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041 きみに決めた!


 とある日。


「アキトにフランシアよ」

「ん? なんだいマリー」


 相も変わらずソファでゴロゴロとタブレット端末をいじっているマリー。

 これで副神界長だってんだから、今後の行く末も案じられるよな。


 一応返事はしたものの、どうせまた構って欲しいだけだろ。

 フランに至っては、チラリと目を向けただけで返答すらしないし。

 だいぶマリーの扱いかたを心得こころえてきたようだな。


「わははは、カミッターを見るのじゃ。ドジな女神がまたドジったようじゃ」

「それってフランじゃないのか?」

「ぶっ! なんてこと言うの!? 違うわよ失礼ね! しかられてベソをかくのはミリィが担当なの!」

「わっははは、おぬしらは本当に良いコンビじゃのう。羨ましいくらいじゃ。そう言えば救済部はわらわの直轄となったからの」

「フランとなら漫才もできそうだから……って、ええええ!? 直轄ぅ!?」


 サラっと重大なことを言うんじゃない!

 心臓に悪いだろ!


「マリアベルさまが救済部を創設されたって話は本当なんですか?」

「えっ! そうなの!?」


 フランの言葉に二度驚く。

 聞いてねぇぞそんな話。


「うむ。本当じゃ。昔は子羊たちに聖女マリアなどと大層もてはやされたもんなのじゃー」

「へぇー。まぁ今もかわいいし納得できるな」

「えっ? アキトはわらわをかわいいと思っておるのか?」

「へ? 当たり前だろ?」

「そうかー。そうなのかー。にひひー」


 なんだかよくわからんが、やたらと嬉しそうなマリー。

 満足そうだからいいか。


「ロリコン」

「!?」


 ボソリと呟くフラン。

 違う、誤解だ!

 強くは否定できないが、誤解なんだ!


「ま、わらわの直属となったからと言っても、これまでと体制は変わらぬから安心するのじゃ」

「怖い人が上司じゃなくてよかったねアキト」

「全くだ。役員なんてマリーしか知らないもんなぁ。ま、これからもよろしくマリー」

「うむうむ。末永く、じゃの」

「「?」」


 言葉の意味が理解できずに首をかしげる俺とフラン。

 なんだよ末永くって。

 まるで嫁入りみたいだぞ。


 それはともかく、我が救済部が副神界長の直属となったのは悪くない出来事だ。

 かなりはくがつくからな。


 これでちったぁ他部署から融通を利かせてもらえるはずだ。

 かわいいし、権力もあるし、小っちゃいし、マリーは最高だな!

 あとかわいいし! そしてかわいいし!


「なぁ、マリー」


 俺はソファまで出向き、寝そべるマリーの前にひざまずいて、彼女の小さな頭を撫でた。


「な、なんじゃ、くすぐったい、くふっくふふっ」


 笑いながら身をよじらせるマリー。

 反応がいちいちかわいい。


 子猫を愛でるように、思い切ってマリーの背中をお尻のあたりまで撫でながら、俺はまさしく猫なで声で尋ねた。


「俺たちの給料をあげてもらえないかなぁー? な、いいだろう? ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ」

「うわぁ……まるっきり変態みたいよアキト……私の彼氏がロリコンになっちゃったんですけど……」


 うるさいぞフラン!

 俺はなぁ少しでもお前らを養っていけるようにと涙ぐましい努力を……

 だいたい、マリーはフランたちより年上のはずだろ!


「それはいくらアキトの頼みでも無理なのじゃ」


 キッパリと断られた!

 あれぇ?

 行けると思ったのに。


「経理部は専務の直轄なのじゃ」

「専務!?」


 もう完全に会社組織だこれ!


「あやつは昔からがめつい女神でのー。融通の利かなさもピカイチなのじゃ」

「そ、そうなんだ……」

「わらわも給料の面では常々(つねづね)心を痛めておるのじゃ。もっと皆の待遇を良くしてあげたいからの」

「なんて優しい子!」


 俺は思わずマリーを抱きしめてしまった。

 副神界長だろうが関係ない。

 こんなにいい子を抱きしめない理由があろうか、いや無い!


