030 銀髪女神の逆襲
魔界。
それは神界と対を成す存在。
光と闇。
神界に女神が在り、魔界には魔神が在る。
魔神は数多ある世界を滅ぼさんとし、女神は滅びに向かう世界を救わんとす。
太古から連綿と紡がれる、神々の闘い。
「ふーん。魔界なんて本当にあるんだな」
「接近は数百年ぶりの珍事だってアストレアさんは言ってたけどねー」
「数百年……なぁ、前から聞きたかったんだけど、フランって何歳なんだ?」
「お、女の子に年齢を聞くなんて最低よアキト! ……永遠の17歳です!」
「嘘こけ……そりゃ見た目だけだろ……ふわぁ~ぁ」
寝る前のピロートーク。
とは言っても、別にエッチなことはしてない。
ヘタに手を出して主神様に怒られるのも嫌なんでな。
……すみません。
時々フランが寝てる隙におっぱいは触ったりしてます。
い、いいだろそれくらい!
健全な男子なんですから!
俺だって色々我慢してんだよ!
「アキトー、なに一人でうめいてるの? ほら、おやすみのチューしようよ」
「あ、あぁ」
「んっ…………えへへ」
「ははは」
俺たちは付き合いだしてからと言うもの、寝る前と起きた時に毎度キスを交わしているのだが、これがいまだに慣れない。
どうしても照れくささのほうが先に出ちまう。
フランもそう感じているようだが、お互いにこれをやめる気はない。
だって愛してるしな。
……バカップルで、すみません。
「じゃあ、おやすみアキト」
「ああ、おやすみ」
フランが俺の胸に顔を埋める。
俺は彼女を抱きしめるようにして眠った。
何者にも俺たちの仲を引き裂かれまいとする意思表示でもあるのだ。
それがたとえ、神や悪魔であろうとも。
翌朝、始業前の朝礼。
「えー、本日の予定ですが、ミリィは子羊の裁定を、フランは書類整理、俺とユエルで新メニューの最終調整をします。各自業務に励んでください。以上、朝礼終わり」
「はぁ~い。了解です~」
「「ブーブー」」
言わずともわかるだろうが、親指を下にしてブーイングをかましているのはフランとミリィだ。
こんな時だけは息もピッタリなのね。
「俺の采配に文句があるなら聞こうじゃないか」
「私はアキトのそばで仕事がしたいです! ユエルと二人きりにさせるのは心配なので!」
「どう言う意味!? 俺は何もしないよ!?」
「私もアキトさんと……いえ、アキトさんがユエルにイタズラしないか心配です」
「するかっ!」
「わたしはどんなイタズラされてもかまいませんよ~」
「話をややこしくするなユエル!」
完全にイチャモンだ。
だが、フランの金髪アホ毛とミリィの銀髪ツインテが、ピコピコ動いて憤慨を表している。
あー、もうわがままさんたちめ。
「じゃあ、こうしよう。俺が一時間ごとに三人を手伝うよ」
「えぇ~! せっかくアキトさんとゆっくり仕事ができるチャンスでしたのに~!」
「うーん、しょうがないわね。それで妥協してあげるわ。でも、私の時は長めにいてよアキト」
「チッ……一時間ですか……短いですね……」
「今、チッて言った!?」
ジリリリリン
「ほれ、始業ベルだ。仕事始めるぞ!」
渋々といった感じで各々(おのおの)の持ち場へ向かう三人娘。
部長とは言え、こいつらをまとめなくちゃならない俺の苦労も給料に反映してくれればいいのに。
昇進したはいいが、ほとんど昇給がなくてガチ泣きしたよ。
全く、どこまでブラックなんだか……
俺は、食堂部の合併に伴って新設された扉を開ける。
このドアは、我が救済部長室と食堂を直接つないでいるのだ。
同時に、元々あった食堂部の事務室機能は救済部長室内に移設された。
ま、部長室はだだっ広いからそれでも余裕はありまくるんだけどね。
厨房では既にユエルが下ごしらえを始めていた。
昆布と鰹節でダシを取っている。
とてもいい香りだ。
うん、手際もだいぶよくなったな。
教え込んだ甲斐があったよ。
俺もエプロンをつけ作業をしていると、あっと言う間に時間が過ぎた。
「ねーえー! アキトー! まだなのー!?」
扉の向こうからフランの声がする。
あれ、もう一時間か。
俺はユエルに後を託し、部長室へ戻った。
そこには書類の山に埋もれたフラン。
必死にハンコを押しまくっている。
「うへ、今日はまた随分と多いな」
「うん、早く手伝ってー。子羊たちがすっごい人数きてるのよ。だから書類も増える一方なんだって」
「ん? それって裏を返せば大量に亡くなってる人たちがいるってことじゃねぇのか?」
「かもねー。上はなんにも教えてくれないけど、もしかしたら魔界の接近と関係あるかもって噂は聞いたわ」
「マジかよ。ろくでもねぇな魔界ってのは」
俺もフランの隣でハンコを押しまくる。
くそ、これじゃイチャイチャする暇もない。
おっ、この子羊、かわいいな。
んー、でもフランの勝ち!
