036 聖なる夜に
そして早くも決戦の日。
クリスマスイブを迎えた。
今日も今日とてクソ寒い。
天気予報によれば、この冷え込みは放射冷却によるものだそうだ。
そんで今夜は快晴らしい。
ちっ。
雪でもふってくれりゃ、すっげぇ雰囲気出るのにな。
まぁいい。
こちらの仕込みは上々だ。
この日のために、こっそりと準備してきたのさ。
一緒に暮らすフランに気付かれないよう、大変な努力をしながらだよ。
あ、言っておきますけど、別に聖なる夜を【性なる夜】にする気はありませんからね!
……たぶん。
「なにソワソワしてるのよアキト」
「ふぁっ!?」
気付けば俺の顔を覗き込んでいるフランのドアップ。
あっ、いい匂い。
おかしい。
俺と同じシャンプー、同じコンディショナーを使っているはずなのに、フランからは何故こうもいい香りがするのか。
「いや、別になんもないよ? ははは」
「……ふーん。どうせ私以外の子でも思い出していたんでしょ」
プインとそっぽを向き、書類整理に戻るフラン。
おやおや、嫉妬ですか。
かわいいやつめ。
「なに言ってんだフラン。俺ほどお前を好きな男はこの世にいないぞ」
「……ほんと? えへへー、うれしい!」
あれっ?
こいつ、こんなにチョロかったっけ?
なーんか最近変なんだよな。
俺じゃないぞ。
フランがね。
なんて言えばいいんだろ。
アホに磨きがかかったと言うか……
精神年齢が退行していると言うか……
「アキトー、お茶を淹れるねー」
「あ、ああ、頼むよ」
給湯室へ姿を消すフラン。
あらかじめ準備してたのかと思うくらいの速さでティーセットとともに戻ってくる。
そして、異様なほど手際よく紅茶を淹れるのだ。
部長室に茶葉のいい香りが立ち込める。
「はい、どーぞ」
「ありがとうな」
ビクンビクン
ほれこの通り。
一口飲めば、全身が痙攣するほど美味い!
こんな特技、以前はなかったと思うんだが。
しかも、フランの奥義はこんなもんじゃない。
緑茶だろうがウーロン茶だろうが、茶と付くものならなんでも至高の味わいとなるのである。
試しにコーヒーを淹れさせたら、とんでもなく普通の味で笑ったけどね。
どうやら効果範囲はお茶限定らしい。
それもこれも、異界の俺たちを二度目に救ってからだった。
フランはあっちのフランに乗り移ったりしてたし、その影響でもあるのかもしれないと俺は勝手に推測している。
ま、たいした影響もなさそうだからいいよな。
おっと、もうこんな時間かよ。
「フラン、すまんが俺は早退する」
「へ? なんでなんでー!?」
「教授のとこに用事があってな。仕事が終わったら、ミリィとユエルに俺の部屋まで送ってもらうんだぞ。いいか、ミリィとユエルの二人に、だ」
「? うん、わかった」
オッケー。
これでいい。
部長権限てのはこんなとき便利だねぇ。
「じゃあ、後は頼んだぞ」
「うん、お疲れ様ー!」
笑顔で手を振るフランに見送られ、俺は我が家へ転移した。
我が家ったって、賃貸だけどな。
さて、ここからが本番。
当然だが、教授が云々(うんぬん)の話は嘘である。
いや、嘘までは行かないか。
レポートの提出に出向くのは本当だし。
それ、ダッシュだ。
俺は部屋を飛び出し、速攻でレポートを出したあと、商店街へ向かった。
クリスマスプレゼントでも買うのかって?
甘いな。
それはもう用意してある。
俺の目的地はここだ!
ケン〇ッキーフライドチキン!