 一人反語を胸中で叫ぶ俺。


「ア、アキトや。抱くならもう少し優しく…………あっ」

「無理言ってごめんなマリー。さっきの発言は忘れてくれ」

「いや、給料のことは忘れちゃダメでしょ」


 冷静にツッコミを入れるフラン。

 おのれ。

 立派に成長したな。


「……アキト、アキトォ……すまぬ! わらわも我慢の限界じゃ! んちゅ~~~~~~!!」

「んんんんん!?」

「あぁぁーーーー!? なにをなさるんですかマリアベルさま!!」


 マリーは俺の両頬をガッチリ挟み、思い切り唇を押し付けてきた。

 混乱する俺。

 驚愕と怒りのフラン。


「いくら副神界長でもそれはダメですよ! は、な、れ、な、さ、い! ちょっとなにこれ!? 力がすごく強い!」


 フランはマリーの身体を全力で引っ張るが、まるで引きがせない様子。

 なぜならば、スッポンみたいにマリーの唇が俺の口に吸い付いたままだからだ!


 限界まで伸びきる俺の唇。

 もげるうううううう!

 そして何気に俺の吸気まで吸われて呼吸が出来ねぇ!


 ペンペンとフランの大きめで柔らかな尻を叩き、早くマリーをひっぺがせと催促さいそくする。


「やん、アキトのエッチ。そういうことは二人きりの時にして」


 そうじゃねぇよ!

 はよ助けろ!

 死んじゃうって!


 あれ?

 でも、マリーの唇からは、とても熱い想いが伝わってくる気がする。


 いやなんとなくな。

 神力の流れでそう感じるのかも。


「ただいま戻りまし…………あーー!? なにをやっているんですかアキトさん! 浮気は許しませんよ!」

「アキトさん~、わたしたちというものがありながら~! とっても不埒ふらちです~~~!!」


 げぇっ!

 なんつータイミングで戻って来たんだミリィにユエル!

 しかも浮気とか不埒ってなんだよ!

 どう見ても俺が襲われてる側だろ!

 そもそもミリィは以前、これと似たようなことしたよね!?


「アキト、アキトはいるかしら? ……なっ!?」


 そこへヒョインと転移してきたのは神事部長アストレアさんだ。

 これまた、なんと間の悪い。


「どう言うことですか副神界長!? 私のアキトになにをしているのです! あなたたちも早く引き剥がしなさい!」

「「「は、はい!」」」


 いま、アストレアさんは、私のアキトって言ったか……?

 嘘でしょ……?


 神力のないフランはともかく、他の三女神に全力を出されては、さすがの副神界長マリーも力負けをするしかなかったようだ。

 何分ぶりかに、新鮮な空気を思い切り吸い込む俺。

 いやー、空気の美味いこと!


 俺の肺が酸素を求めてあえぐなか、下手人げしゅにんのマリーはみんなに取り囲まれていた。

 一番カンカンなのは、なぜかアストレアさんだけどな。


「全く、救済部はいつからこんな破廉恥はれんちになったんですか! 副神界長も副神界長です! 最近執務をサボられてばかりいると秘書部の女神がなげいておりましたよ!」

「……だって、わらわもアキトのそばにいたかったんじゃもん……そう言うアストレアとて、しょっちゅうアキトに会いにここへ顔を出しておるくせに」

「なっ!? わわわ、私は、ただ業務連絡を……!」

「素直でないヤツじゃのう。おぬしもアキトにキスをしてもらうといいのじゃ」

「ええええ!? 私がアキトと……キキキキキスをですか!?」


 あのー。

 俺抜きで話を勝手に進めないでもらえませんかね。

 ってか、どもりすぎですよ。


 いやいや、そんな真っ赤な顔でチラチラと俺を見ないでくださいよアストレアさん。

 普段は毅然きぜんとしているのに、随分と純情なんですね。

 いや、だから、そんな上目遣いで見ないでくださいってば。

 フランたちの視線が痛いんです。


「ゴホン。横から失礼します。アストレア部長はなにか用事があったように見受けられたのですが」

「あ、ああ、そうでした」


 ナイスだミリィ!

 よくぞ話をらしてくれた!

 お前が賢さナンバーワンだ!


「次の出張業務のお知らせに来たのです」


 ついに来たか。

 三度目の出張業務が。


「今回の業務は同伴者を一人まで選べます。アキト、あなたが選びなさい」

「……はい」


 一人、か。

 ってことは、俺は必ず行かなきゃいかんのかよ。

 ……そういや救済部の部長は俺でしたね。


「俺が選んだのは……」


 フラン、ミリィ、ユエルがゴクリと生唾を飲み込む。

 なんでかマリーが己の顔を指差しているんだが、いったいなんのつもりだろうか。


 まさか選べってこと!?

 そんなわけにいくかっ!

 副神界長を連れて出張なんて行ったら、俺が周りから怒られるわ!


 アストレアさんも期待に満ちた目で見ないでください!

 神事部長も連れて行けません!


 フランか、ミリィか、それともユエルか。

 俺は悩んだ末に────


「決めた! 俺は彼女と行きます!」



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