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034 定番だからこそ


「お邪魔しまーす」

「わぁー、新メニューだってー」

「お腹すいたー」

「新メニュー、行ってみる?」


 続々と食堂へ転移してくる女神たち。

 いやぁ、さすが女神だよ。

 そろいもそろってお美しいですこと。


「注文お願いしまーす」

「こっちもー」

「はいはーい、ただいまうかがいまーす!」

「ご注文をどうぞ。おすすめですか? 勿論、新メニューです」


 フランとミリィが元気に動き出した。

 素早く注文を取る姿もすっかり板についている。


「よーし、ユエル。こっちも気合を入れようか」

「は~い! がんばるぞ~い!」


 フンと鼻息も荒く踏ん張るユエル。

 ちっちゃくてかわいい。


「アキトー! 注文入りまーす! 新メニュー6、おにぎり2!」

「あいよっ!」

「注文入ります。新メニューが5、焼鮭が1です」

「おうさ!」


 俺は高速で動き出した。

 体内で少しだけ神力を励起させる。

 これで手足にかかる負担の7割をカバーするのだ。


 最近はだいぶ神力の扱いにも慣れてきた。

 最初はちょっと無理すると、すぐ筋肉痛になったもんだがな。


 それが今では、ほぼ全力に近いところまで本気を出しても肉体に弊害は出ない

 過酷な出張業務も、心身が鍛えられたと考えれば無意味ではなかったわけだ。


「おにぎり2、新メ6あがったよ!」

「はーい!」


 この通り。

 余計なことを思考しつつも、身体は料理を作ってる。


 神力がなかったらこんな芸当はとてもできまい。

 大食堂をたった四人でやるなんてな。

 本来ならホールに5人、厨房に4人は欲しいところだぞ。


「お待たせしましたー! 新メニューのうどんですー!」

「うどんって言うんだ? へー、いい香りね!」


 丼から立ち上る香気を楽しむ女神の一人。

 なんだか幸せそうでこっちも嬉しくなる。


 そう、俺が考案した新メニューは定番中の定番である、うどんだ!


 だが、ただのうどんとあなどるなかれ。

 スープは例の昆布ダシとアゴダシのブレンド。

 そこに薄口醤油と白醤油を加えた特製なのだ。


「んー!! スープがすっごく美味しい! 信じられないわ!」

「麺も食べてみてー! とっても美味しいんだよ! ……私までお腹がいてきちゃった……」


 フランの言葉に懐疑的な女神だったが、チュルルンと麺を一本すすった。

 そしてもむもむと噛む。


「!!!」


 途端に目を剥く女神。


「なにこれ!? モッチモチ! それなのになめらか! 美味しすぎるじゃないのフラン!」

「でしょー? エッヘン!」


 なんでフランが偉そうに胸をらすのかわからん。

 だけど、つかみはバッチリだ!


 なんせこだわりのめんだからな。

 へっへっへ、こいつはなぁ、俺たち全員で踏みに踏みまくった手打ちうどんだ!

 生地にビニールシートをかぶせて踏むと、コシがとんでもなく強くなるのさ。


 それを一人前ずつ小分けにして、大量に冷凍ストックしておくんだ。

 これなら湯がくだけですぐに提供できるわけよ。

 簡便化の一環だが、うまくいったようだ。


 あとは少し煮込んだ白ネギと、小口切りにした生の青ネギを入れれば、特製かけうどんの完成!


「おいしいいい!」

「んんんんん! んんんん!? んんんん!!」

「ヤバい! ヤバすぎるわこれ!」

「みんなも絶対食べたほうがいいってば!」


 飛び交う歓声と注文の嵐。

 いいぞいいぞ!


「あのー、このメニューに書いてあるトッピング選べますってのはなんですぅ?」

「ああ、それは天ぷらかたぬきうどんですね。どちらも美味しいですよ」

「天ぷら? たぬき?」


 ミリィに言われた意味がわからず、混乱している様子の女神。


「じゃあ天ぷらうどんをひとつ」

「かしこまりました。天ぷら入ります!」


 きたか!

 これが最大の隠し玉。

 天ぷらと天かすのトッピングである。


 しかも車海老くるまえびの天ぷらだ!


