように大きく開かれている。
なんかそれはそれでムカつくな。
どれだけ俺がモテないのか強制的に再確認させられてる気分だ。
俺だって奇跡だと思ってんだから、ほっとけよてめぇら!
しまいにはシバくぞ!
ガラガラ
「んー? おー、火神ー。お前には春が来たのかぁ! 日本にはまだ来てないってのになー!」
講義室へ入ってきた教授の言葉にドッと湧く連中。
びっくりするぐらい余計なお世話ですよ教授。
ちなみに忘れかけていると思うが、火神ってのは俺の名字な。
終始ヒソヒソ声の聞こえる苦痛に満ちた105分。
なんとか耐え忍んだ俺はフランの手を掴み、逃げるように講義室を後にした。
そのままカフェへ入り、コーヒーを煽ったところでようやく人心地ついた。
フランは幸せそうにベリーのパフェなんか食べちゃってる。
のんきなもんだ。
自覚のない美少女ってのもなかなかタチが悪い。
まぁ、美人、美少女な女神揃いの神界にいたらそうなるのも仕方ないか。
「うまいか?」
「うん! アキトも食べてみる? はい、あーん」
「あーん」
なるほど、ミルク感のあるアイスとベリーの酸味がマッチしてるな。
んー、俺が作るならもうちょっと濃厚さを出すために……
「おっ、おおお!? アキトじゃん!」
「あん? 誰だお前? 邪魔すんな失せろ」
「ブハッ! ひでぇな! 俺だよ! お前のマブダチ!」
「俺にマブダチなんていない失せろ」
「おいおいおい、勘弁してくれよアキトちゃーん! 煉獄クリスマスを一緒に過ごした仲じゃねぇかよー」
このいかにもチャラそうな小男は、通称マツ。
服装や髪形に気と金を使っているのに、全くモテない可哀想なヤツである。
だが、こんな見た目なのに成績優秀だってんだから、世の中とはわからないものだ。
そして、なにを隠そうこいつこそが全ての発端となった、あのクソみたいな合コンの発案者だったりする。
ある意味では俺とフランが出会うきっかけを作ったキューピッドとも言えるだろう。
……ちっとも言いたくないが。
ま、名前なんて覚えなくていいよ。
こいつに関わるとロクなことがねぇんでな。
しかし、どこから湧いたんだこいつは。
「てかさ、てかさ、なにこの子、むっちゃマブいんですけどぉー! モデルの子ぉ?」
「?」
フランをジロジロ見るマツ。
キョトンとするフラン。
俺のフランが穢れるからあんまり見るなよ。
「うわー、うわー、マジかわいいじゃん。ねぇきみ、どこの国から来たの? 留学生? いくつ?」
興奮しすぎだ。
普段から女っ気がないってバレちまうぞ。
「さっきアキトにあーんってしてたの見たんだけど、もしかしてコイツの彼女?」
ぶっ!?
こいつ、見てたのか!
こっぱずかしい!!
絶対言いふらす気だろ!?
「は……はい。私はアキトの、か、彼女です……」
頬を染めうつむきながらポソッと言うフラン。
おや、照れてるようだ。
うむ、かわいい。
ってか、俺まで照れるからやめれ。
「うぅーーん! 真っ赤になっちゃってかわいい~~~!! そしてアキトは死ね!!」
「なんでだよ!」
「お前がこんなかわいい子と付き合えるはずないじゃん! 弱みとか握ってんじゃね?」
「失敬だぞクソマツ!」
「クソマツって言うな! アホト!」
「ぷーっ! くすくすくすくす! こっちでもアホトって言われちゃってるー」
俺は素早くマツの頭を左腕で絞める。
ヘッドロックだ。
容赦なくギリギリとね。
フランもいつまで笑ってんだ!
「いででで、ギブ、ギブー」
「アキト、可哀想だから放してあげてよ」
「む、フランがそう言うなら仕方ねぇな」
「……て、天使だ……!」
フランの足元にひざまずき、両手を組んで祈りを捧げるマツ。
いえ、彼女は女神さまです。
ま、祈るのは間違ってないな。
だがフランの神力は俺の中にある、つまり俺のほうが神に近い存在。
わっはっはっは、マツよ。
俺に祈ったほうがいいかもしれんぞ。
なにひとつお前の願いは叶わないがね。
「あ、ヤベ。俺、2コマ目は出なきゃ。じゃあね天使さん! ついでにアキトもじゃーな! バーカ!」
捨て台詞を残して去って行くマツ。
なにしに来たんだあいつは。
あとでブッ飛ばそう。
「なんだか変わった人ね。アキトひどいこと言ったし。本当にお友達なの?」
「全然知らないヤツだぞ」
マツが聞いてたら嘆きそうだが、どうでもいいよな。
さて、本当はもうひとつ受けたい講義があるんだけど、もうそんな気分じゃなくなったな。
午後は自主休講ってことにしよう。
「フラン、お昼はなにがいい?」
「うーん、あ、そうだ! 寒いからお鍋がいいかも! テレビで見たの美味しそうだったよー」
「お、いいねぇ、そうしようか。どうせミリィたちも食っていくだろうし」
「わーい!」
俺たちはカフェを出てスーパーへ向かった。
自分で言うのもなんだが、初々しく手なんか繋いでな。
うひー、青春。
激安で有名なスーパーは、やたらと混雑していた。
それはいいんだが、野菜が高い!
白菜が700円て!
ひぃ!?
キャベツですら400円!?
こりゃきっとアレだな。
異常気象のせいだろう。
こんなのがいつまでも続いたら、世界中で食糧難になっちまうんじゃねぇのか……?
『ただいまより、お肉のタイムサービスでーす! 皆様、精肉売り場までおこしくださーい!』
場内アナウンスの声に、ビクンと反応する俺と周囲のオバちゃんたち。
「なにぃ!? こうしちゃおれん! フラン、急ぐぞ!」
「アキトー、このお菓子買ってもいーいー?」
「子供かっ!? わかったわかった、カゴに入れとけ!」
「やったぁ!」
やっぱり俺って甘いかなぁ。
なんだかフランにねだられると買ってあげたくなるんだよね。
だから料理のリクエストをされると作ってあげちゃうし。
……料理のリクエスト、か。
不意に資料室での専務が脳裏に浮かぶ。
ウェスタニアさん、母親の料理が食べたいって言ってたよな。
もしその料理を作ってあげたら、彼女の凍った心も少しは溶かせるんじゃないのか……?
俺はあとでマリーたちに相談してみようと誓いながら、精肉売り場に殺到するオバちゃんたちの群れへ突撃するのであった。
肉がないと鍋が始まらん!!




