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028 初めての告白


「ここで鰹節を入れるんですかぁ~?」

「いや、違うよ。先に昆布でダシを取るんだ」

「あぁ~、なるほどぉ~」


 俺はユエルを膝に乗せ、二人で新メニューを作るべく思案していた。

 今はまだ爆売れ中の焼鮭定食とおにぎりセットだが、たった二種類では今後が心配なんでな。

 

 あれからと言うもの、ユエルは事あるごとに救済部へ来るようになったのだ。

 しかもやたらと俺にベッタリしている。

 名目上は料理の質問らしいのだが、その本意はわからない。


 兄貴だと思って懐いてるだけかもな。

 俺も妹が出来たみたいでなんだか嬉しいからいいんだけどね。


 邪推はしないでくれよ。

 いやらしい気持ちなんて少しも……いや少ししかないんだからさ。


 キ、キ、キスしちゃったことはいったん忘れよう、な?

 あれはユエルが間違った知識を覚えてただけなんだよきっと。

 うん、そうだそうだ。


「お兄ちゃ……間違えました~、アキトさん~これなんてどうでしょう~?」

「はい、お兄ちゃんです。あー、それって確かに美味いんだけど、食堂向きではないと思うんだよな」


「……ねぇ、ミリィ。ユエルはあざとすぎない……?」

「ですね……あれは完全に狙っての発言です。ウブなアキトさんではコロッと引っかかりますよ」


 おーい、聞こえてんぞフラン、ミリィ。

 俺がチラリと視線を向けると、サササッと事務室の隅っこへ移動する二人。


「……ミリィはアキトのこと、どう思ってるの?」

「なっ!? べべべべ、別になんとも思ってませんよ! ええ、思っていませんとも。ただの上司ですから」

「ふーん、そうなんだ」

「フラン先輩こそどうなんですか? それほどまで気にするってことは、やっぱりアキトさんを……」

「えっ!? え、えーと、一蓮托生? そう! 一蓮托生だから一緒にいるだけよ」

「へー、じゃあ、もし私がアキトさんとお付き合いすることになったとしても……」

「それはダメぇ!!」


 何をごにょごにょ言ってるんだあいつらは。

 ひっそりと生きるダンゴムシみたいに隅で丸くなってやがる。

 観葉植物の周りに集うなよ。

 妙なオーラで枯れそうだからな。


「おにいちゃん~」

「なんだいユエル」

「ちゅ~してもいいですかぁ~?」


 頬を染めて俺を見上げるユエル。

 思わずいいよと言いそうになった。

 ────が。


「調子に乗るんじゃありませんよ、このガキャぁ……」

「これ以上私を怒らせないほうがいいわ……それとも血を見たいのかしら?」

「ひぃっ!?」


 いつの間に接近したものか、フランとミリィが蒼と真紅の瞳だけをギラギラと光らせ、ユエルの小さな頭をガッシと鷲掴みにしていた。

 その眼光たるや。

 俺までチビってしまいそうなほどの迫力に満ちている。

 ゴゴゴゴゴと言う効果音まで聞こえてくるようだ。


 おっかねぇぇぇ!

 ちなみに情けない悲鳴を上げたのは俺ね。


「ちょっ、いたっ、いたたたた~っ! 愛する人にキスをしてなにがいけないんですぅ~!? わたしもちゃんと男女について勉強したんですから~!」

「「「愛!!??」」」


 有り得ない発言に、つい俺まで叫んでしまった。

 ユエルが俺を?

 マジで!?


「おにい……いえ、アキトさんはとっても優しいですし~、かっこよく食堂部を救っていただいたんですよ~? 好きにならないはずないじゃないですかぁ~! それともお二人はアキトさんが嫌いなんですかぁ~!?」


 驚きだ。

 まさかそんな風に思われていたなんて。

 女の子の、ましてや女神の心の機微が、俺なんぞにわかるはずもないが。


 とうとう俺にもモテ期がきたのか!?

