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029 吸収合併!?


 今日も今日とて忙しい。


 午前中は迷える子羊たちを裁定し、お昼ともなれば食堂部にてメシを作りまくる。

 てんてこ舞いの時は過ぎ、満腹女神たちが去った頃。


 俺たちは四人揃ってまかないメシを喰らうのだ。

 ようやく訪れた憩いのひととき。


「フラン、賄い上がったよ。テーブルに運んでくれ」

「はーい、あ・な・た」

「「……」」


 俺とフランのやりとりを、ミリィとユエルはスプーンを咥えたままジト目で見ていた。

 お行儀悪いぞ幼女たち。


 その理由になんとなく察しはついたが、俺は敢えて黙りこくる。

 二人も、俺たちの間に流れるおかしな雰囲気を察知しているはずだ。


「アキトのオムライス美味しいね! さっすが私の旦那様!」

「フラン、ほっぺにケチャップついてるぞ」

「なめてなめてー」

「人前でなめるかっ!」

「えぇー! アキトの恥ずかしがり屋さん!」

「「………………」」


 突き刺さるような二人の視線が痛くてしょうがねぇ。

 別にフランと恋人同士になったのを隠してるわけでもないんだが、何となく言い出しにくい。

 てか、たぶんバレバレだろこれ。


 フランも自分から話すことはなさそうである。

 きっと俺が言うのを待ってるんだろう。


 別にギクシャクしている様子もないし、取り敢えず放っておこう。

 どうせ話す時は必ず来る。


 むしろ俺のほうが浮かれないようにするので精一杯なんだがな。

 なにしろ初めてできた彼女だし。

 しかも女神だし。


 当然、すっげぇ嬉しいんだけど、どうやって女の子と付き合えばいいのかまるで勝手がわからない。

 ずっと非モテ人生だったからね。

 それでも、フランが前以上に笑顔を見せてくれるんで、俺は満足している次第です。


 俺が驚いたのは、付き合い始めてからと言うもの、やたらと甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくることであった。

 フランってば、意外と尽くすタイプだったんだな。

 勿論、それもすごく嬉しい。


 もうね、恋人がいるってだけで、世界が変わって見えるほどだよ。

 何て言うんだろ。

 いつもより太陽がまぶしかったり。

 なんでもない風景がやたらと綺麗に見えたりするんだよね。

 恋とはなんと不思議なんでしょう!


 って、俺は乙女かっ!


 今なら悪役令嬢ヌァリアンヌが恋に狂った理由もなんとなくわかりそうな気がする。

 ……ごめん、やっぱりわかんねぇや。


 まぁ、そんなわけで、リア充気分を満喫している俺なのです。

 精々振られないように気を付けないとな。


 ちなみに、ちょっとだけチューしてみたりもしました。

 いやん!

 青春!


