053 秘匿された資料室
二人きりで話したいって言われてもなぁ。
この女神まみれの空間でどうしろと。
ほらー、アストレアさんが怖い顔でこっち見てるよー。
と思ったら、掃除の甘い女神を叱りつけに行っちゃった。
可哀想な子……って標的はフランかよ!
あー、もう既に涙目じゃん。
哀れなり……あとでいっぱい慰めてあげよう。
「少しわらわに付き合ってくれぬかの」
クイクイと俺の袖を引っ張るマリー。
なるほど、ここでは騒がしいもんな。
「ああ、いいよ」
「うむ、参ろう」
マリーに連れられて転移した場所は……真っ暗だ!?
どこだよここは!
「しばし待つのじゃ。えーと、電気電気」
パチン
「……おぉぉお!?」
そこは広大な空間。
並び立つ棚、棚、棚。
そして高い天井まで埋め尽くされた、すさまじいまでの蔵書量。
「ここはの、役員以上の者にしかその存在すら明かされぬ資料室じゃ」
「資料室ってレベルじゃないだろこれ……国立図書館並みだぞ……!」
驚愕する俺を面白そうに見ているマリー。
いや、俺じゃなくったって普通に驚くだろこんなもん。
「ここには神界のあらゆる書物が収められておるのじゃぞ」
「マジか……なぁ、マリー。俺がこんなすごいもんを閲覧しても本当にいいのかよ?」
「もちろんじゃ」
俺は人間だってのにずいぶん太っ腹だな。
まぁ、それだけ功績を認めてもらえているってことなんだろうけど。
知りたいこと、調べたいことは山ほどあるからありがたいね。
しばらく入り浸りたいくらい。
にしてもだ。
こんだけ蔵書があったら、目的の本を探すだけで何日もかかりそうだぞ。
「そこに検索用端末があるからの」
「無駄にハイテク!」
やべ、思わずハイテクなんて死語が出ちゃった。
てか、俺の心を読むなマリー!
「そうか、話したいことってこれだったんだな。確かにすげぇや」
役員以上しか入れないなら、他の連中には内密にしなきゃならないもんなぁ。
副神界長ともなるとやっぱり思慮深いもんだ。
「んにゃ。ここはついでじゃ」
「ついでなの!?」
なんだよもう!
「……二人きりになるには静かでよい場所じゃからの……」
あれ?
急にマリーのトーンが変わったぞ。
えっ、まさか二人きりってそう言う……
「あ、あの……その、アキトはわらわをどう思っておるのかのー……?」
うわっ。
いきなり厳しい質問。
なんて答えたらいいんだよ。
とりあえず、モジモジテレテレしているマリーは、とってもかわいい。
うん。
かわいいな。
「かわいいな」
やべぇ、脳と口が直結してた。
そのまんまやないかーいとセルフツッコミしておこう。
なんでこう俺ってやつぁ、気の利いた言葉のひとつも出せないのかねぇ。
「まことか!? では、好きか嫌いかで言ったらどうなのじゃ!?」
「えっ? ええっ!?」
食いつきが半端ない。
てか、顔が近い! 近い!
マリーには色々世話になってるし、いや、こっちが世話もしてるけどさ。
美少女だし、俺に懐いてるのもかわいいし、そりゃ嫌いなはずないよね。
むしろ好きだ。
「むしろ好きだ」
「!!」
あああああ!
またやっちまった!
俺の口め!
あとで縫い付けてやるぁ!
「わらわもアキトが大好きじゃ! ずっと好きだったのじゃ! 愛しておるのじゃ!」
「えぇぇぇ!?」
いや、わざとらしいぞ俺。
薄々感じてたろ。
マリーの俺に対するあからさまな好意を。
副神界長だし、直属の上司でもあるから考えないようにしてただけだろうに。
朴念仁のふりしてごまかすな!
「じゃから……の。わらわでよかったら、アキトハーレムの末席にでも加えて欲しいのじゃ……」
「ぶっ!? アキトハーレム!?」
待て待て待てぇい!!
そんなもん作った覚えはねぇ!!
「だって、フランシア、ミリアリア、ユエルの3人と付き合っておるのじゃろ? なんでも結婚の約束もしておるとか。アキトは今後もお嫁さんを増やす予定じゃと聞いたが……」
「誰がそんなことを!?」
どこのバカだ!
そんなデマを流したヤツぁ!
特に後半は根も葉もないぞ!!
「アストレアや幾人かの女神がアキトハーレムに入る気満々じゃったぞ」
「いやぁぁぁ!」
俺にそんな扶養力があるとでも!?