 でも、相手が人間の女性じゃなく女神ってのは、業が深いとしか言いようがない。

 もしかしたら俺は前世あたりでなにかやらかしたのかもな。


「嫌いなわけ、ないよ……アキトは私がつらい時も楽しい時もずっと一緒にいてくれたもの。そんな人を嫌いになれるはずがないわ! あと、美味しいご飯を作ってくれるし!」

「私もです。ちょっとエッチですけど、勇敢で私たちのことを一番に考えてくれるアキトさんを嫌えるはずがありません! あと、美味しいご飯を作ってくれますし!」

「俺の存在価値は飯だけかっ!!」


 どうせそんなこったろうと思ってましたよ!

 ちょっとだけ期待した俺がバカでした!


 あれ?

 俺は期待をしていたのか?


 そりゃ、こんなかわいい子たちに好かれたら悪い気なんてするわけもない。

 当然俺はフランもミリィもユエルも好きだ。


 特にフラン。

 全ては彼女と出会ったことから始まった。

 フランの言う通り、つらい時も、楽しい時も、異世界へ行っても。

 ずっとお互いが隣にいたんだ。

 まるで寄り添う宿り木のように。


 笑うフラン、泣くフラン、照れるフラン、怒るフラン。

 その表情、全てがこんなにも愛おしい。


 うん。

 どうやら俺は、ずっとフランに恋してたみたいだ。

 初めて会った、あの日から。


 ま、薄々感じてはいたけどな。


 俺は、我ながら似つかわしくない決意を固めた。



 その日の夜。


 場所は俺の部屋。

 就寝前の穏やかなひと時。


「あー、さっぱりしたー。今日も疲れたねー」


 ブオオーとドライヤーで髪を乾かすフラン。

 普段と変わらぬ光景なのに、今夜は違って見える。


 あー、やべぇ。

 緊張で心臓が口から飛び出しそうだ。


「さー、寝ましょう。今夜はちょっと冷えるわね。ね、もうちょっとそっちに寄ってもいい?」

「あ、ああ。どうぞ」

「わーい、あったかーい」


 ベッドへ入ったフランが、何かを察知したように俺のほうへ身を寄せてくる。

 少しだけ触れ合う柔らかな女体に気を取られている場合ではない。

 もう一度言うべきセリフを脳内シミュレーションしておこう。


「アキト」

「え? あ、な、なんだ?」

「あ、あのね……昼間の話あったでしょ? ……あの時はユエルに煽られてあんな言いかたになっちゃったんだけど……私ね、本当は……」

「ストップ」

「!」


 俺は人差し指をフランの唇にあてた。

 いくら俺がヘタレでも、フランにこの先を言わせるわけにゃいかんでしょうよ。


 さぁ!

 玉砕しても悔いはない!

 思い切り当たって砕けてこい俺!!


「俺もあの一件から考えてたんだ。俺にとってフランはどんな存在なのかなってな。そしたらさ、次々と浮かんでくるんだよ、お前の顔が。そのどれもが、とてもいとしかったんだ。驚いたよ、俺はこれほどまでにフランが好きだったんだなって」


 俺の言葉を黙って聞いているフラン。

 その表情を確認するのが怖くて、俺は目をきつく閉じてしまった。

 情けねぇよな。

 でも最後まで言わせてもらうぜ。


「前に、フランは『私と恋人になりたいんだ?』って聞いたよな。今なら堂々と言える。俺はフランが好きだ。大好きだ。だから俺の恋人になってくれないか?」


 やった!

 言い切った!

 結果はどうあれよく言えた!

 恥ずかしくて今すぐ首を吊りたいくらいだけどな!


 ……あれ?

 返事がない。ただのしかばねのようだ。

 じゃなくて。


 俺は恐る恐る目を開けた。

 そこには恥ずかしげだがニッコリと笑うフランの顔が。

 そして、はっきりとこう言ったのだ。


「はい」



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