 かき揚げも考えたんだが仕込みと調理の複雑さから、俺はもっと単純な海老天を選んだのだ。

 だが、こっちも侮るなよ。

 天ぷら店と同じく銅鍋にごま油を並々と張り、からりと揚げる本格派だ。

 そのままでも充分売り物として出せるレベルに仕上げてある。


 しかもその時に出る天かすをたぬきうどんに転用する抜かりなさ。


 いやぁ、自分で自分が天才なんじゃないかと思うね。

 ……ごめんなさい。

 調子に乗りました。


「どうぞ、天ぷらうどんです」

「わぁぁ……大きいのねぇ。いただきます」


 つい反応が気になり、調理の手を止めずに女神を見てしまう俺。

 わかってくれよ、俺の気持ち。


「うーん! サックサク!!! 中身はプリップリ!!! 嘘でしょ!? なんなのよこの美味しさ!!」

「「エッヘン!」」


 ドヤ顔でふんぞり返るフランとミリィ。

 だからなんでお前らが偉そうなんだよ。

 いいから働け!


「ごくっ……もうダメ、あたしも天ぷら!!」

「わたしもぉぉぉ!」

「こっちは天ぷらふたつとたぬきみっつね!」

「はいはいはーい!」

「かしこまりました」


 うおお。

 一気にきたな。


「ユエル、そっちは大丈夫か!?」

「はい~、スープはまだ持ちそうです~」

「了解、追加が増えそうだ。海老の下処理も頼む!」

「お任せを~!」


 ひー。

 こりゃもう戦場だ!

 鉄火場だ!


 作っても作っても次から次へと注文が入りまくる。

 何人いるんだよ女神って!

 とっくに百人前は作った気がするぞ!


 いかん、丼が足りなくなりそうだ。


「フラン! ミリィ! 少しでも手がいたら食器洗いも頼むぅ!」

「えぇー! 無理よ!」

「いえ、私はアキトさんのために頑張ります」

「点数稼ぎする気!? 私もなんとかするわアキト!」


 愛(?)されてるねぇ俺。

 なんだか打算的にも思えるがな。


「アキトさん! スープは残り5杯ぶんです~!」

「わかった! どっちみちそろそろ営業は終わるから作らなくていいぞ!」

「はい~!」

「アキト! 天ぷら2追加!」

「天ぷら1、たぬき2追加です!」

「あいよ! これで打ち止めだ!」


 厨房も戦闘。

 食堂も戦闘。


「あぁーん! 美味しい美味しい美味しいー!」

「ねぇ、作った人を連れて来てよ! キスしてあげたいの!」

「それはダメ!」

「あたしさぁ、ここの料理人と結婚したいんだけどぉ」

「あり得ません。とっとと帰ってください」


 ジリリリリリリリリ


 そしてようやく長かった闘いの終わりを告げるベルが鳴ったのである。


「…………うへぇー、やっと終わったぁー」

「ヒィ、ハァ、つ、疲れたわ……」

「いつにもまして多かったですね……」

「きゅう~」


 ぐったりと四人並んで厨房の床にへたり込む俺たち。

 と、とんでもねぇ激戦だったぜ……邪神サーディスがかわいく見えらぁ。


「お疲れ様でしたアキト、フランシア、ミリアリア、ユエル」


 モフンと転移してきたのはアストレアさんだ。

 ねぎらいにでもきてくれたのかな。


「あなたたちの奮闘、素晴らしいものでしたよ」


 珍しくニッコリと笑う彼女。

 おお、笑うとかわいいなぁ。


 ん?

 よく見るとアストレアさんの口元に天かすが付いてる。


 あなたも食べてたんですか!?

 居たことすら全然気付けなかったんですけど!?


「けふっ、失礼。とても美味しい料理に、上のかたがたもご満足なさっておられました」

「ええ!? 来てましたっけ!? うわー、どの人だったんだろ……」

「そう言えば上の人って見たことないわよね」

「ですね」

「ないですねぇ~」


 お前らもないんかい!

 実は存在してないとかじゃねぇだろうな。

 概念的存在とかさ。


「そのうち会うこともあるかもしれませんよ。では、ご馳走様……こほん。皆さんお疲れ様でした」

「「「「お疲れ様でしたー!」」」」


 口元をぬぐいながらヒョインと転移していくアストレアさんを見送った。


 ふー。

 取り敢えず。


「新メニュー大成功! ってことで、乾杯しようぜ!」

「私ビール!」

「いけませんよフラン先輩。まだ勤務時間です」

「ちぇー」

「ジュースならありますよ~」

「じゃあそれで!」


「「「「かんぱーい!!」」」」


 この日、またしても最高来客数と最高売り上げを共に更新した。

 神界に新たな伝説を打ち立てたのである。


 すいません。

 言ってみたかっただけです。

 すいません。



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