基本的に毎月カツカツのボンビーボーイなんですけど!?
その前にハーレムなんて無いっての!
「だからぁ~、わらわも入っていいじゃろ~? ねぇ~、アキトってば~、たくさんご奉仕するから~」
「ぐんぬぬぬぬぬ……」
これほど答えに窮するおねだりもなかなかないぞ。
どうすりゃいいのよ。
ってかご奉仕ってなんだ……?
「ねぇ、ねぇ~………………グスッ、アキトはわらわが好きではないのじゃな……えーん、えーん」
「!?」
ぐっ、女の涙はズルいぞ!
しかもやたらと嘘泣き臭ぇ!
でも無碍にすることもできないこのもどかしさたるや!
策士!
策士だよマリー!
「ああもう! わかったよ! 3人も4人も大差ないもんな! マリーのことも俺が全力で愛してやる! 覚悟しとけよ!」
「まことじゃな!? うわーい! アキト、大好きなのじゃー! ちゅー!」
頬と言わず口と言わず、顔中にキスの雨を降らせるマリー。
やっぱ嘘泣きかい!
半ば自分に言い聞かせる感じになっちまったのは許しておくれ。
俺だってもう、なにがなんだかわからん状態だ。
あーあ、フランたちになんて説明すればいいのやら。
「じゃあ、アキト……わらわを抱いておくれ……」
「はいぃ!?」
抱く!?
ここで!?
いやいやいや、場所の問題じゃねぇ!
抱くって言うと、アレだよね!?
「バッ、バカなことを言うな! マリーはまだ小さいのにセック……」
「!? ちっ、違うのじゃ! そっちではない! ハグ! ハグじゃ! どぅーゆーあんだーすたん!?」
「あ、ああ、なんだ。ビビらせんなよ……」
要は抱っこね。
あー、心臓に悪い。
しかし、一応マリーもそっち方面の知識はあるのね。
耳年増なだけっぽいけど。
俺は左腕一本で軽々とマリーを抱き上げた。
マリーのぷりんとした小ぶりなお尻を腕に乗せると、ちょうど顔の位置が俺の頭あたりにくる。
うーん、軽いなー。
ちゃんとご飯食べてんのか?
これからは俺がきちんと栄養面も見てあげないとならんな。
「な、なんか思ってたのと違う抱きかたじゃが……まぁよい」
そう言うと、マリーは俺の首に手を回し、ぎゅっとしがみついてきた。
小っちゃい子特有の甘い香りがする。
うーん、かわいい。
「やっと想いを伝えられて、わらわは幸せなのじゃー」
確かに神力を通して伝わってくるマリーの熱い気持ち。
自分で言うのもアレだが、俺なんぞのどこがいいんですかねぇ。
料理以外に取柄ないよ?
「愛する気持ちに理由なんかないのじゃー。強いて言えば、アキトだから、かのー」
「意味わかんないし、俺の心を読むなよ……」
神力も励起してないのに、どうやって読んでるんだ?
これが年季の差ってヤツか?
「おなごに年齢は聞くでないぞー」
「読みすぎだよ!?」
む?
この資料室に何者かが転移してくる気配を感じる。
質量が転移する時には、必ず大なり小なりの重力震が発生するんだ。
何度も経験するうちに、いつの間にか俺はそれを微かな耳鳴りとして捉えることができるようになっていたのさ。
うんうん。
成長したな、俺も。
って、のんきに解説してる場合じゃねぇ。
こっちも超短距離転移を!
ヒョインと俺たちは無闇に並ぶ本棚の森へ転移した。
ここであれば、向こうからは見えないがこちらからは入口が見える。
救済部の部長室へ転移しなかったのは、完全に興味本位からだ。
ここに現れるってことは、役員ってことだろ?
マリー以外の役員女神を見たことがないからな。
どんな人かなーと思ってね。
わざわざ隠れる必要もないのだろうが、マリーを抱いている姿はとてもじゃないが人様に見せるような物ではあるまい。
「アキトはすごいのー。わらわよりも先に転移の気配を感じ取るとは」
ほぅ、とため息を漏らすマリーの称賛が耳に心地いい。
わっはっは。
もっと褒めてくれたまえ。
資料室へ現れたのは、床に引きずるほどの黒髪を持った女神である。
顔をも覆う長い髪と、白い衣服、そして猫背が相まってアレにしか思えない。
貞子!?
「あれは……専務じゃ……」
「専務ぅ!?」




