045 異界の老人たちを料理で励まそう!
プシシーッ
ガションガション
ゴンゴンゴンゴン
カーンカーンカーン
「随分うるさい街ねぇ」
「あー? なんだって?」
「うるさい街ねって言ったの!」
「ああ! 確かにな!」
あちらこちらから吹き出る蒸気。
様々な機械が奏でる駆動音。
最初に着いたこの街は、スチームパンクそのものだった。
いい趣味してやがる。
喧騒に満ち溢れすぎだと思うけどな。
「えーと、集会所ってところがあるみたいよ」
「ふむ、そこにみんないるのかな? ま、行ってみるか」
ウィンドウに表示された街の地図を頼りに歩く。
どうやらそれは街の中央にあるようだ。
内部には武器屋や宿屋なども備わった複合施設となっているらしい。
「ここみたいよ」
フランが見ている看板には、集会所と書かれていた。
それはいいんだが、なんなんだこの看板。
外枠にはびっしりと歯車が取り付けられ、カタカタと回っている。
四隅からは、必要性の感じられない蒸気がひっきりなしに噴出していた。
無駄すぎない?
これまた無駄なモールドだらけの扉を開けて中へ進む。
室内は思ったより普通の造りで広さもあるが、妙に薄暗い。
いやそれより、人がいるじゃないか!
集会所らしく、長椅子が各所に設けられており、幾人かがそれに座っていたのだ。
でもなんだろう、この雰囲気。
まるでお通夜だ。
だが、生存者がいるのは僥倖だ。
まだ世界が滅んでいない証拠だもんな。
ってか、みんなやっぱり俺たちみたいな黒いサイバースーツらしきものを着てるのね。
この世界のデフォルト衣装なのかな。
俺は近くに座るうなだれた老人に声をかけた。
「あのー、すみません」
「ふごふご……なにかな? おや、君たちは見かけない顔だね」
白髪で白ヒゲの老人は、さも億劫そうに声を出した。
「俺たち、最近になって捕まったんです。ところで、やけに人が少ないですけど、みんなはどちらに?」
「おおかた死んじまったよ。力のある生き残った連中は上層を目指してここを発った。残されたのは足手まといのワシら老人たちだけなんだ」
なるほど……
多少は予想していたが、思った以上に大勢が亡くなったようだ。
「それはそれはひどいもんだったよ。人々は己の運命を呪い、憎しみ、争い、そして殺し合った。殺人メカに殺されたのと、人が人を殺した人数が同じくらいではないかと思うほどに」
「そうだったんですか……」
「もしや君たちも上へ向かうのかね?」
「はい。そのつもりです」
「そうか……不思議だね。君からはなにか特別な力を感じるよ。握手をしてもいいかね」
「勿論です」
俺は老人と固く握手をした。
必ず救うと力を込めて。
「なんだか少しだけ気持ちが軽くなった気がするよ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。お話をしてくれてありがとうございました」
「そちらのかわいらしいお嬢さんにも、幸福が訪れることを祈っておるよ」
「はい、ありがとうございます」
俺たちはお爺さんに別れを告げ、武器屋へ向かう。
うーむ、やはり早急に上層へ行くべきだな。
「ねー、アキト。私、可憐でかわいらしいって言われちゃったぁ」
「可憐とは言ってねぇだろ。勝手に捏造すんな」
「なによー! アキトのバカ!」
「バカとはなんだ。フランを可憐でかわいらしいと思ってるのは俺だけでいいだろ。爺さんに言われて舞い上がってんじゃねぇよ」
「えっ? もしかして嫉妬?」
「あー、そうだよ。悪かったな」
「ううん、すっごくうれしい!」
「っと、ここだな武器屋は」
うーわー。
なんだこの店。
金属パイプとか配管だけで建てられてんのか?
とても武器屋には見えんぞ。
でも確かにウェポンショップって書いてあるしなぁ。
俺は意を決して、今にも壊れそうな扉を開けた。
内部には店員などおらず、ATMみたいな機械が置いてあるだけだ。
どうやらこれを使って買い物をするらしい。
「おっと、その前にレアアイテムを売っちまおう」
「高かったらラッキーよね」
俺は機械の売却ボタンを押し、レアアイテムのメタリアンとやらを選択する。
「ちょ、マジかこれ」
「うっそぉ!? あんなのが200万zもするの!?」
チュートリアルで出しちゃダメなアイテムすぎるだろ!
バランスもクソもねぇのかよ!
ちなみに、ジニってのはここの仮想通貨ね。
「ねぇねぇ! 早く売っちゃいましょうよ! くふふ、これで私たちも大金持ちよ!」
「フランよ、お主も悪よのう」
大金を手に入れた俺は、真っ先に防具の欄を漁る。
そしてフランには女性用で最上位の鎧を購入した。
お値段はなんと50万ジニ!
