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038 副神界長降臨!


 怒涛の歳末仕事追い込みフェアを乗り切り、あっと言う間に大晦日おおみそかを迎えた。


 前日の30日から休暇に入ってはいたのだが、残務処理に追われ料理の仕込みどころではなかったのである。

 それがすっげぇ悔しい。

 あれこれ考えていた俺のパーティーメニューは全て霧散しちまった。


 っつーわけで、夜までになんとかせねばならんのです。


 ま、今回はお偉方が試食にくるわけでもないし気楽だ。

 身内の集まりだと思えば、それほどった料理も必要なかろう。


 なんせ時間もないしな。


「さて、君たち。なにが食べたい?」


 厨房に集結した三人の愛する女神たちをグルリと眺める。


「はーい! 焼き鳥ー!」


 ピンクのエプロンをつけたフランが勢いよく手をあげた。

 うむ、元気でよろしい。


「って、また焼き鳥かよ! オッサンか!」

「だって美味しいんだもんー!」

「私は……そうですね、このグラタンと言うものを食べてみたいです」


 そう言ったのは青いエプロン姿のミリィだ。

 今日は銀髪をツインテからポニーテールにしている。

 彼女が示すタブレット端末の画面には、様々な料理のレシピと写真が並んでいた。


「ん、グラタンか。悪くないな。でもお前が指さしてるのはドリアだからね」

「!? パッと見は同じじゃないですか!」


「ユエルは?」

「そうですねぇ~」


 顎に手を当て、ムムムとうなっている割烹着のユエル。

 眉間みけんしわを寄せているあたり、本気で思案しているようだ。

 真剣さよりもかわいらしさのほうが際立つがね。


「う~ん、シュウマイかギョウザ、ですかねぇ~?」

「なんで疑問形なんだよ。要は中華ね……ん?」


 ちょっと待て。

 和洋中全部かよ。

 てんでバラバラじゃねぇか。


 びっくりするぐらいまとまりがないな。

 まぁ、オードブルみたいなもんだから問題はないだろうが。


「三品じゃちょっと寂しい気がするな。もうちょい俺のほうでなにか作ろう」

「わーい!」

「楽しみです」

「夜が待ち遠しいですねぇ~」


 きゃいきゃい始める三人娘。

 うーん、華やかですなぁ。


 てかね、最近気づいたんだけどさ。

 料理男子って、世の中ではモテる要素のひとつだったらしいじゃないか。

 くそう、俺も女子にアピールしておけばよかった。

 そうすればもっと青春を謳歌おうかできたはずなのに。

 しくじったわー。

 こんなこと、フランたちには言えないけどな。


「ほんじゃ、始めようか。各自調理開始! わからんことはなんでも聞いてくれよ」

「「「はーい!」」」


 俺の料理をずっと見てきた三人だ。

 そろそろ下ごしらえくらいは任せても問題あるまい。


 俺も作業を始めつつ、ある隠し玉の準備もする。



 調理開始から数時間。


 作業は大詰めを迎えていた。


「よし、予熱はしてあるから、この耐熱皿をオーブンに入れてくれ」

「はい、お任せを」


 たっぷりとグラタンの具材が入った、数十センチはある巨大な皿を軽々と運ぶミリィ。

 それをいっぺんによっつもだぞ?

 なんて頼もしいマッチョなんだ。


「むっ、今なにか失敬な思考波を感じました」


 なんでバレたの!?

 恐ろしい子……!


