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043 ナースな女神に見送られ


 そしていよいよ出張業務出発当日を迎えた。


 俺とフランは神界の医療部へおもむく。

 案内されたのは割と狭い処置室。

 そこに、清潔そうなベッドがふたつ並んでいた。


 俺たちはここに肉体を置いて行くわけか。


 よかったぁ。

 ベッドがふたつあって。

 ダブルベッドだったらどうしようかと思ったぞ。


 フランと添い寝なんて、どうしたって勃起しちまうもんな。

 そんなところを目撃されたら、末代まで笑われそうだ。


 こら、フラン。

 残念そうな顔をするんじゃない。


「あらん? あなたたちが救済部の人ぉ?」


 処置室に入ってきたのは……えーと、看護師さん、でいいのかな?

 いや勿論女神さまなんだろうけど、身なりが、その、ね。


 右目を隠した金髪ショートヘアで、パッツンパッツンのミニスカ白衣と白いニーソックス。

 やたらと雄大な胸を見せつけるように下から腕を組んで持ち上げている。


 乳の暴力!


 まさに色気の権化ごんげだ。


「初めまして、よろしくお願いします。俺は救済部部長のアキト、こっちはフラン……いえ、救済の女神フランシアです」

「よろしくおねがいしまーす!」

「そぉー。私は医療部のリリーナよ。出張中のあなたたちを面倒みてあ・げ・る」


 チロリと舌を出すリリーナさん。

 なんでかその仕草に俺の背筋がゾクリとした。

 クラクラするような色香いろかのせいだろうか。


「ねぇアキトくん」

「は、はい?」


 ねっとりと絡みつくような視線。

 どうも俺の下腹部を集中的に見られている気がする。


 どんなビッチだよ。


「その荷物、なにが入ってるのかしらぁ?」

「あ、タブレット端末と資料、それと着替えなんかですけど」


 ビッチとか言って失礼しました。

 見ていたのは俺の鞄だったのね。


「うふふ、お・バ・カ・さん。これからアストラル体になるのに、どうやって持ち込む気なのかしらぁ?」

「うぐっ! そう言えばそうか……」


 言われてみればその通り。


 くそ。

 今日までの数日で資料はかなり読み込んで記憶したつもりだ。

 だが完璧かと問われれば、いささか不安は残る。

 正直、持って行けないのはかなりきつい。


 まぁ、フランも珍しく熱心に読んでいたし、あいつも意外と記憶力はいいからそれに期待するとしよう。


「じゃあ、二人とも、ベッドへ横になってもらえる?」

「はい」

「はーい」


 俺は邪魔になった荷物を救済部長室へ転移させ、身体ひとつで横たわった。


 ぬおっ。

 目の前にはムッチムチなリリーナさんの太ももが。

 スカートとニーソックスの間に生じる絶対領域がたまらん。


 あっあっ。

 パンツ見えそう。

 いかん、いかんよ君ィ!


 俺は眩しい太ももから逃れるようにフランのほうを見る。 

 フランも横になってこちらへ顔を向け、ニコっと微笑んでくれた。


 かわいいヤツめ。

 お陰で、ちょっとだけ劣情的な気持ちが落ち着いたよ。

 ありがとうな。


 俺の思念が伝わったのか伝わらなかったのか、フランは俺に小さく投げキッス。

 ……バカな子ほどかわいいってのは、よく言ったもんだ。


「これから肉体を保護するための仮死化薬をお注射するわよぉ。チクッとするけど我慢してね」


 注射かよ。

 アナログだな。

 神力を使ったほうが早いんじゃないの?