なんでこんなクソ高い防具が最初の街で売ってんだよ。
普通じゃ買えないだろ。
確かにそう言うゲームもなくはないけどさぁ。
お陰で俺は防具も買えず、武器だけを購入した。
武器とは言ったが、手甲みたいなもんだ。
つまりナックル系だね。
個人的には使い慣れている剣が欲しかったんだけど、ここの店にはないっぽいから諦めたんだ。
「ねー、アキト、これすごくない? 武器屋なのに食材が売ってるわよ」
「はいぃ!? VRなのに!? そもそも、この世界の連中って、魂だけの存在なんだろ? メシとか食うの!?」
「そりゃあ、食事と言う行為自体が精神の癒しでもあるからじゃない?」
「ぐっ! フランにしては的を射ているじゃないか……この俺が論破されるとは……」
「どのアキトだか知らないけど、結構美味しそうよこれ。なんだかお腹が減ってきちゃった」
おかしな話だが、俺もなんだか腹が空いたような気がする。
アストラル体となっていても、生理現象はいつもと変わらないらしい。
「ねね、この食材でなにか作ってあげたら、お爺ちゃんたちも喜ぶかもよ」
「お前、今日はマジで冴えてるな。そりゃいい考えだ」
腹が満たされれば少しは希望が湧いてくるもんな。
どれどれ、どんな食材があるんだろ。
サーッと食材の欄をスクロールさせていく。
よくわからん物ばっかりだ。
凶獣アルセイオスの肉。100グラム600ジニ。
見た目は真っ黒な肉塊だ。
食えるかこんなの!
てか重さの単位はグラムなんだ!?
そっちに驚いたわ!
極東銀河、オリオン腕、太陽系産小麦粉……
えぇ!?
地球の食材もあるの!?
すごいな!?
「わー、これならなんでも作れそうじゃない?」
「……うん。なぁフラン、食べたい料理はあるか? あ、焼き鳥以外でな」
「うぅーん、ちょっと肌寒いし、身体が温まるものがいいわね……あ、シチューが食べたい!」
「おっ、なかなかいいチョイスだな。オッケー」
俺は必要な食材を次々に購入する。
値段もお手頃だなぁ。
「でもどこで作るの?」
「ふふーん。甘いなフラン。さっきの集会所の奥、あそこにキッチンらしきものがあったのを見てなかったのか」
「へぇー、さすがアキト。偉いね」
「頭を撫でるな! 俺は子供かっ」
俺は大量の食材を抱えて、集会所へ戻った。
先程の爺ちゃんに声をかけておく。
「すみません、ちょっとキッチンを借りますね」
「そりゃあ構わんが……」
「すっごく美味しいものを私たちが作るから楽しみにしててね!」
「は、はぁ」
茶目っ気たっぷりにウィンクするフラン。
爺さんも毒気を抜かれてしまったようだ。
いざ、調理開始。
まずは根菜類の下処理だ。
洗い、皮をむき、食べやすい大きさに切る。
しかし、これらも元はただのデータなんだろうけど、本物にしか思えないよなぁ。
「フラン、玉ねぎを弱火でじっくり炒めてくれ。わかってると思うが絶対に焦がすなよ」
「はーい、まっかせてー」
飴色玉ねぎはカレーだけにあらず。
シチューにもよく合うんだ。
その間におれはクリームソースを作る。
さすがに市販のルゥは置いてなかったんでな。
手作りするしかない。
フライパンに牛乳を入れ、熱しながらそこへ小麦粉を少しずつ溶かしていく。
ダマにならないよう、丁寧に、ゆっくりとかき混ぜながらだ。
ここでミスると粉っぽくなっちゃうからな。
うん、いい感じ。
俺はシチューやカレーを作る時は、野菜類を一度炒めることにしている。
このほうが煮崩れしにくくなるんだよ。
大きな寸胴を用意し、炒めた鶏肉と野菜類を投入。
そこへ先程のクリームソースとコンソメ、隠し味に和風ダシを入れるのがポイントだ。
しばらく煮込んだあと、生クリーム、白ワイン、塩コショウで味を調える。
「うーん、いい香りー!」
「だろ? よっしゃ完成ー」
「わーい! お腹ぺこぺこー!」
俺たちは皿によそったシチューを老人たちに配り歩いた。
最初は訝し気な顔していた人々だったが、一口食べた瞬間からみるみる表情が変貌していく。
「うわぁぁぁ! うまぁぁぁぁい!!」
「なんだいこれは!? こんな美味しいもの、初めて食べたよ!」
「うっうっ、これほど美味いものを生きているうちに食べられるなんて……うぅぅ」
「うおぉぉ、孫にも食べさせてやりたっかたのぉ!」
「冥途の土産、これは冥途の土産だよ爺さんや!」
「あんたたちは神様かい!? こんな素晴らしい食べ物を作れるなんて!」
惜しい。
実は女神さまなんだ、とは言えないがな。
ってか、そこまで美味かったの……?
喜んでくれるのは嬉しいが、ちと大げさすぎませんかねぇ。
最初に話した爺さんが俺たちに近付いてきた。
その顔は先程とうって変わって歓喜に満ち、涙すら流している。
あなたもですか。
「あんたたちのお陰だよ! これほど嬉しそうなみんなの顔を見られたのはな! 絶望しかなかったみんなに希望が戻ったようだ! 本当に感謝するよ、ありがとう!」
「いえいえ、これが少しでも生きる力となれば幸いですから」
「そうね。お爺ちゃんたち、頑張って長生きしてくださいね! きっと私たちがこの世界を救います!」
「あっ、バカフラン!」
「もごもがもごご」
余計なことを口走るフランの口を塞ぐ。
「いや、あんたたちなら救えそうな気がするよ。はっはっは」
ニッコリ笑うお爺さん。
そのお爺さんの身体が輝き……いや、老人たち全員が光っている。
みんなの身体から出た光は、ひとつの塊となって俺の手に降りた。
そして視界の隅にログが流れる。
『キーアイテム【最後の希望】を獲得しました!』




