035 年末と言えば煉獄クリスマスですよね
チチチ チュンチュン
朝。
朝か。
気だるい朝。
毎度のことだがこのまま寝ていたい。
すぐ近くにはあたたかなフランの体温。
誰かと一緒に寝るのがこんなに気持ちいいなんてな。
あ、別に朝チュンじゃありません。
普通に俺の部屋で寝てるだけです。
まだ動くにはちょっとだけ早い時間。
癖になっているのか、大抵は目覚ましより先に起きてしまう。
ま、もう少しまどろむかね。
こうしていい匂いのするフランの銀髪に顔を埋めて…………んん?
フランは金髪じゃなかったか?
「おわぁ!!」
よく見れば俺が抱いていたのはミリィじゃねぇか!
銀髪をおろした姿もかわいいな、じゃなくて、いつの間に潜り込んだんだ!?
うわ!
しかもフランは簀巻きにされてベッドの下に転がってる!
ひどい!
それでもスヤスヤ寝てるし!
このアホー!
待て待て待てい!
そもそもなんでミリィは全裸なの!?
俺は服を着てるのに!
「おはようございます、あなた」
「誰があなただっ」
混乱の極みにいる俺へ、さも正妻でございとばかりにニッコリ微笑むミリイ。
何さまなの!?
いや、女神さまだけども!
「ってか、なにやってんだお前!」
「あん、昨夜はあんなに激しく私を抱いたくせに、覚えてないんですか?」
「嘘こけぇ! フランともまだしてないんだぞ!」
「そうでしたか。それを聞けて安心しました」
「くっ!」
こいつ。
またしても誘導尋問を!
引っかかる俺も俺だがな。
「では、モーニングキッスを。ちゅっ」
「なにが、では、なんだかわからん……」
とは言いつつも、ミリィの柔らかな唇に負けてしまう。
悲しい男の性ですな。
「ともかく服を着てくれ。それじゃ寒いだろ」
「こんなに魅力的な私が裸でいると言うのに、アキトさんは無反応……もしかして不能者なのでは?」
「んなわけあるかっ! 我慢してるだけだ!」
「なるほど、そうでしたか。それは朗報です」
ミリィはやることが意外と大胆で困る。
俺だって今すぐその小さい胸に吸い付きたいわ。
でも、そこでフランが寝てるってのにエッチなことができるはずもなかろう。
布団の中で器用に下着を着けているミリィを残し、俺は部屋の暖房を入れるためにベッドから出た。
ついでに簀巻きのフランを抱きあげてベッドへ寝かせ、縄を解いてやる。
うわ、これほどガッチリ縛らなくてもいいだろうに。
「あー、お姫様だっこはズルいですよ」
「フランにこんなことした犯人が言う言葉じゃねぇな……まぁ、もう少し寝てろ。朝メシ作ってやるから」
「はい、もとよりそれが狙いですから」
なんて子なの!?
だけど結局かわいいから許しちゃうのも男の悲しい性なのです。
「さて、三人前か」
冷蔵庫を探り、分厚いベーコンと卵を取り出す。
一応言っておくけど、俺ってば朝メシは洋食派なんだよ。
ベーコンを細かく刻み、フライパンでカリカリになるまで炒める。
そこへ溶いた卵を流し込み、フライパンの柄を叩きながら成形していくのだ。
もうわかったろう。
うん、ベーコンオムレツだね。
そいつを皿に盛り、彩りに野菜を添える。
はい、完成。
あとは、と。
バケット、いわゆるフランスパンを薄めに切り、バターとマスタードを塗る。
軽く塩コショウしてからチーズをのせてオーブンへ。
チーズに焼き目がついたら出来上がり。
お手軽チーズトーストだ。
俺はコーヒーを淹れながら声をかける。
「おーい、朝ごはんできたぞー。起きろフランー」
「んー……ちゅーしてくれたら起きるー……」
フランの寝起きが悪いのも毎度のことだ。
楽しいことがあるときはスパッと起きるのにな。
「起きないとお前のぶんもミリィが食べちゃうってよー」
「……食べるぅー……ん? なんでミリィがここにいるのー」
「アキトさんのご飯が私を呼んだからです」
「こら、適当なこというな」
もぞもぞと這い出てくるフラン。
「うー、今日も冷えるわね」
どこから出して来たのか、半纏を着こむフラン。
お前はお婆ちゃんか。
「もう年末だしなぁ」
コポコポとフランたちのカップへコーヒーをそそぐ。
「わー、美味しそうー。いただきまーす」
「いただきます、ジュルリ」
「召し上がれ」
サクリとバケットを噛む。
うむ、シンプルだが美味い。
「オムレツ美味しいねー! ふわふわなのにカリカリー」
「いやもう、全くです。冷静な私のもぐもぐ、判断力をもふもふ、ここまで削ぐなんてもごもご」
ご満足いただけたようでなにより。
「年末と言えば、もうすぐクリスマスとかなんだけど、神界って祝ったりするのか?」
「クリスマス? ああー、知ってる知ってる。おいしいんだよねあれ」
「そんなにおいしいのですか? 私も食べてみたいです」
「食いもんじゃねぇよ。あー、クリスマスってのはキリスト教のお祭りだもんな、神界にゃ関係ないか。じゃあ年末はどうしてんだ? カウントダウンとかしないの?」
キョトンとしっぱなしの二人。
どうやらそう言った慣習はないようだ。
「世界によって新年はマチマチだからねー」
「ですね。地球で言う一年が10倍かかる世界もありますし」
「そういやそうだわなー」
ここの一年ってのは、地球が太陽の周りを一周した時間が基準だからな。
公転周期が長いほど一年も長くなるわけだ。
「でも、もうすぐ神界全体休暇よね」
「もうそんな時期ですか」
「ん? そんなもんあるの?」
初耳だ。
「うん。地球で言えばだいたいこのくらいの時期にね」
「普通に年末休暇だろそれ。ホントにわけわかんねぇな神界は」
「ま、大抵は寝てるだけで終わっちゃうんだけど」
「女神ってのは切ない休暇を過ごしてるんだな……寝正月かよ」
もったいない。
正月なんて楽しいことだらけなのに。
俺は割と季節の風物詩を大事にするほうだ。
毎年きちんと初詣にも行くし。
おみくじも楽しみにしてる。
大晦日には年越しそばを食べ、除夜の鐘もちゃんと聞く。
去年はツレたちと鐘を撞きに行ったっけな。
……酔っ払った勢いで。
え?
クリスマス?
……毎年シングルベルを送っていた俺になにか?
ジングルじゃない、シングルだぞ。
自作のケーキと料理で野郎どもと寂しいイブを過ごすのが通例に決まってんだろ。
愚痴と妬み、そして怨念あふれるメリークリスマス。
まさに地獄の催しだ。
俺たちはこれを【煉獄クリスマス】と呼んでいる。
まぁ、今年はちょっとだけ楽しみにしてるんだけどね。
誰にも言っていないが、実は色々と画策してたりするんだ。
なんせ恋人ができて初めての年末だ。
男としてはかなり気合が入るってもんよ。
ふっふっふっふ。
俺はバケットを咀嚼しながら、Xデーへ向けての計画を練るのであった。




