040 新年早々大騒動
神界一斉休暇、つまりお正月休みもさらりと終わり、通常業務に戻った俺たち。
休んでいる間に山ほどの案件が溜まっていた。
なんでこんなに仕事があるんだよ。
ちくしょう。
こんなことならもっと休んでいたかったなぁ。
何気に楽しい正月だったからね。
おかしな話になるが、フランたち三女神を連れて神社へ初詣に行ったりしたんだ。
女神が日本の神様をお参りするってのは、実にシュールな光景だったろうよ。
おみくじを引いたら、俺以外が大吉だったのもある意味笑った。
さすがは女神。
日本の神様も異界の女神には気を使ったとお見受けする。
俺?
……俺のは凶だったよ?
かわいい女神を三人も連れていた俺に、神様は嫉妬してたのかもしれないな。
だからしつこいくらい『俺たちが幸せになりますように』って願掛けしてきたのさ。
これなら神様も無下にはできまい。
俺ってば策士~!
あとは、みんなで初売りに行ったね。
しこたま買い物する連中だから、俺の役目なんて荷物持ちに決まってる。
ラッキーだったのはフランがガラポン抽選会で景品を当てたことだ。
なんと、4等のトイレットペーパー半年分だぜ!
そんなもんかよと思うことなかれ。
消耗品ってのは意外とバカにならない経費なんだぞ。
薄給の俺にはどれだけありがたいことか。
愛してるぜフラン。
お前はよくやった。
そして残った休暇は……すみません。
ずっと四人でイチャイチャしてました。
おせち料理を食べたり、チュッチュしたり。
お雑煮を食べたり、チュッチュしたり。
ゴロゴロと正月番組を見ながら、チュッチュしたり。
……本当に、リア充ぶって、すみません。
そんなこんなで、仕事が始まってからもしばらく正月気分が抜けないわけです。
「の~じゃ~、の~じゃ~、ののの~」
「フラン、ハサミを取っておくれ」
「はーい。そうだ、ついでにお茶を淹れてくるわね」
「おう、サンキュ」
「のじゃ~、の~、じゃ~」
「アキトさん。書類の角にパンチで穴を開けたほうがファイルにまとめやすくなると思います」
「なるほど、ミリィは賢いな。パンチ器はあるからそれで頼むよ」
「ふふ、お任せください」
「の~、の~、じゃ~、の~」
「ユエル、残っている食材と調味料のリストはどうだ?」
「もうすぐできます~」
「そうか、焦らなくていいからな」
「はい~」
「の~じゃ~………………ええい! アキトよ! わらわも構ってほしいのじゃ!」
すまん。
さっきから変な鼻歌を歌っていたのは、マリアベル副神界長さまだ。
休暇明けからこっち、毎日のように救済部へ居座っている。
しかもずっとソファに寝っ転がって、タブレット端末をいじってるだけ。
上の女神ってのは、どんだけ暇なんだよ。
こっちは忙しいし、見てるとかわいいからほっといたんだが、まさかこの状況で構えと駄々をこねるなんて。
「マリアベルさま。見ておわかりの通り、我々は非常に忙しいのです」
「さまはいらぬと言うておろう。マリーと愛称で呼ぶのじゃ」
「ぐ、上役に愛称とは、なかなかにハードルが高いですな」
「敬語もいらぬ。今後違反したら減給にするのじゃ」
「ご無体な!?」
権力を笠に着るとは!
しかもただでさえ少ない俺の給料を減給だなんて!
「くぉぉ……わかりまし……わかったよマリー」
「うむ! それでよいのじゃ!」
至極満足そうに微笑むマリアベルさま……いや、マリー。
うーむ、もしかしたらマリーは寂しくてここに来ているのかな。
中身はともかく、見た目はこんなに幼いんだもん。
なら俺たちくらいは構ってあげなきゃな。
……副神界長と太いパイプを繋げておくのは将来的にも有益だ、なんて決して考えてないよ!
