026 予算すら残ってないってよ
俺たちは奥にある食堂部の事務室へ移動した。
ユエルに頼み、関連書類を出してもらう。
事務机に並べられたそれらを、俺とミリィで読み漁った。
フラン?
フランならそこで昼寝してるよ?
どうせ資料を見ても適当なことしか言わないだろうし、寝顔がかわいいからこのまま寝かせておこうぜ。
「なぁ、ユエル。資料だと結構予算の割り当てがあるはずなんだけど、なんでこれを食材に使わないんだ?」
「あぁ~、それはですねぇ~。最新の機材に全部使ってしまいましてぇ~」
「全部!? アホかっ! 道理で厨房がピカピカなわけだよ! あれ新品ばっかりだもんな!」
「はぃ~、ローンを組んでありますので~、毎年予算が残らないんですよ~」
「なんてことしてくれたの!? くっそ、こりゃいきなり厳しいぞ。食材の仕入れすらできないなんて……」
俺の計画がしょっぱなから頓挫したよ。
金がなきゃ立て直すどころか何かを始めることもできんぞ。
俺はうめきながら頭を抱えた。
どうする、どうするよ俺。
今更やっぱり救済できませんとは言えないっての。
「アキトさんの計画としては、予算を使って食材を仕入れ、美味しい料理を作ってお客さんを増やそうという、シンプルながらも合理的な考えですよね? それは素晴らしいと思います」
「お、おう、よくわかったなミリィ」
てか、珍しく褒められた?
なにこれ、こいつはデレ期にでも入ったの?
「ならば、私の思いついた方法をアキト計画に加味してもよろしいですか?」
「是非もなし。思い切りやっちゃってくれ……アキト計画? へっぽこ極まるネーミングだな」
「自分で自分をけなすとは流石ですねアキトさん。では、ユエル。あなたが主役ですよ」
「わたしがですかぁ~? なんだか照れますねぇ~」
かわいらしくモジモジするユエル。
うーん、食べちゃいたい。
はっ!?
これではまるで変態じゃないか。
「まるで、ではなく完全な変態ですよ。このキモ野郎」
「暴言! あと、俺の心を読むなミリィ!」
くそ、なんでバレたんだ。
巧妙に隠しきったはずなんだが。
「顔に出すぎですから」
「また読んだの!? もうやめて!」
「で、ユエル。この計画にはあなたの神力が必要です」
「はややぁ~、そうなんですかぁ~」
無視!?
前言撤回!
ミリィにデレ期なんてなかった!
「ん? 神力?」
「はい、名付けて『予算がないなら食材を神力でつくってしまえばいいじゃない計画』です」
「なっっが! マリー・アントワネットかお前は。って……どう言うこと?」
「アキトさんはフラン先輩並みに察しが悪いですね。脳になんらかの疾病があるのでは?」
「失礼だよ!? 本当にフランを敬愛してるの!?」
「勿論ですとも。アキトさんのことも最近では敬愛していますよ」
「そ、そうですか。それはうれしいです……」
「主にご飯を作ってくれる時とかですね」
「目的はメシだけかっ!」
ダメだ。
ミリィと話してるとツッコミが止まらない。
「アキトさん。お忘れですか? ユエルが何を司る女神かを」
「あ、そうか! ユエルは豊穣の女神だったな。ふむふむ、なるほど、いい手だ」
「でしょう? えっへん」
薄い胸をそらすミリィは放置して、俺は考えに耽る。
ユエルに食材を出してもらえば確かに予算面はクリアだ。
ただ、どの程度の物を出せるのだろう。
そうだよ。
問題は味だ。
「ユエル、ちょっと神力で米を出してくれないか?」
「米、ですかぁ~? 確か、遥か昔にそのような食材の名を聞いた気がしますねぇ~」
「記憶を引き出すとこから始めるの!? じゃあ、家畜の肉なんかは?」
「お肉……食べたことがないですぅ~」
「マジで!? 女神ってのはどうやって生きてきたんだ!」
「それはほら~、さきほどのスペシャル女神丼が~……」
「物体Xの話はもういい! しかし困ったな。手詰まり感がする」
いっそのこと、俺が日本から食材を仕入れるか?