 ところで、ミリィとユエルにまだジーッと見られてるんだけど。

 早く食わないと俺の特製オムライスが冷めちゃうだろ。


「ミリィ、ユエル。オムライスは口に合わなかったか?」

「えっ!? いえ! とっても美味しいですよ! ガツガツ!」

「は、はぃ~! 美味しいれふ~! んぐむぐ」


 慌ててかきこむ二人。

 焦って食べると喉に詰まるぞ。


 俺のオムライスの話なんだが。

 よくトロトロ半熟卵を乗せてるのがあるじゃないか。


 はっきり言って、あんなもんは邪道だ。

 あれではせっかくのチキンライスがベチャっとしてしまう。


 俺のはしっかり焼いた薄焼き卵でライスを覆う。

 このほうがむしろ卵とライスの一体感を味わえるのだ。


 って、こんな話どうでもいいか。


「悔しいですが非常に美味です……はぐはぐ」

「なんで悔しがるんだよ。ありがたがって食えミリィ。そして農家の方々に感謝をだな……あー、この食材を出したのはユエルだった。なら、豊穣の女神に感謝を捧げよう」

「そんなぁ~。照れちゃいますよ~。お礼ならチュ~してください~」

「おっとぉ、それはこのフランシア様が許さないわよ」

「このミリアリアちゃんも許しませんとも」


 やっといつも通りの様相を呈してまいりました。

 仲良きことは美しき哉。


 などと、和んだその時。


 ピンポンパンポーン


「救済部と食堂部のかたは、至急神事部へおいでください」


 チャイムとともに用件だけが、どこにあるかもわからんスピーカーから告げられた。

 うへぇ、呼び出しかよ。


「まさか昇進!? やったねアキト!」


 ガタンと椅子を蹴って立ち上がるフラン。

 その手にはスプーンが握りしめられたままだ。


 とっくに皿は空っぽだろ。

 どんだけ食い意地張ってんだ。


「それはないだろう。ここんとこまともな業績をあげてるわけでもないしな。むしろ怒られるんじゃねぇの? お前ら陰でなにかやらかしたとかじゃないだろうな」

「失敬ですよ! 私はアキトさんの部屋からちょっとおまんじゅうを取って来ただけです」

「やらかしてんじゃねぇかミリィ! 返せ!」

「残念ですが、既に消化済みです」

「く、なんてことを……人気店のまんじゅうだったのに……」


 ドヤ顔のミリィを恨めし気に見ることしかできない。

 楽しみに取っておいた俺がバカだった。


「ともかく、呼び出された以上は行ってみるしかないんじゃないでしょうか~?」

「ああ、ユエルの言う通りだ。アストレアさんを待たせたら怖そうだし」


 俺の言葉に一も二もなくうなずく面々。

 こりゃアストレアさんは他の女神たちから相当恐れられてるな。

 俺ですら怖いと思うもん。

 美人なのに損してるねぇ。


「んじゃ、怒られるの覚悟で行くか」


 覚悟の分だけダメージは減るものだ。

 俺たちは歯を食いしばりながら転移した。


「……」


 神事部長室で待っていたのは、当然ながら部長のアストレアさんだ。

 開口一番で怒鳴られると思っていたんだが、なにやら難しい顔をしている。


 あらら、普段はキリッとした眉毛も少し下がっているじゃないか。

 なにか深刻な事態でも起こったんかな。


「あのー、アストレアさん? 救済部部長、火神秋人参上しました」

「あ、あぁ、ごめんなさい。少し考えことをしていたわ。良く来てくれましたね皆さん」


 あるぇ?

 意外と柔和だ。

 フランたちもホッとした表情になってる。


「あなたがたを呼んだのは、ある意味で神事異動をしていただくためです」

「はぁ……はい!?」


 俺たちは顔を見合わせるしかない。

 みんな一気に不安げになってる。


 だってさぁ、神事異動ってぶっちゃけたら人事異動だろ。

 つまりは配属される部署が変わるってことだよな。


 誰が!?

 どこに!?


 ないとは思うが、俺はフランと離れるなんて嫌だぞ。

 てか、ミリィがいなくなるのもお断りだ。

 豊穣の女神ユエルがいなくなったら、食堂の食材はどうなる。

 誰が欠けても業務に支障をきたすぞ。


 そんな顔するなフラン。

 無茶苦茶なことを言い出したら、俺がビシッと啖呵きってやるからな。

 ……倍返しされそうだけど。

 

「フフ、大丈夫よ。そんなに不安そうな顔しないで。あなたたちにとってはそんなに悪い話ではないから」

「そう、なんですか?」


 つい恐る恐る聞いてしまう俺。

 なんでかアストレアさんには腰が引けてしまう。

 フランとある意味で繋がってるからかもしれんな。

 前に苦手だって言ってた気がするし。


「今回は救済部と食堂部の合併についてです」

「「「「合併!?」」」」

「ええ、今後は救済部食堂課として豊穣の女神ユエルを救済部へ異動するものとなりました。食堂に回せる女神がいなくてね。上も苦肉の策を取ったみたいです。頑張りなさい、ユエル」

「は、はぃ~! 精進いたします~!」

「これからもよろしくな、ユエル!」

「はい~! こちらこそです~! これからはアキトさんとずっと一緒にいられますね~!」

「これは喜んでいいのかしら……」

「うーん……難しいところですね……」


 複雑な表情になったフランとミリィはともかく。

 ユエルはピョンピョン跳ねて喜んでるんだからいいじゃないか。

 せっかく新メニューも考えたんだしよ。


「そして、あなたたちにちょっとした情報をリークしてあげましょう」

「へ? リーク?」

「美味しい食事を考案してくれたあなたに対する感謝だと思っていいわよ」

「は、はぁ」


 真面目な顔で切り出すアストレアさん。

 もしかしたら、これを言うために俺たちを呼んだのだろうか。


 随分優しくなったもんだ。

 いや、元々優しい女性ひとだったんだろうけど、フランの先入観で俺が見抜けなかっただけかも。

 結構かわいいところもあるんだよな。

 こりゃあ、見る目も変わっちゃうね。


「観測部からの情報です。魔界の接近により、数多ある異世界が不安定になっています。そして、運命部からの情報では、いくつかの世界に危機が訪れつつあるようです。近々出張業務が発生する可能性もあるので心構えをしておきなさい」


「魔界!?」



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