「ヒッ!? 注射怖い!」


 途端に怯えた表情で悲鳴を上げるフラン。

 子供か。


「あらあら、フランシア、暴れないでちょうだい」


 迫る注射器。

 もがくフラン。


「フラン。ほれ、俺の手を握ってろ」

「……う、うん」


 いてててて。

 そんな全力で握らんでもいいだろうに。

 どんだけビビってんだよ。


「んっぎぃぃぃ!」


 女神にあるまじき声を発しながら一人痛みと戦うフラン。


 おいおい、すっげぇ顔になってんぞ。

 やばい、あまりのひどさに笑っちまう。


 デデーン

 アキトー、アウトーとどこからか聞こえてきそうだ。


「ハァハァ、ぜぃぜぃ……」

「はい、終わりよ。クスクス」

「よくがんばったなフラン。ぷっくくく」


 俺もチクッに耐え、薬剤が体内に巡るのを待つ。

 すると、睡眠導入剤でも混合されていたのか、だんだん眠くなってきた。


「そのまま眠っちゃっていいわよ。アストラル体の分離を確認したあと、座標の固定と転移をこちらで実行するわ」


 俺はお願いしますと発言したかったが、もう口は動かなかった。

 意識が急速に遠のき、視界も閉ざされて行く。


「良い旅を」


 最後に、リリーナさんはそう言った気がした。





「はっ!?」


 目が覚めるとそこは……

 ……どこだここ?


 そうだそうだ。

 出張業務で俺たちはハイペリオスって世界に来たんだったな。


 って、うわぁ!

 なんで俺はこんなピッチリした黒い全身タイツみたいなのを着てるんだ!?

 股間がモッコリしてて恥ずかしいんですけど!


 隣で仰向あおむけに転がってるフランも同じようなスーツを着ていた。

 ボディラインがくっきりと浮かび上がって、なんかちょっとエロい。


 フランのそこそこある胸が、揉んでよとせがんでいる気がした。


 おやおや?

 いいんですかい?


 ええ、いいですとも。


 ほんじゃ、失礼して。


 もにゅ


 うひょー、やわらけー。


 って、んなことするかっ!


 妄想にセルフツッコミしながら、フランの肩を揺さぶる。


「おーい、起きろー」

「うーん……あと5分だけ寝る~……」

「アホ! 自宅じゃねぇんだぞ!」

「わかったわよぉ~。アキトー、おはようのキスは~?」

「こんな時まで!? 全くもう……ほら、チュー」

「ん~」


 あれ?

 俺たちって、今は魂だけのはずだよな?


 普通に唇の感触もあるし、手足も思い通りに動く。

 おかしなピッチリスーツを着てること以外、フランの外見はいつも通りだ。

 たぶん、俺も。


 こう言うもんなのか?

 魂だけになんてなったことないからわかんねぇや。


「んーと」


 俺は立ち上がって、グルリと周囲を見渡す。

 舗装道路に、林立するビル群。


 なんだか東京みたいだな。


 そうなのだ。

 一見すると地球の現代都市にしか見えない。

 いや、もう少し近未来だろうか。


 ただ地球と違うところは、荒廃していると言う点だ。


 ビルは崩れ、道路もひび割れている。

 思ったより瓦礫は少ないものの、人気ひとけはない。

 当然ながら、電気などのインフラも途絶えているようだ。


 まるで核戦争後の様相であった。


「わぁ、なんだか寂しい世界ね」

「だなぁ」


 ビル群の向こう。

 そこには空を貫くほどの巨大な円柱が屹立きつりつしている。


 あれが資料にあった塔か。

 あの最上部に、首謀者たるガイアーが待ち受けているのだ。


 こんな世界を作っちまうなんて、とんでもねぇ野郎だな。

 そういやアストレアさんが言ってたっけ。

 現実と遜色そんしょくがないほどのヴァーチャルリアリティな世界だと。


 確かにその通りだった。

 ここが現実空間なのか、ヴァーチャル空間なのか、全く判別がつかない。


「あっ、これ見てよアキト。手を前にかざすとウィンドウが出るわよ」

「おい、俺の疑問をあっさり解決すんなフラン。これで俺たちがシステム内に侵入したのは確実になったわけか……」


 俺も手をかざしてみる。

 おお、本当に出たぞ。


 口でウィンドウオープンとか言わなくていいのは助かる。

 あれはちょっと恥ずかしいからな。


 さて、目標地点も確認できたことだし、行きますかねぇ。


「おし、こんなところでグズグズしてるわけにもいかん。あの塔目指して出発しようか」

「おー! アキトとふたり旅~!」


 右も左もわからない世界で、俺たちは第一歩を踏み出すのであった。



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