「あちちち、あっつーい!」

「フラン、炭火で火傷しないように注意な」

「うん、あちち」


 どうしても炭火で焼き鳥を作りたいと言うフラン。

 まさかそこまでこだわるとは。


 おぼつかない手つきでタレをつけては焼きを繰り返している。

 それでもその背中は職人気質に満ちていた。

 立派な焼き鳥屋になるがいいさ。


「おお、ユエル。上手に焼けてるじゃないか」

「えへへへへ~」


 円形に並べたギョウザを焼きあげているユエル。

 仕上げのごま油がとてもいい香りを放っていた。


 ギョウザに関しては一家言持ちの俺。

 なので、タネにはかなりの食材を入れてある。


 ニラ、豚挽き肉、キャベツ、白菜、シイタケ、タケノコ、ショウガ、ニンニク。

 そこへオイスターソースや鶏ガラダシなどで味付けするのだ。

 これがまた美味いんだよ。


 おっと、俺の料理も仕上げないとな。


 黒コショウを効かせたポテトサラダ。

 鶏肉を薄く伸ばし、チーズと大葉を巻き、衣をつけて揚げたチーズささみフライ。

 有頭エビのグリル。

 単に俺が食べたかったから作った、煮物。

 フライドポテト。

 じっくりとタレに付け込んだ特製から揚げ。

 野菜たっぷりのスープ。

 などなど。


「あ、そろそろ時間よアキト」

「あいよ、テーブルに運ぼう」

「了解です」

「は~い」


 いくつか並べたテーブルに料理を置く。

 配置や料理のいろどりも考えてな。


 よーし、なんとか間に合ったな。



「ハァイ、フラン、アキトさん」


 そこへヒョインと転移してきた人物。

 運命部のテレーゼさんだ。

 なるほど、確かに以前お世話になったな。


 彼女を皮切りに、次々と女神たちが転移してくる。


「アキト、招いてくれてありがとう」


 おお!?

 すっごい美女! と思ったら黒髪をおろしたアストレアさんじゃないですか!

 眼鏡もかけてないし、ワンピース姿では誰だかわかりませんよ。

 あっ、左目に泣き黒子ぼくろがあったんですね!


 それよりも。

 フラン、ミリィ、ユエル!

 何人呼んだんだ!?

 どう見ても十人以上いるぞ!


「アキト部長。私まで読んでいただけるなんてうれしいです!」


 このモジャモジャ髪でグルグル眼鏡に、萌えそでの子は……

 ああ!

 総務部の!


 ……呼んだのは絶対ミリィだな。

 あいつめ、なんて計算高いんだ。

 恩を売っておけば今後有利になりそうな女神を招待するなんて……


「さ、アキト。乾杯の音頭を取って」


 フランが俺にビール入りのコップを手渡してきた。


「俺かよ。主催はお前だろ?」

「いいからいいから」

「しょうがねぇなぁ。ゴホン。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。日頃の感謝を込めて、ささやかながら料理をご用意いたしました! 今夜は飲んで食べて、楽しんでいってください! では、乾杯!」

「「「「かんぱーーい!」」」


 ワッと歓声が上がる。

 うーん、なかなかいい気分。

 俺はよっこらしょと爺さんみたいに椅子へ腰かけ、酒や料理をつまみつつみんなの様子を見守った。


「んーーー! これなんて言う料理!? ギョウザ!? いけない、いけないわ! 何個でも食べちゃう!」

「この焼き鳥ってやつすっごい美味しいんですけど! ねぇフラン、本当にあなたが作ったの!? 嘘でしょ!?」

「グラタンって言うんですかこれ!? とってもクリーミー! 私、とろけちゃう……!」

「アキト部長って意外とかわいい顔してますよね」

「煮てある食べ物美味しいわ……なんでかしら。とっても懐かしい味がするの!」

「から揚げおかわりー! 大盛ね! あとなんだっけそれ、ポテチョシャラダだっけ? それもとって!」

「誰かとめてー! 手が勝手にお料理を口に入れようとするのー!」


 忘年会じゃなく阿鼻叫喚あびきょうかんの様相をていしてきた。

 これでは女神ってよりも、まるで地獄の餓鬼ガキだ……


「ガツガツガガガガガツガツガツ!」


 ちょ、ものすごい形相でガッついてるのはアストレアさんじゃねぇか。

 周りの喧騒にめげることなく、一心不乱に食いまくってる。

 普段とのギャップがすっげぇな。

 新メニューお披露目の時もこんな感じで食ってたのかねぇ。


 ま、みんな喜んでくれてるみたいだしいいか。

 この顔を見るのが料理人の醍醐味だいごみってもんよ。

 俺は料理人じゃないけど。


「うむうむ、アキトの料理はほんに美味なのじゃー! わらわも大好きじゃぞ!」

「ははは、そいつはありがとう…………って、うわぁ! 誰!?」


 いつの間にか俺の膝の上に誰かが座ってる!

 ふわふわとウェーブのかかった金髪に、ピンクのフリフリドレスを着た小さな女の子!

 その子がさも美味そうに料理をつついていた。


「うげっ!? 副社ちょ……いえ、副神界長!」


 アストレアさんがうげって言った!?

 しかも副社長って言おうとしたでしょ!?


 ……え?


 副神界長!?

 こんなちんまい子が!?

 嘘ぉ!?



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