ぐへへ。
「はい、お茶ですよー。クッキーもありますからねー」
「わーい! フランシアのお茶なのじゃー! アキト、アキト、一休みするのじゃ」
「はいはい、みんな、お茶にしよう」
「休憩には丁度いい頃合いですね」
「喉も乾きましたし~」
ドヤドヤと集まる面々。
部長室には何脚ものソファと大きなテーブルがある。
もちろん来客の応接用だがね。
最近じゃマリーが大抵占拠してるけどな。
「ううーん! フランシアのお茶は絶品じゃのー!」
「えへへー」
上役に褒められ、ご満悦のフラン。
いい笑顔ですね。
俺も全面的に同意するけど。
「このくっきぃとやらも美味じゃのー」
「それはわたしがアキトさんに教わって焼いてみました~」
「ほうほう、さすがは食堂課課長のユエルじゃ」
「うふふ~」
「ユエルは筋がいいから教え甲斐があるよ」
「ホントですか~? うれしいです~」
談笑する憩いのひと時。
そんな和やかな時間は、唐突に終わりを告げた。
ピンポロパンポロピロパロピンピピピピピピピ
無茶苦茶なチャイムが広い執務室を支配する。
この慌てよう、只事ではない。
てか広報部の女神はまず落ち着け。
チャイムを連打すんな。
そしてその女神の、とんでもなく上ずった声が、これまたとんでもないことを言い出した。
「き、緊急警報! 及び緊急連絡! 魔界急速接近中! 防衛部は全員出動! 役員のかたがたには緊急招集が発令されております! 繰り返します……!」
途端にスックと立ち上がるマリー。
その顔はいつものふにゃんとした表情は消え失せて、ひどく険しい。
もうそれだけで、なにか大変なことが起きたのだとわかってしまう。
「すまぬな、アキト。わらわは行かねばならぬ。皆はここでしばし待機しておるのじゃぞ」
そう言い残してマリーはどこかへ転移していった。
俺が返事をするのも待たずに。
「これはどう言うことなんだフラン?」
「私にもわからないわよー! こんなの初めてだもん!」
ブンブン両手を振って否定するフラン。
ミリィとユエルを見るが、二人とも顔を横に振った。
「ともかく、マリーはここで待機と言っていた。それに従うしかあるまい」
「うん、私も賛成」
「そういたしましょう。状況もわからずに動くのは下策です」
「わたし、なんだか怖くなってきちゃいました~……」
俺は三人をそばに座らせる。
これで少しでもみんなの恐怖が薄まればいいけど。
だが、神界中が慌ただしくなる気配をひしひしと感じた。
やはり逼迫した事態なのだろうか。
「魔界についてなにか知ってるか?」
「最後に魔界が大接近をしたのは、我々が降臨する遥か前です。なので、残された資料の知識しかありません」
ミリィはいつもと変わらぬ無表情で淡々と答える。
今はそれが少しだけ頼もしい。
「それでいい。聞かせてくれないかな」
「はい。数百年前の小接近とは違い、さらに太古の大接近では、多大な被害が出たと記されています。ただ、どんな被害だったのかまではわかりません」
「おいおい、マジかよ……ゴクリ」
「アキト、私怖い……」
「わたしもです~」
「おう、よしよし。しっかり抱いててやるからな」
フランとユエルの肩を抱きしめた時。
ズズズズン
超質量の物体が落ちたような振動と地響きが。
「「「ひいぃぃ!」」」
「大丈夫、大丈夫だ」
俺はむしろ、自分に言い聞かせるように繰り返した。
ぶっちゃけ俺だって怖いわ!
ピンポンパンポーン
「緊急警報は解除されました。各女神は通常業務へお戻りください。なお、解析部の女神は至急……」
「へ?」
「もう?」
「結局なんだったのです?」
「さっぱりですねぇ~」
ハテナマークを山ほど浮かべる俺たち。
そこへ。
「ふぅ」
小さな溜息とともにマリーが転移してきた。
当り前のように俺の膝の上へな。
「マリー、お帰りなさ……お帰り。いったいなにがあったんだ?」
「それがのー。魔界のやつらめ、巨大な円柱を撃ち込んで来たのじゃ」
「「「「えええ!?」」」
それって大事件じゃないの!?
「しかもその柱には『謹賀新年 謹んで新春の御喜びを申し上げます』と書かれておったのじゃ。それもやたら達筆での」
「年賀状!? 無駄に律儀!!」
なに考えてんだ魔界ってのは!
そもそも日本みたいな風習がなんで魔界にあるんだよ!
だいたいそんなもんを予告なく撃ち込んでくるなんて、バカじゃねぇのか!
死人が出たらどうすんだっての!
「損害は皆無じゃが、少し気になる点があっての」
「はぁ」
「柱のあちこちに謎の紋が刻まれておったのじゃ。詳細は不明じゃがの」
「「「「!?」」」」
「今、解析部が調べておるところじゃ。何事もなければよいがのう」
そう言いながらシュルリと冷めてしまったお茶を飲むマリー。
俺はマリーの頭を撫でながら、この神界に不穏な空気が流れるのを感じ取らずにはいられなかったのである。