あああ、ダメだダメだ。
そもそも予算がないからこんなに困ってるんだった。
「ふぁ~、よく寝たぁー。おはようアキトー」
「おう、おはよう」
ようやくフランのお目覚めだ。
まぁ、起きたところでなにも事態は変わらないんだけど。
「ねぇねぇ、なに難しい顔してるの? ねぇねぇ、ねぇってばぁ」
そして起きたら起きたで、なんにでも首を突っ込みたがる。
あまりにもうるさいから仕方なく今の状況を説明してやった。
「なぁんだ。そんなの簡単じゃない」
「「「はい!?」」」
こりゃまた意外なことを言い出す。
俺たち三人がかりで出なかった答えをフランがぁ?
ははは。
「アキトがイメージして、それをユエルが具現すればいいのよ! 私とアキトでいつもやってるじゃない」
「「「!!!」」」
驚愕に目を剥く俺たち。
それだぁ!!
うわー、何でそれを思いつかなかったかなぁ!
「ナイスアイデア! よくやったぞフラン! 今夜はうまいもん食わせてやるからな!」
「わーーい! やったーーー!」
「ちょっ、それには私も含まれていますよね!? アキトさん! 聞いてますか!? お願いですから私を捨てないでください……!」
すがりつくミリィを無視しながら、ユエルと手を繋いだ。
はっはっは、さっきのお返しだミリィ。
「ユエル、俺のイメージ通りに頼むぞ?」
「は、はぁい。男の人と手を繋ぐのは初めてなので緊張しますねぇ~、大きくてとってもあたたかいですぅ~、へへへ~」
やたらかわいいこと言ってる。
せっかくなので、俺もちっちゃくて柔らかなユエルの手を堪能しておこう。
おぉ~、ぷにぷに~!
「「ロリコン」」
「ちがわい!!」
ジト目のフランとミリィからすかさずツッコミが入った。
そ、そんな邪念は決してないんですぅ!
いかん、ユエルの口調が移った。
俺は気を取り直して、イメージを喚起させていく。
まずは形。
米粒の形状。
そして精米歩合は90%だ。
味は当然、コシヒカリの新米!
「いいぞユエル、やってくれ」
「はぁ~い、いっきますよぉ~!」
ザザーーーッ
「おっとっとー!」
ユエルの手から噴き出る米を、ザルを持ったフランが、ドジョウすくいみたいな奇妙なポーズで受け止める。
俺のイメージは五合分、700~800グラムだ。
「わー、綺麗なお米ー!」
「本当ですね、既に美味しそうです」
まだ生米だぞ。
食うなよ?
俺はすかさずその米を研ぎ、一度も使われた形跡のない炊飯器に入れた。
米ってのは精米したてが美味いんだ。
だからすぐに炊くのさ。
しかし、こんな最新式の炊飯器があるってのに、ユエルは何に使うのか疑問に思わなかったんだろうか。
もしかして、形から入りたがる子?
機材だけ揃えて満足しちゃうとか?
しばらく待ち、炊き上がった米を茶碗に盛る。
さぁ、味見だ。
ほっかほかの米を口に含む。
うむ、我ながらなかなかの出来。
「んー! 美味しいー! あまーい! さすがアキトだわー!」
「これはヤバいですよ。ご飯をおかずにしてご飯を食べられるほどです。悔しいですがアキトさんはすごいですね」
「こ、こ、こ、こ、こんなに美味しいものが存在してたんですかぁ~~~~~!?」
フランとミリィはともかく、ユエルの驚きようがすさまじい。
目を白黒どころか、完全に白目を剥いてる。
おいおい、気を失うなよ?
本番はこれからだぞ。