なんつってな。
うわ、こんな小さい子まで亡くなってんのか。
かわいそうに。
親御さんも、さぞ嘆いているだろう。
天国へ行けたのがせめてもの救いとなればいいが。
「しかし尋常じゃない人数だな……これじゃ今頃、子羊の裁定をしてるミリィもヒィヒィ言ってるんじゃないのか?」
「あはは、そうかもね」
そんなことを話していた時。
ガッシャーン
突然、ミリィが執務中であるはずの課長室から豪快な音が響いた。
「なに!? なんなの!? 天変地異!?」
「んなわけあるか。フラン、ここにいろよ。俺が見てくる」
「うん、気をつけてね」
俺は素早くドアに近付き、内部を探った。
特に物音はしない。
俺はそっと扉を潜る。
「えぇ!?」
椅子から転げ落ちたものか、気を付けの姿勢のままうつ伏せになったミリィが床にいたのだ。
やたら不自然!
そう思ったが、慌てて駆け寄る。
病気とかなら一大事だしな。
「おい! 大丈夫かミリィ!?」
声をかけながら仰向けに抱き起こすが、反応はない。
「おい……むぐっ!?」
「んっ……んんー!」
俺が顔を近付けた途端、ミリィに唇を塞がれた。
なっ!?
ちょっ!?
なんで俺はミリィにキスされてんだ!?
ってか、ベロ入れんな!
「ぷはぁっ! ……ふふふ、かかりましたねアキトさん」
「どういうつもりだこれは!」
俺の問いには答えず、妖艶に笑うミリィ。
いつもは幼く見える顔が、今は小悪魔に思えた。
そして爛々と輝く真紅の瞳。
背筋にゾクリときてしまう。
これでは女神と言うよりサキュバスだろ!
「アキトさん。フラン先輩と恋人になったでしょう?」
「ぐっ!」
やっぱりバレバレだったか!
まぁ、そりゃそうだよなぁ。
「イチャついてるお二人を見ていたら、私の中の秘めた想いが爆発したんですよ。なので、責任を取ってください」
「なんの!? あと、イチャついてねぇ!」
「これほどまでにあなたを好きになってしまった私への、ですよ」
「無茶振りだ! 俺にはフランがいるし!」
「問題ありません。神界において重婚に関する規定はありませんから」
「問題だらけだよね!? しかも重婚て! ん゛ん゛ーーー!!」
有無を言わせず押し倒され、俺の顔を固定し唇を貪るミリィ。
引き剥がそうとするも、全く離れない。
すごい力だ!
こいつ、神力を全開にしてやがる!
吸引力もすごい!
俺の唇がもげちゃうー!
「アキトー、ミリィー、大丈夫ー? …………ああああぁぁぁーーー!? こらぁ! 離れなさいミリィ! 離れてよ!」
「アキトさん~、そろそろ厨房に…………えぇぇぇ~~~~~!? わたしのアキトさんになんてことしてるんですか~!?」
やばい!!
フランとユエルに見られた!!
言い逃れなんてできそうにない!
でも、俺は悪くないんだ!
フラン、信じてくれぇーー!