怪しげな姿のおっさん人形が、やたら笑顔で店先に立っているあそこだ。
当然買うのはフライドチキン。
自分で作ればいいじゃん、と思うだろうが、あの味は何度試しても再現できなかったんだ。
似通った風味は出せるんだがなぁ。
なので俺は素直に店で買うことにしている。
やっぱクリスマスにはこれがないとね。
そんでもって部屋へとんぼ返り。
野郎どもと【煉獄クリスマス】を開催した時には、するはずもなかった部屋の飾りつけ。
今年は一味違うぜ。
予算の都合上、小さめだがそれなりにかわいらしいクリスマスツリーを据える。
壁も、赤や緑の電飾付きモールで飾り立てた。
いいね。
それっぽくなってたぞ。
よし、次は料理だ。
俺はエプロンを付けながらキッチンへ。
ケーキは概ね完成している。
それを冷蔵庫から取り出し、泡立てたホイップクリームと苺、アラザンなどで飾り付けた。
よしよし。
フランはいっぱい食べるから特大だ。
たんと食うがいい。
あとは大皿に乗せるオードブルだな。
まず、皿一面にサニーレタスを敷く。
これは食べるというより、配色のためだ。
まぁ、フランなら食っちゃうだろうけど。
そこへ、これも事前に作り置きしておいた料理を温め直して盛るわけよ。
肉団子、海老のチリソース、フライドポテトに、フランの大好きな焼き鳥。
ミリィの好きなハンバーグと、ユエルの好物シシャモ。
……シシャモってなんかマニアックだな。
しかもね、ラインナップがどれも酒のつまみなんだよ。
でも、あいつらの好物がこれらなんだから仕方ない。
さすがに仕事しながらだと俺も凝った料理はできないがな。
テーブルに洒落たクロスをかけ、そこに料理とケーキを並べる。
ケン〇ッキーも忘れてないぞ。
おっしゃ、準備完了。
いつでもこい!
部屋の照明を少し落とし、ツリーとモールのLEDライトをオン!
ムード満点、に見えるといいなぁ。
「ただいまアキトー! あー、疲れたー」
「ただいまです。フラン先輩をお連れしましたよアキトさん」
「ただいま帰りました~! あれ~? なんだか暗いですね~」
パンッパンッ
「「「きゃあ!」」」
「ホー、ホー、ホウ! メリークリスマース!」
俺はクラッカーを鳴らしながら、サンタクロースのコスプレで登場する。
だが、三人娘は身構えて俺を睨みつけていた。
あれっ!?
俺ですよ!?
「なにやつ!? まさか泥棒!?」
「俺だよ! アホ! なんでちょっとコスプレしたくらいでわかんなくなるんだ!」
「なんだ、アキトか。びっくりしたー」
「びっくりしたのはこっちだ! いきなり殺気立つんじゃない!」
「で、アキトさん。これはいったいなんなんです?」
「不思議な雰囲気ですね~」
そこから説明がいるの!?
「これはまぁ、簡単に言えば地球の聖人が誕生した日を祝うパーティーだ。この日は大いに飲んで大いに食べる」
「わー! 日本ってすごいのねー!」
「とてもいい風習じゃないですか。飲み放題、食べ放題だなんて」
「ですね~、とっても楽しそうです~」
パッと歓喜に満ちる三人娘。
食い気しかないんかい。
しかも、厳密に言えば日本の風習じゃないし。
「そして、恋人同士にとっても特別な日でな、大切な人へ贈り物をするんだ」
「えっ……?」
「アキトさん……」
「どう言うことです~?」
俺はみっつの小箱を取り出した。
一人一人にそれを手渡す。
「愛する女神たちへクリスマスプレゼントだよ。安物で悪いけど」
「開けていいの?」
「うん、もちろんさ」
三人は嬉しそうに開封していく。
この瞬間を見るのはいいもんだね。
「わぁー、きれーい!」
「素敵です……」
「本当にいいんですか~?」
みんなの手元でキラリと光る小さな輪。
そう、俺が選んだのは指輪だ。
安月給なもんで、たいした金額の物ではないが一応純金だぞ。
事前に手を握る振りをして、全員の指のサイズを測っていたのは内緒な。
「……本当にきれい……」
「こんなに私の心が揺り動かされるなんて……」
「……ひっく、グスッ、なんでか見ているだけで涙が出ちゃいます~」
俺は何も言ってないのに、みんなは左手の薬指に指輪をはめてくれた。
左手を上に掲げて、ためつすがめつしている。
なんだかそれが無性に嬉しく感じたのだ。
「私、こんなに幸せでいいのかな……アキト、愛してるわ」
「アキトさん、私もあなたを愛せて幸せです」
「わたしもでずぅ~、あーん、あーん、アギドざん、あいじでまず~」
「はははは、喜んでくれてうれしいよ。俺も愛してる」
俺は三人をまとめて抱きしめた。
すると、女神たちから三柱の光が立ち昇る。
それは、聖夜の空に吸い込まれ、雪となって街へ舞い降りたのであった。
メリークリスマス!




